ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

我が家の9.11

○伊藤家/居間(夕方)
テレビの画面では「9.11テロ」を振り返るニュースの特集が始まる。
伊藤芳恵(48歳)がテレビを消す。
伊藤芽依(19歳)が通りかかる。
芳恵「今日は早く帰ってきて」
芽依「バイト遅番なんだから」
芳恵「やだやだ」
芽依「さっきのニュース?」
芳恵「どうせ、テレビをつけたって、あればっかりなんだろ、見たくない、嫌なんだよ」
芽依「ってか、テロと母さん、何の関係あるわけ?」
芳恵「とにかく、いろいろ思い出して気分が悪くなるの」
芽依「わけわかんないわ」
芽依が出ていく。
芳恵「早く帰ってきてよ」

○歌舞伎町(夜)

○セクキャバ店内(夜)
芽依が客(45歳)と抱き合っている。
客「19歳?実家?」
芽依「うん」
客「なんて言ってんの」
芽依「コンビニでバイト」
客が芽依の胸に顔をこすりつけながら言う。
客「悪い娘だねぇ」
外から救急車のサイレン音が聞こえる。
客が顔を上げる。
客「この時期にサイレンの音、思い出すなぁ」
芽依「9.11?」
客「なにそれ、テロ?」
芽依「やってたよ、テレビで」
客「違うよ、歌舞伎町の話」
芽依「歌舞伎町?」
客「知らないんだ、斜め前のビルが燃えたんだよ、ちょうど今頃」
芽依「いつ?」
客「十何年前?それこそ、テロと同じ年」
芽依「へぇ、初めて知った」
客「ビルにピンサロみたいな店が入っててさ、女の子とお客さんがいっぱい死んだんだよね」
芽依「この前のビル?」
客「でさ、その時、近くにいてさ、運び出される死体見たんだよね」
芽依「キショ!」
客「それが爆笑、客がパンツ下ろしたまま燃えてんの。知ってる?死んだ後ってチンコがビンビンなんだよ、救急隊の人がかけてた毛布がパラっと落ちたら、死体のチンコびんびん!」
芽依「ダサ!」
客「あれ、家族は、相当、恥ずかしかったんじゃねぇの」
芽依「それはハズいわ」
客が芽依を見つめて抱きしめる。

○伊藤家/外観(早朝)
芽依が戻ってくる。

○同/居間(早朝)
芽依が居間に入ると芳恵が起きている。
芽依「どしたの?こんな時間まで」
芳恵「ムカムカして眠れないんだよ」
芽依「父さんが事故った時もムカムカしてたんじゃないの?確か、今頃の時期の話でしょ?」
芳恵「その話はするんじゃないの!」
芽依「いいじゃん、たまには、もう死んで何年」
芳恵が真剣な表情で芽依を見つめる。
芳恵「あんたが大人になったら教えようと思ってたけどね、あの人は・・・」

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○成田空港/外観(昼)

○同/入国窓口(昼)
東洋系の顔立ちをした男A(28歳)が並んでいる。

男Aの鞄がアップになる。
カメラは鞄の中を透視、積められた荷物に小瓶があるのが分かる。

男Aが入国審査を通過する。

○アパート/室内(夜)
狭い室内に男Aを含む数名の男が集まっている。
男Aが鞄の中の小瓶を取り出し、蓋を開ける。
男Aは目の前に置かれた注射器を小瓶に差し、注射器に液体と注入する。
男Aが男たちに合図をする。
男たちが腕を男Aの前に差し出す。
男Aが男たちの腕に注射を打つ。

○都内(昼)
街中の様子。

○アパート/室内(昼)
男Aが窓を開け、タバコを吸っている。
室内には男たちが寝ころんでいる。
男の一人が脇から温度計を取り出す。
男Aが温度計の温度を確認する。

○車道(夜)
車道脇にバンが停車する。
運転席から男Aが降りてくる。
男Aが後部座席ドアを開けると、男たちがぞろそろと降りてくる。
男たちはフラフラとした足取りで、全員ランニングシャツに短パン姿である。
男たちは男Aに促されるように、道路に面した公園の方へ歩いていく。

