ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

かぐや姫

○公園(夜)
小高い丘の上にある人気のない公園。
超望遠レンズを装着した一眼レフのカメラが三脚の上にセットされている。
内瀬巧(19歳)が手にしたスマートフォンで、一眼カメラを撮影している。
巧が、いろいろな角度で一眼カメラ撮影をする。
巧がスマートフォンをポケットにしまい、一眼カメラを扱い始める。
一眼カメラは、デジタルカメラではなく、フィルム式のカメラである。
巧「全然、わかんねぇ」
巧の一眼カメラの操作は、全く要領を得ない。
巧がファインダーを覗き込むが、フォーカスが合わせられない。
巧「どうなってんだよ」
女性の声「見える?」
巧がファインダーから顔を離す。
巧「いやぁ」
女性は唯野圭子(41歳)である。
圭子「もう少しで全部隠れそうよ」
巧「昔のカメラなんで、全然使い方がわかんなくて」
圭子が一眼カメラを見る。
圭子「懐かしいカメラ」
圭子が一眼カメラに近づき、まじまじと見る。
巧「別に月食じゃなくてもいいんで、サンプルが撮れれば」
圭子は一眼カメラから目を離さずに答える。
圭子「サンプル?」
巧「これ、昔、父さんが使ってて、この間、似たようなのが、オークションに出てたのみたら結構高く売れてたんで、こんど売りに出そうかと思って。撮影サンプルがないと高く売れないでしょ、今でも動くっての見せないと」
圭子「お父さんが売ってもいいって?」
巧「父さん死んだんで、持っててもしょうがないし」
圭子が顔を上げる。
圭子「大事な形見じゃないの」
巧「自分にこういう趣味ないし、母さんも父さんの趣味には、いつも困らされてたから」
圭子が三脚の足下に置かれたカメラケースを見つける。
ケースには「UCHISE」というローマ字と天体観測所のステッカーが貼られている。
巧「宇宙キチガイで旅行やらカメラやらで、金ばっかり使ってたって」
圭子がケースを見ている。

○内瀬家/外観(夜)
巧が帰ってくる。

○同/居間(夜)
巧がテレビを見ている。
パジャマ姿の内瀬裕美(48歳)が入ってくる。
裕美「写真、撮れた?」
巧「全然。でも、売れるよ」
裕美「え?」
巧「公園でさ、天文マニアのおばさんから声かけられてさ、話するうちに、それ売ってくれって」
裕美「ほんとに?」
巧「ほんとに運が良くてさ、ちょうど公園まで、月食、見に来てて、偶然」
裕美「あんな古いカメラを欲しいって?」
巧「うん」
裕美「ホント、宇宙好きはモノ好きが多いんだって、父さんも毎週、毎週、空、見に行ってさ、母さんも苦労したんだから」
巧「ま、いいじゃん、その人、今度、金持ってくるってよ」

***回想***

○公園(夜)
冒頭と同じ公園。
三脚の上に一眼カメラがセットされている。
一眼カメラは冒頭のカメラと同じタイプである。
内瀬弘(41歳)がファインダーを覗き込んでいる。
弘が顔を上げる。
弘「もうすぐ、全体が隠れる」
弘の隣に唯野圭子(31歳)が立っている。
弘が優しく圭子の肩に手をかけ、圭子いファインダーを覗き込ませる。
圭子「こういう月も綺麗」
圭子が顔を上げる。
弘と圭子が月を見あげる。
弘が圭子の手を握る。
弘「今度、話をする」
圭子「え?」
弘「妻に」
圭子が無言のまま月を見ている。
弘が圭子の手を握る。
圭子が握り返す。
弘「いいね」
圭子が弘の肩に頭を寄せる。
弘「かぐや姫
圭子が嬉しそうに微笑む。
足元には「UCHISE」というローマ字と天体観測所のステッカーが貼られているケースが置かれている。

***回想終わり***

○公園(夜)
唯野圭子(41歳)が明るく光る月を見上げている。