クローゼットの中の恋人
○マンション外観/夜
高級マンション。
○マンション・エントランス/夜
中村孝弘(28歳)が郵便ポストを確認している。
住民がオートロックを開鍵し、住居棟に入っていく。
孝弘は住民の後をついて中に入る。
○中村宅・玄関/夜
孝弘がドアの鍵を開け、ドアを開けるが、ドア・チェーンがかかっており、最後まで開かない。
孝弘が玄関脇のドアホンを鳴らし、ドアホンに向かって話しかける。
孝弘「万里?万里いる?」
ドアの向こうで、ドタバタと音がする。
ドアホンから応答の声がする。
中村万里(29歳)の声。
万里の声「孝ちゃん、どうしたの?出張は?」
孝弘「早く終わったから、泊まらずに戻ってきた。何してるの?早くドア開けて」
万里の声「ちょっと待ってね」
ドアの向こうから走ってくる音が聞こえる。
ドアが開いた隙間から万里が顔を覗かせる。
万里「おかえり」
ドアが開く。
万里は裸の上半身にシーツを巻いた姿。
孝弘が万里の姿を見て、そのまま中に入っていく。
○中村宅・寝室/夜
孝弘が入ってくる。
後をついて、万里も入ってくる。
万里「どうしたの、孝ちゃん」
孝弘がベッド脇の棚奥に隠されていたスマートフォンを取り出す。
万里「なに、それ?」
孝弘はポケットから、もう1台スマートフォンを取り出す。
孝弘「ごめん、さっきの万里たちの話、聞いてた。男は、どこ?どこに隠れた?」
万里「やだ、孝ちゃん」
万里がクローゼットの方をチラッと見る。
孝弘「あそこ?」
孝弘がクローゼットの前へ行き、扉を開ける。
クローゼットの奥に、うずくまっている人影。
孝弘「出てこいよ、こら」
孝弘が腕を掴んで引きずり出す。
出てきたのは、エビ型の顔、鉛色の肌、6本腕の二足歩行の生物。
孝弘が驚愕の表情を浮かべ、音の出ない嗚咽の悲鳴を上げる。
エビが土下座をする。
エビ「すみませんでした」
×××時間経過×××
生物と万里が頭を下げて正座をしている。
孝弘が腕組みをして二人を見ている
孝弘「お前たちが愛し合ってるのはわかった」
二人はうつむいたまま。
孝弘「別れよう」
万里が顔を上げる。
孝弘「ただ、一つ、条件がある」
エビが顔を上げる。
孝弘「三人で記者会見をしよう」
万里「え?」
孝弘「離婚の原因をきちんとさせないと、こっちの仕事にも関係してくるし、それに(エビを見て)エビ型の宇宙人に寝取られたっていうのは、他の芸能人に寝取られるのと違って、デカイ話題作りにもなる」
万里「孝ちゃん、彼のことはそっとしておいてあげて、お願い」
孝弘「役者の仕事が順調に行き始めたってところで離婚の傷は大きいんだよ。原因を作ったのは、そっちなんだから、それくらいやって当然だろ」
エビ「もし、それで万里のことを許してもらえるなら」
エビが頭を下げる。
万里がエビの手を握る。
孝弘の心の中に声が届く。
声「だったら、僕も」
万里「やめて、もう」
エビ「君はいいよ」
孝弘「なんだ?」
万里「テレパシーを使うの」
ベッドの下から金色に輝くアメーバ状の生き物が出てくる。
アメーバのテレパシー「僕と彼で、万里さんを守っていきます」
○マンション・外観/夜
孝弘の叫び声「ぎぃぃええええー」