市民的自衛権
○三浦宅/リビング(朝)
窓から朝陽が差し込む室内。
静かな室内にタクアンを噛む音が響く。
三浦功太(56歳)が一人で食事をしている。
味噌汁、納豆、たまご、白飯、漬け物を、静かに噛みしめるように食べる。
○同/浴室(朝)
水の栓を捻る。
蛇口から水が出てくる。
洗面器に溜まった水を、三浦が頭からかぶる。
三浦が、水浴びを繰り返す。
○同/寝室(朝)
三浦が真白のシャツに着替える。
○墓地(朝)
三浦が墓前で手を合わせ祈っている。
○駅/構内(昼)
三浦が歩いている。
○同/コインロッカー(昼)
三浦がコインロッカーを開け、鞄を取り出す。
○駅前(夕方)
首相の街頭演説が行われている。
大群衆が集まっている。
演説への野次、野次への野次が響いている。
遠くから航空機のエンジン音が聞こえる。
演説、野次が続く。
エンジン音が徐々に大きくなる。
辺りを見渡していた聴衆Aが航空機に気づく。
航空機が低空飛行で近づいている。
聴衆A「あれ!」
聴衆たちがザワツく。
航空機が首相へ向かって突っ込んでくる。
群衆たちが大声をあげなから、その場から逃げる。
セキュリティが首相を壇上から避難させる。
航空機が地上へ激突する。
大混乱する演説会場、壇上を囲むように数カ所で白い煙が上がる。
煙はジッパーを開けたまま地面に置かれた鞄から上がっている。
煙の周辺にいた者たちが咳込んでいる。
咳込んでいた者たちが、次々と意識を失い倒れていく。
ビル陰にいた三浦が鞄を開ける。
鞄の中にはガスマスク。
ガスマスクをつけた三浦が壇上の方へ歩き始める。
首相の警護に向かうセキュリティが咳込みながら、壇上近くに避難している首相たちに叫ぶ。
セキュリティA「毒ガス!車に!」
セキュリティAが倒れる。
セキュリティたちに守られ首相は車に向かう。
セキュリティBが上着を脱ぎ、首相の鼻と口を守る。
人々が倒れ込んでいる道をガスマスクをした三浦が歩いている。
三浦は首相たちに近づいていく。
セキュリティたちが次々と倒れ、首相だけが車にたどり着き、乗り込む。
○車内(夕方)
後部に乗り込んだ首相が咳込んでいる。
運転手はいない。
首相が車の外を見回す。
ガスマスクをした三浦が車に近づいてくる。
三浦が後部ドアの窓を叩く。
首相が三浦を見る。
三浦が手にした鞄から使っていないガスマスクを取り出し、ドアを開けて、自分を中に入れるよう合図する。
首相がドアを開ける。
三浦が乗り込む。
首相が咳込む。
首相「マスクを」
三浦がつけていたガスマスクを外す。
三浦が首相に握手を求める。
三浦「お会いできて光栄です」
首相が握手に応じる。
首相「マスクを」
三浦が首相にガスマスクを渡す。
首相「どう使えばいいのかね?かぶればいいのか?」
三浦「ええ、かぶった後に、ここを回すとセット完了です」
三浦がマスクの鼻の部分を指さす。
首相がマスクをかぶっている。
三浦「首相の自分の信念を貫く態度、心より尊敬します」
首相は三浦を無視して、マスクをかぶっている。
首相「これでいいんだな?」
三浦が首相を無視して話を続ける。
三浦「我々の信念を貫く姿勢も、ご理解いただけると信じています」
首相「ここを回すのか?」
首相がガスマスクの鼻の部分を回すと、マスクの中に白い煙が充満する。
首相が倒れ、動かなくなる。
○駅前(夕方)
航空機や車体が炎上している。
路上には倒れ込んでいる人々。