○車道(夜)
別の車道。
先ほどと同様に停車中のバンから降りて、公園へ向かう男Aたち。

○車道(明け方)
停車中のバンから、別の公園へ向かう男Aたち。

○新聞
デング熱の報道をする紙面。

○警視庁/外観(昼)

○同/会議室内(昼)
モニターに監視カメラの映像が流れている。
映像は男Aに誘導される男たちが公園で座りこんでいる。
映像が切り替わり、男たちが別の公園でも座りこんでいる。
刑事A「政治的なテロか?」
刑事B「ワクチン利権を狙って製薬メーカーに雇われてるのかも?」
刑事C「どっちにしろ知られると世界的なパニックを起こしかねん、極秘で捜査して握りつぶせ」

(情報があれば続く)

衝撃流出! 国民的老女優 ハメ◯り写真!

○写真週刊誌の表紙
大きな見出しに「衝撃流出 林◯子 80歳の性 孫ほど離れた男たちとのSEXフォト」の文字。

○パソコンモニター
掲示板サイトに投稿されている林光子(81歳)のプライベート・ヌード写真の数々。
誹謗中傷のコメントが並ぶ。

○ニュース番組
キャスターと解説者が話をしている。
キャスター「今回の流出事件、クラウドサービスを提供しているオレンジ社の広報から「セキュリティ上の欠陥ではなく、パスワードを盗まれたため」とアナウンスされています。これは、どういうことでしょう?」
解説者「林さんは日本を代表する女優ですから、生年月日や出身地などのプロフィールも公開されていますよね、また様々な取材を受けて、愛犬の名前などのプライベートな情報も語られています。犯人は、そういった情報を片っ端から入力して、パスワードを暴いたんだと推測されます」

○林邸/外観(昼)
閑静な住宅地にある邸宅。

○同/リビング(昼)
テーブルを挟んで、刑事1、刑事2と光子が座っている。
光子の前に刑事の名刺が置かれている。
刑事1「てっきり、マスコミが殺到しているかと思ったら…」
光子「私みたいなお婆ちゃんのスキャンダルなんて、誰も興味なんてないのよ」
刑事2「そんなことはありませんよ…、いやネットの世界では、今も騒動が…」
光子が微笑む。
光子「冗談よ。マスコミの方は規制をしていただいたの」
刑事1「規制、できるものなんですね」
光子「これだけ長く芸能界で生きてるとね、いろんな方面に顔が利くのよ」
刑事1「そうですか…」
光子「その代わり、しなくてもいい苦労だってしてきたんだから、色々とね。少しくらいは、無理を聞いてもらっても、ね」
刑事2「マスコミには、ご自身で対応できるとしても、事件に関してはですね」
刑事1「警察としても万全の捜査体制で挑みます、刑事事件として届け出をしていただけないでしょうか?」
光子が首を振る。
光子「無理ね」
刑事2「今後、同様の犯罪を抑止するために、捜査をして、きちんと犯人を捕まえたいんです、そこは一つ、ご協力いただけないでしょうか?」
刑事1、2が頭を下げる。
光子「だめよ」
刑事1、2が頭を上げる。
光子「捕まりっこないもの」
刑事1「万全の捜査体制を敷きますから」
光子「いいの、この話は、もう」
刑事2「しかし…」
光子「捜査をしても無駄よ、わかりっこないんだから」
刑事1、2の表情が固まる。
光子「ごめんね、戻って怒られちゃうかもしれないけど、お婆ちゃんの最後のわがまま、聞いてちょうだい」
光子がチャーミングに微笑む。

