ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

メシの種にもならない仕事

○廃街(昼)
破壊された街並み。
薄暗いビル街に風の鳴る音が響く。
人のいる気配はしない。

北沢良夫(53歳)がリヤカーを引いて歩いている。
リヤカーの荷台には野菜が積まれている。

北沢が大通りの交差点でリヤカーを泊める。
北沢「おーい、食いもんだぞー」
近くの建物からゆっくりと人が集まる。
人々には精気がなく、薄汚れた服を着ている。
集まった者たちは北沢に頭を下げながら、野菜を手にとっていく。
北沢「来週はトマト、持ってくっから」
リヤカーの野菜がなくなる。
北沢「今日も閉店終了!」
北沢がリヤカーをひいて歩き出した時、後ろから男の声がする。
男の声「残ってませんか?」
北沢が振り向くと、川邊亮(36歳)が立っている。
川邊「なにか、なんでも良いので・・・」
北沢「あんちゃん、遅いよ、全部なくなってるよ」
川邊「食べてないんです」
北沢「2、3日、食べなくても、死にゃしないよ。うちは来週になるけど、他の村の百姓も、なんか持ってきてんだろ?心配すんなって」
川邊が立ちすくむ。
北沢が川邊を見ている。
北沢「歩けるかい?」
川邊が北沢を見る。
北沢「あんちゃん、歩く気はあるかいって」
川邊「どこに?」
北沢「ウチまで来たら、飯くらいは食わしてやるよ」
川邊「どれくらいかかるんですか?」
北沢「今から歩けば、まだ明るいうちにつく。まぁ、陽が暮れても、一晩、ウチで泊まってきな」
川邊「歩いて3、4時間くらいですか」
北沢「知らねぇよ。で、来るの?来ないの?」
川邊が考える。
北沢が川邊を置いて、歩き始める。
川邊が北沢の後ろ姿を見ている。
川邊が歩き始める。

○田舎道(昼)
田舎の道。
リヤカーをひいた北沢と川邊が歩いている。
二人の他に道を行く者はいない。
北沢「よく、あんな所に住んでらぁ」
川邊は答えない。
北沢「電気も水も来ねぇのに。だろ?」
川邊「はい」
北沢「なんで住んでんだ?」
川邊「いつか復旧するかと思って」
北沢「復旧もなんも、もう1年くらいか?あれから」
川邊「ええ」
北沢「もう街には、前ほど人も残ってないんだろ?」
川邊「はい」
北沢「うちの村にも逃げてきた奴いるよ。そいつのいた街は戦場みたいだって。あの街でもあったのか、そういうこと?」
川邊「いえ、ずっと逃げてたので」
北沢「逃げてた?」
川邊「ビルの中に」
北沢「へぇ・・・。なにやってた?」
川邊「え?」
北沢「1年前まで」
川邊「ITの関係で」
北沢「縁ねぇや」
川邊「SEO対策とかリスティングっていう仕組みがあって、そのコンサルを」
北沢「なんだ、そりゃ」
川邊「人と人を繋げるための仕事です」
北沢「つなげる?」
川邊「自分だったら、フェイスブックのいいねだったら5万人以上、ツイッターだったら、1万以上のフォロワーを増やすことができます」
北沢「わからん」
川邊「ネット上で、人を集めることができるんです、そういう仕事です」
北沢「あんちゃんの所に人が集まる?」
川邊「ええ、フォロワーは20万人、YouTubeは月に楽に100万PV」
北沢「はぁん、この1年は、そういう人たちで一緒に食いつないでたわけ?」
川邊「いや」
北沢「いやって?」
川邊「電気が止まったので・・・」
北沢「止まったら?」
川邊「誰とも・・・」
北沢「誰とも?」
川邊「会うことはないです」
北沢「助けあったりしないのかよ、何十万人かつながってんだろ」
川邊「ネットだけの付き合いですから」
北沢「なんだ、そのネットってのは」
川邊「あくまでも情報なんで」
北沢「そんなのに人生かけるより、土いじって野菜でも作ってる方がよっぽど良いな」
川邊がバツの悪そうな表情。
北沢「良い機会だ、ウチに来て、本物のメシの種、見とけ」
川邊が苦笑いする。
川邊「はい」