新宿戒厳令
○新宿駅ホーム/朝
通勤ラッシュ。
大勢の人々が往来するプラットホーム。
○新宿駅の西口方面にあるプラットホームを望めるビル・外観/朝
カーテンが閉められたままの一室。
カーテンが少しだけめくれ、そこから外を見ている町田弘(34歳)の姿。
○新宿駅西口方面からプラットホームを望めるビル・室内/朝
サラリーマン風のスーツ姿の町田が椅子に座ったまま、外を見ている。
町田は壁に立てかけられたサイレンサー付のライフルを手にとる。
町田はライフルのスコープを覗き込み、新宿駅のホームを行き交う人々に照準を定めて発砲する。
町田は淡々とライフルを撃ち続ける。
窓の外、遠くから女性の悲鳴が聞こえる。
町田はライフルの弾薬が切れると、椅子脇のテーブルの上に置いたボストンバックから新しいカートリッジを取り出し装着、再び発砲を続ける。
窓の外、遠くから駅のベル音、駅員のホイッスル音、悲鳴、怒号、叫び声が聞こえる。
町田の床には大量の薬莢と空になったカートリッジが転がっている。
窓の外からスピーカーの音声が聞こえる。
スピーカーの声「こちら新宿駅です。ただいま、当駅ホームにて発砲事件が発生している模様です。構内のお客様は駅員の指示に従って、速やかに移動をいたくようお願いいたします。現在、警察、救急車を要請をしていおり、到着次第、捜査、救命活動に当たります。なお、現在、当駅を通過する全ての列車の運行を中止しております。係員の指示に従って下さい」
町田はライフルを置き、椅子から立ち上がり、部屋から出ていく。
○新宿駅プラットホーム/朝
各路線のホームには乗客、駅員ら大量の負傷者たちが残されている。
○新宿駅・西口方面/朝
新宿駅の喧噪が町中にも伝わり、慌ただしく人々が行き交っている。
町田が(最初のビルとは違う)ビルの中に入っていく。
○新宿駅西口が望めるビル・室内/朝
町田が部屋に入ってくる。
ビルの外から救急車、パトカーのサイレン音が聞こえる。
町田はテーブルに置かれたサイレンサー付きのライフルを手にとり、窓際の椅子に座る。
窓を少しだけ開けスコープを覗く。
スコープには新宿駅西口に集まった警察官、救助隊、大勢の野次馬たち、報道陣の姿、そして人込みと車両で大混雑が置きている様子が映る。
町田が群衆に向けてライフルを撃つ。
町田は切れた弾薬を次々と補充し、黙々と射撃を続ける。
窓の外から人々の悲鳴と怒号、車両のブレーキやクラクションの音、スピーカーの誘導音声、緊急車両のサイレン音が聞こえてくる。
町田は壁に立てかけていた別のサイレンサー付きのライフルに持ち換え、射撃を続行する。
○新宿駅・西口付近/朝
倒れ込んでいる大量の負傷者たち。
外にいた群衆は駅構内に逃げ込み、駅の出口は楯を持った機動隊隊員が固めている。
○新宿駅・東口付近/朝
封鎖された西口から避難してきた人々が道に溢れ出し、車両と共にごった返している。
警官たちが人々に地下街へ避難するようパトカーのスピーカーを使って指示を出しているが、地下街も人が詰まっており、大半の人は外に溢れている。
○新宿駅東口が望めるビル・室内/朝
高島純一(34歳)がカーテンを少しだけ開け、窓の外を眺めている。窓の外には新宿駅東口の様子が見える。
外から人々を誘導する警官の音声が聞こえる。
高島がテーブルの上のサイレンサー付きライフルを手に取り、窓の外へ向けて射撃を始める。
高島は、弾薬が切れると新たなカートリッジを装填し、淡々と射撃を続ける。
窓の外から聞こえる悲鳴、怒号、クラクション、サイレン、車の衝突音。
警官が群衆を誘導するスピーカー音。
警官の声「駅、地下街に入りきれない人は、建物の陰に隠れてください!建物に隠れて!」
○新宿駅西口が望めるビル裏口/朝
ビル裏口の戸が開き、町田が身をかがめて出てくる。
○新宿駅西口方面の路地/朝
建物に沿って身をかがめて移動している人たちが数人いる。
町田が人々と合流する。
町田が前の人に話しかける。
町田「何があったんですか?」
前の人「新宿駅で銃の乱射だそうです」
町田「本当ですか?」
前の人「血塗れで倒れてる人がいましたよ」
町田「通り魔?」
前の人「でしょうね」
後ろの人が町田に話しかける。
後ろの人「テロだってよ」
町田「テロ?」
後ろの人が耳につけたイヤホンを指さす。
後ろの人「ラジオでテロじゃないかって。(ラジオに驚いて)うそぉ、電車、地下鉄も全線運行停止、高速も全面封鎖」
町田「犯人が逃げてるんですか?」
前の人「どっから撃ってるんですか?」
後ろの人「乱射以外の情報は入ってきてないって」
町田「これ、どこに向かって避難してるんですか?」
前の人が辺りを見渡す。
前の人「たぶん、中央公園ですかね」
町田たちが身を伏せつつ進んでいく。
○新宿駅東口が望めるビル・室内/朝
高島が射撃の手を休め、腕時計を見る。
○新宿駅構内/朝
避難客たちで隙もない程に混み合っている。
女性客の泣き声、怒りの罵声が鳴り響く。
構内端の足下に置きっぱなしのスポーツバックがある。
バックから煙が漏れ始める。
バックの周囲の人々が煙に咳込む。
バックの近くの男が煙の出ているバックを手にとる。
バックのファスナーは開いており、バックの中で作動しているタイマーが見える。
男「爆弾!」
悲鳴と人混みをかき分けて我先に逃げようとする人々の罵声と怒号。
パニックの輪が駅構内、地下街に広がっていく。
○新宿駅・東口方面
駅構内、地下街に逃げていた人々が、一斉に外に飛び出してくる。
○新宿駅・東口方面の裏道/朝
逃げまどう人たち。
人々の波が通り過ぎた後、ビルから高島が出てくる。
高島が人々に合流し、紛れ込む。
○新宿/朝
上空を警察や取材のヘリコプターが飛び交っている。
新宿の街にヘリコプターのエンジン音が鳴り響いている。