○農村(昼)
農村をベンツが走っている。

○大道家/外観(昼)
畑の中に建つ一軒家。
玄関前にベンツが止まっている。
車の外で運転手が(疲れた体を癒すように)ストレッチをしている。

○同/玄関(昼)
玄関のドアが少し開き、大道源造(85歳)が顔を出す。
玄関の外には光子が立っている。
源造がドアを開け、光子を招き入れる。

○同/居間(昼)
居間の片隅にはパソコンが置かれ、本棚には理系の本が並んでいる。
源造と光子がテーブルを挟んで座っている。
源造「元気そうだ」
光子「そりゃ、元気よ、若い子のエキスを吸ってるもの」
源造「ふふ」
光子「知ってるでしょ」
源造が微笑んでいる。
光子「なんであんなことしたの?」
源造「よく気づいたな」
光子「そりゃ、そうよ、生年月日、知ってるの、あなたしかいないでしょ」
源造「パスワード、簡単すぎる」
光子「そう?本当の生年月日を知ってる人、もうあなたしか残ってないじゃない。まさか、そこから流出するなんて」
源造が光子を見る。
源造「スターになるっていうのは大変だな」
光子「もう馴れたわ、林光子に生まれ変わって60年たつもの」
源造「林光子の人生…か」
光子「あなたの妻であることを捨てて、私が選んだ道」
源造「他人の戸籍を買ったのが、いつかバレるんじゃないかと思って心配してた」
光子「余計な心配…戸籍を消して、別人になりすましたダメな女なんて、ろくな死に方しないわよ」
源造「そうか」
源造が苦笑いする。
光子「でも、なんで、こんなことしたの?パライバシーを覗いて暴くようなマネを」
源造「もう、この年だ、人生を整理したくなって」
光子「それと私の写真をバラまくのは関係ないでしょ?」
源造「お前が、何をやっているのか気になって調べていくうちに、つい…」
光子「つい、どうしたの?」
源造「もう一度、気づいてくれるかと…」
光子「あなたを?」
光子が鼻で笑う。
光子「バカね」
源造「そうだよ」
光子「一緒にいた時から変わってないわ、朝から晩まで研究ばっかり、数字に夢中でも、人の気持ちは理解できない」
源造「悪かったな」
光子「ふ、まぁ仕方ないわね、好きで結婚した私も悪いのよ」
源造「でも、最後に会えて良かったよ」
光子「最後?」
源造「体の具合が良くなくてね」
光子が家を見回す。
光子「一人?」
源造「ああ」
光子「家族は?
源造「別れてからは、ずっと一人だよ」
光子「…そうなの」
光子の顔から笑顔が消える。
源造「これも自分で選んだ人生だ、そんな顔しなくていい」
光子「そう」
光子が立ち上がる。
光子「会えて良かったかもしれない、私も」
源造「ありがとう、もう、あの頃のことなんて忘れてるかと思ってたけど」
光子「忘れるもんですか」
光子と源造が玄関に向かって歩き出す。
光子「データの中は全部、見たの?」
源造「一つ、パスワードの分からないファイルがあったな」
光子「バカね、あれが開けられないなんて」
源造「どうして?」
光子「私とあなたしか知らないはずよ」
源造「えっ…」
源造が嬉しそうな顔になる。
光子が玄関で靴を履く。
源造「忘れてなかったんだ」
光子「嫌だ、信じてなかったの?」
光子が玄関ドアに手をかけてドアを開ける。
光子「忘れたことなんて、一日たりともありませんよ」

終わらない夏休み

○公園(夕方)
街頭が灯り始めた公園。
広い園内には散歩道が敷かれている。
散歩道を行く人の数は少ない。
道脇に背の低い木々。
伊藤聖哉(9歳)が辺りを見回しながら歩いている。
自販機で缶コーヒーを買っていた高橋弘(59歳)が遠くを歩いている聖哉に気づく。
高橋はTシャツに半ズボン姿のラフな格好。
高橋は聖哉の動きを見ている。
聖哉が足を止め、木々の中へ入っていく。
高橋は聖哉の方へ歩き始める。
高橋が聖哉が木々の中へ入っていった場所で立ち止まり、中をのぞき込む。
聖哉が飛び交う蚊をはらうように手を動かしながら寝ころんでいる。
高橋「なにやってんの?」
聖哉が奥に入っていく。
高橋「こんなとこヤブ蚊の巣だぞ」
聖哉が驚いて立ち上がる。

