ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

沈黙のナイフ

○取調室/室内
画面は机の向こうを撮らえている。
机の向こうには誰もいない。ドアが開く音。忙しない足音。
坂巻の声「どうも、どうも」
封筒を手にした坂巻憲司(49歳)が席に着く。
坂巻が画面に向かって話しかける。
坂巻「お待たせしました。午後の取り調べを担当する坂巻です。すみませんね、資料を集めてたら遅れて。お昼はなに食べました?慣れました?えー今日で20日目だったっけ、いや、まぁ慣れるってことはないか」
坂巻が画面の方を見る。
坂巻「黙秘してるんだよね?頑張るねぇ・・・弁護士から言われた?黙秘しろって。じきに出れるからって。いや確かに、そろそろ捜査に圧力がかかってきてるって、上の方で綱引きが始まってるみたいだけど」
坂巻が画面をのぞき込む。
坂巻「ホッとした?黙秘を貫いた甲斐があったと思った?でもさ、君、黙秘を貫いて外に出たとしても、戻れるかね?警察に目をつけられたワケありの人物に重要なポストを用意すると思う?政府の予算に口効きできるポジションの中竹さんが会長を務めるような上場企業が。冷静に考えてごらん、黙秘を貫いて得するのは誰かな?君がなにも喋らずに外に出ていけば会社は助かるよ、しかし、会社の存亡に関わる秘密を持った人間にウロウロされて、一番、困るのは誰だろうね?君は墓場まで持ってくつもりかもしれないけど、経営者にとっちゃ、常に喉元にナイフを当てられた状態でしょ?心変わりして秘密をバラしますって言われたら困るし、君が死ぬまで無理難題を聞いてあげなきゃいけない」
坂巻が封筒からファイルを取り出す。
坂巻がファイルの一つを手にしながら話を始める。
坂巻「これは15年位前に捜査した事件でね、表向きは風俗店の摘発だったんだけど、本当は霞ヶ関の官僚接待用に使われてることを捜査する案件だったんだよ、そっちの捜査は上から潰されたがね。で、この経営者は黙秘を貫いて、罪状は売春防止法、執行猶予の軽い刑だ」
坂巻がファイルのページをめくる。
坂巻「ただし、出所から2ヶ月後に自殺死体で見つかった、誰に聞いても自殺するような奴じゃなかったって言ってたけど」
坂巻が別のファイルを手に取る。
坂巻「こっちは六本木の薬物取り締まり。本当の目的は、ヒルズの中にあったベンチャー企業のオーナー向け売春グループの摘発。クスリで捕まえた女が女子高生の調達役だったんだけどさ、黙秘のまま出てったよ」
坂巻がファイルのページをめくる。
坂巻「その後、彼女に、どういう経緯があったのか知らない。ただし、今は精神病院にいる。精神病のクスリを大量に飲まされてるんだろう、捜査員が訪ねたら、糞尿まみれで壁見て笑ってたんだって、一生そうして過ごすんだろう」
坂巻が別のファイルを手に取る。
坂巻「こっちは東京連合のファイル、会ったことあるかもな、黙秘で秘密を守った後は海外で行方不明。海外で消える日本人は珍しいことじゃないけど」
坂巻がファイルを机の脇に寄せ、画面の方をじっと見つめる。
坂巻「あなただって世間の汚い部分を見てきたでしょう?まんざら嘘じゃないことは分かるハズだ。ここで全てを吐けば、会社だって、君を消す理由がなくなる。君を危険な目に遭わせても、罪が増えるだけで、リスクしかない、メリットがない。しかも、君が証言すればソパナに群がってる政治家や黒い人脈は逃げていく。北辺社長の報復があったとしても、警察の捜査を止める後ろ盾はない、だから君を守りやすくなるってワケだ」
坂巻が画面から体を離す。
坂巻「考える時間を欲しいかい?休憩しよう」
席を立つ坂巻が、途中で動きを止めて、画面に向かって話しかける。
坂巻「君の下にいた服部さん?若い女の子、新しい迎賓館はあの子が仕切ってるそうだよ」
坂巻が画面から去る。
坂巻の声「あ、アシカ、彼ね、だいたいのことは吐いてるよ」
ドアを開けて出ていく音。