○夜空
陽が暮れ、空には星が出ている。
聖哉の声「今日で終わるし」

○公園/ベンチ(夜)
聖哉と高橋が座っている。
高橋「そりゃ、始まりがあれば終わりがあるよ」
聖哉「宿題も終わってないし」
高橋「今からやりゃいい」
聖哉「もう間に合わないし」
高橋「なんとかなるよ」
聖哉は答えない。
高橋「・・・にしても、家に戻らなきゃ、夏休みが永遠に続くってのは子供らしくて面白いな」
高橋が缶コーヒーを差し出す。
高橋「飲むか?」
聖哉が首を横に振る。
高橋「・・・いや、実はな、おっちゃんも、その手を使ったんだ」
聖哉「ん?」
高橋「おっちゃんもな、夏休みのまま、学校に行くのを辞めてな、ずっと家に帰らずに一人」
聖哉「ほんと?」
高橋「ああ。でもな、一人で生きていくのはツラいぞ」
聖哉「なんで?」
高橋「母ちゃんがいないだろ、メシが食えない、どうするメシは?」
聖哉「なんとかするよ」
高橋「金もないくせに、何を食うにも金がいるんだぞ。どうする?ゴミ箱あさるか?」
聖哉「う〜ん」
高橋「残飯が出てこない時もある、その時はな、スズメを捕まえて食ったし、虫だって食った」
聖哉「虫?」
高橋「ああ、コオロギとかセミとか」
聖哉「食べられるの?」
高橋「食えるもんか、くそマズい、腹も壊すし、死にかけたよ」
聖哉「ほんと?」
高橋「あぁ、そこら辺の雑草も片っ端から食ったな、マズくて食えるもんじゃねぇけどな」
聖哉が黙る。
高橋「そりゃ、ずっと夏休みが続きゃ嬉しいよ、でも、今、おっちゃんは乞食だぞ、ルンペンやってんだから」
聖哉は応えない。
高橋「どうだ、ずっと夏休みを続けてみるか、一緒に?」
聖哉が立ち上がる。
高橋「帰る?」
聖哉「うん」
聖哉が公園出口に向かって歩き始める。
高橋「宿題、頑張れよ」
聖哉が振り向かずに応える。
聖哉「うん」
高橋が聖哉の後ろ姿を見ながら、コーヒーの缶を開け、コーヒーを飲む。

謎の生物・マピチュー

○総合病院/外観(昼)
入院棟のある大きな病院。

○同/屋上(昼)
日下公一(32歳)が車椅子に乗った日下亜紀(31歳)を押しながら歩いている。
公一が足を止める。
亜紀が遠くを見ている。
亜紀が公一を見る。
亜紀「ねぇ」
公一が亜紀を見る。
亜紀「マピチューって知ってる?」
公一「マピチュー?」
亜紀「コアラみたいな」
公一「コアラ?動物?」
亜紀「そう、最近、ペットで人気なんだって」
公一「初めて聞いたよ。どこの国の生き物?」
亜紀「さぁ・・・、病院じゃネット禁止だし、今度、調べて教えてよ」
公一「マピチューね・・・どうしたいの?」
亜紀「戻ったら飼いたいなぁって」
公一「そう」
亜紀「いいでしょ、飼っても?」
公一「ああ、いいよ」
亜紀「よし」

○同/廊下(昼)
病室外の廊下。
公一と亜紀の母親・小泉弘子(60歳)が小声で話をしている。
公一「すみません」
弘子「公一さんだって無理しないで、忙しいんでしょ、仕事。あの子、公一さんが帰った後、いつも、公一さんのこと心配してるから」
公一「すみません」
弘子「気にしないで」
公一「出張から戻ったら、代わりますから」
弘子「任せて」
公一が弘子に頭を下げて去る。

○イメージカット
公一が忙しく仕事(営業先へ挨拶、会議等)をしている様子。

○列車・車内(夜)
走行中の特急列車。
公一が座席に座りパソコンでネット検索している。
検索ワードに「マピチュー、ペット」、「マピチュー、動物」を入力しているが検索結果はヒットしない。

○イメージカット
公一が忙しく仕事(営業先へ挨拶、会議等)をしている様子。

○ペットショップ店内(昼)
公一が店員に話しかけているが、店員は首を横に振っている。

○病院/病室(昼)
亜紀が看護士から投剤を受けている。弘子が付き添っている。

○同/廊下(夕方)
公一が歩いてくる。

○同/病室(夕方)
公一が入ってくる。
公一が弘子に会釈をする。
弘子が、そっと立ち上がる。
弘子が小声で公一に話しかける。
弘子「昼に薬を入れたから、もうじき目が覚める頃」
公一「あとは自分が付き添いますから、大丈夫ですよ」
弘子が時計を見る。
弘子「そう、お願いしても良いかしら」
公一「はい」
弘子が公一に頭を下げながら、病室から出ていく。
公一がベッド脇に座る。
公一が亜紀の顔を見ている。
亜紀の目がゆっくりと開く。
亜紀「公ちゃん?」
公一「お母さんは、先に帰ってもらったよ」
亜紀「出張は?」
公一「早めに終わったから」
亜紀「大丈夫?」
公一「大丈夫、無事、片づいたから」
亜紀が微笑む。
公一「人の心配する前に、自分の体、治さないと」
亜紀「マピチューと遊べないもんね」
公一「あぁ、マピチューな」
亜紀「調べた?」
公一「ああ」
亜紀「可愛いでしょ」
公一「うん」
亜紀が公一の顔を見た後、目をそらして窓の外を見る。
窓の外は夕焼け空。
亜紀「きれい」
公一も外を見る。
公一「夕焼けか」
亜紀が公一を見る。
亜紀「ねぇ」
公一が亜紀を見る。
亜紀「退院したら、阿武川にキャンプに行こうよ」
公一「昔、行ったな」
亜紀「夕焼けの下で、バーベキューするの」
公一「ああ」
亜紀「いつごろ退院できるかなぁ、お医者さんはなんて?」
公一「ん?」
亜紀「2、3ヶ月入院すれば元気になるって?」
公一「ああ、そう言ってた」
亜紀が公一の顔を見る。
亜紀が微笑む。
亜紀「ありがとう」
公一「え?」
亜紀「マピチューの話をする時と同じ顔」
公一「は?」
亜紀「ありがとう」

沈黙

○遠山家/縁側(昼)
地方の旧家の縁側。
縁側の外には田園風景が広がっている。
遠山昭義(71歳)と遠山道明(8歳)が縁側に座っている。
道明が昭義の顔を見つめている。
昭義は微笑んでいるような、悲しんでいるような、複雑な表情を浮かべて、道明を見る。
昭義は首を横に振り、道明の頭を優しく撫でる。
道明は微笑む。
昭義は複雑な表情のまま道明を撫でている。
画面がフェイドアウトする。

○同/居間(昼)
道明(46歳)が名刺を見ている。名刺には「毎朝新聞 社会部記者 工藤孝弘」の文字。
道明の前に工藤孝弘(32歳)が座っている。
工藤「終戦の特集として太平洋戦争の南方戦線をテーマに取材をしておりまして・・・」
道明「はぁ」
工藤「ついては、道明さんのお爺様に当たる昭義さんのことについてお話を伺わせていただきたく」
道明「しかし、電話でも、お話をさせていただいたように、爺さんからは、戦争の話は何も聞いてませんし、資料といっても」
工藤「しかしですね、当時の関係者に取材をすると、昭義さんのお名前を挙げる方が」
道明「本当ですか?」
工藤「ええ」
道明「南方戦線?」
工藤「日本軍の戦いの中でも、もっとも悲惨で過酷だった戦地の一つです」
道明「戦争には行かなかったって・・・」
工藤「そんなことはありませんよ、同じ部隊だった方の証言があるんですから」
道明「爺さんは、戦場で何を・・・」
画面がフェイドアウトする。

○同/居間(昼)
置かれている電気製品や家具などから、昭和の時代であることが分かる。
道明(8歳)と弟、母親、昭義がテレビを見ながら冷や麦を食べている。
テレビで終戦特集の記念番組が始まる。
昭義が箸を置き、立ち上がる。
昭義「ごちそうさん
道明の母親「もう大丈夫ですか?」
昭義「うん、ありがとう」
昭義が縁側へ向かう。
道明が冷や麦をすすって、昭義の後をついていく。
道明「ごちそうさま」
道明の母親「道明、行儀悪いよ」

○同/縁側
昭義が縁側に座っている。
隣に道明が座る。
道明「ねぇ、爺ちゃんは戦争行ったことある?」
道明が昭義の顔を見つめる。
昭義は微笑んでいるような、悲しんでいるような、複雑な表情を浮かべて、道明を見る。

上を向いて歩こう

○旅客機/機内(夜)
満席の客室。
乗客たちは落ちつきなくザワついている。
機体が大きく揺れる。
女性客の悲鳴が聞こえる。
男性客Aが客室乗務員に怒鳴っている。
男性客A「さっきから、これ、どうなってんだ!」
客室乗務員「ご心配をおかけして、本当に申し訳ございません」
客室乗務員が男性客に頭を下げようとするが、機体が揺れ、足下がふらつく。
子供の泣き声が響く。
初老の男性客Bが、席から体を乗り出し、後ろを振り向く。
後部席には坂本九(43歳)が座っている。
坂本は不安げに様子を見ている。
男性客Bが坂本に話しかける。
男性客B「ねぇ、九ちゃん」
坂本が話しかけられたことに気づく。
男性客B「九ちゃん、歌ってよ」
坂本「え?」
男性客B「みんなに歌を聴かせてよ」
男性客Bが機内を見渡す。
ザワつく機内。
坂本が機内を見渡し、男性客Bを見る。
男性客B「九ちゃんしかいないよ」
坂本がうなづいて微笑む。
坂本はシートベルトを外して、立ち上がり、通路に出る。
坂本「さぁ、みなさん!」
坂本の大声に客席の皆が注目する。
坂本は満面の笑顔を浮かべている。
坂本「どうも、坂本九です。飛行機揺れちゃって、怖いですねぇ〜」
坂本が近くの子供の頭を撫でる。
坂本「でも大丈夫!さ、元気を出して!」
機体が大きく揺れ、坂本がよろめく。
坂本「おっとっと、こりゃ、この飛行機、伊丹に着いたら、お仕置きだな」
坂本が笑う。
客室乗務員が坂本に近づいて来る。
客室乗務員「お客様、危険ですから、座席に」
坂本「まぁ、いいじゃないですか、ここは任せて」
客室乗務員が会釈をして近くで見守る。
坂本「僕は歌手ですから、歌を歌うことしかできません。でもね、歌っていうのはいいもんですよ、大きな声で歌ってると不安とか怒りなんていうのも消えちゃいますから」
坂本が客席を見回す。
坂本「みなさん、僕と一緒に歌いましょう!」
坂本が「上を向いて歩こう」を歌い始める。
坂本はメロディを歌う前に、歌詞内容を伝える歌い方で、合唱を誘う。
乗客たちが徐々に歌い始める。
坂本「さぁ、みなさん、もっと元気良く!」
坂本が通路を歩きながら、合唱を促す。
坂本が泣いている子供に笑顔で歌いかける。
子供は泣きやみ、少しずつ歌い出す。
客室乗務員も一緒に歌っている。

○機体/外観(夜)
真っ暗な空を飛行する旅客機の機体。
乗客たちが歌う「上を向いて歩こう」の歌声。

○テレビ画面
バラエティ番組の画面にニュース速報のテロップ。
テロップ「450名以上の乗客を乗せた羽田発・大阪行の日航123便が消息不明」