ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

そして息子になる

○道路(昼)
街中の道路を軽自動車が走行している。
道子の声「どうするつもり?」

○車内(昼)
走行している軽自動車の車内。
助手席の中原道子(33歳)が運転席の中原慎也(37歳)に話しかけている。
道子「手術になったら、どうすんのよ?」
慎也「あぁ」
道子「”あぁ”じゃなくてさ、お金、どうすんの、すごいかかるんでしょ、誰が持つのよ?」
慎也「俺は医者じゃないから、わかんないよ」
道子「今の入院費だって、結構かかってるよ、なんでウチが払わなきゃいけないの」
慎也「仕方ないだろ、ウチしかいないんだから」
道子「あの人のアパート、見たよね、何にも金目のモノなかったじゃない、どうすんの?」
慎也「ガタガタ言うなって」
道子「言うわよ、安月給で家族4人とお母さんの生活をやりくりしてるの、私なんだからね。それに別れた義父さんが倒れたからって、その手術代まで」
慎也「頼むから、黙って」
道子「ねぇ、あなたも手術受けるつもりなの? 仕事休むんじゃない、大丈夫?」

○総合病院/外観(昼)

○同/駐車場(昼)
軽自動車が止まっている。

○同/会議室(昼)
慎也と道子がテーブルの上に置かれた紙を見ている。
医師・立花潔(43歳)が向かいに座っている。
立花「肝移植後の拒絶反応を見るために調べた近藤さんと中原さんの遺伝子なんですが・・・」
慎也「これは・・・?」
立花「中原さんは、お母様に育てられたということで」
慎也「10歳の時に離婚して・・・」
立花「何か、この件で、お話は聞かされてませんか?」
慎也「いえ、なにも・・・」
立花「中原さんとお父様の近藤さん、遺伝子上、お二人の間に血縁関係は見られません」
慎也「はぁ」
慎也は呆然とした表情。
道子「では、手術は・・・」
立花「中原さんの肝臓を移植することはできません」
道子「そうですか」
道子が安心した表情。
慎也「この後は、どうなるんですか?」
立花「近藤さんの容態から考えて」
道子が話をさえぎる。
道子「(慎也を見ながら)この人の、戸籍が変わるんですか?」
立花「え?」
道子「父親じゃないってことは、入院費用とか、そういう負担も」
立花「すみません、こちらは医師ですので、法律のことは分かりません、弁護士の方にご相談してみては、どうでしょう。(慎也に)近藤さんの容態は、肝臓移植をしなければ、そう長くは持たないかと」

○同/会議室前(昼)
ドアが開き、慎也、道子、立花がでてくる。
慎也が歩き始める。
道子が後に続く。
立花が慎也の進行方向と逆の方を指さして話しかける。
立花「挨拶されませんか?」
道子「今日は大丈夫です」
一瞬立ち止まった慎也が、立花に軽く会釈をして、再び歩き始める。

○同/駐車場(昼)
慎也たちの乗る軽自動車が出ていく。

○車内(昼)
走行中の軽自動車の車内。
道子「もめたのかな?」
慎也「ん?」
道子「お義父さんとお義母さん」
慎也「さぁ」
道子「戸籍は実の息子になってんでしょ?養子でもなくて」
慎也「あぁ」
道子「お義母さんからは何も?」
慎也「何も」
道子「ふ〜ん・・・。あなたが選んだの?」
慎也「なにが?」
道子「別れるとき、どっちについてくか?」
慎也「親同士で決めてた」
道子「やっぱり」
慎也「オヤジが酒浸りで、俺を養うなんてできなかったからだろ」
道子「そうかなぁ」
慎也が無言で車を運転する。
道子「やるわね、お義母さんも」

○公団アパート/外観(夜)

○同/中原宅・居間(夜)
慎也が座ってテレビを見ている。
浴室から子供の騒ぐ声。
道子の声「やめなさい、また下の階の人に怒られるよ」
中原文(65歳)が居間に入ってくる。
文「どうだった?」
慎也「ん?」
文「手術?」
慎也「あぁ・・・」
文「やるのかい?」
慎也「いや・・・」
文が手に持っていた封筒の束を卓袱台の上に置く。
慎也「これは?」
文「手術代、かかるんだろ?」
慎也が封筒の一つを手に取る。
文「意地でも使うもんかと思って取っといたけど」
慎也「なに?」
文「養育費」
慎也が封筒を開けると旧札の紙幣。
文「どうせパチンコか馬券かで勝ったついでに送ってきたんだろうけど、あんたの養育費だって。たまに思い出したみたいに送ってきてさ」
慎也「父さんが?」
文「絶対使うもんかと思って残しといたんだけど・・・、あの人、相変わらず気が利かないね」
慎也が封筒の束を見つめる。
文「結局、自分の手術代になっちまうんだから」
文が立ち上がる。
文「使いなよ、本人の金だから」
慎也「母さん」
文が立ち止まる。
文「ん?」
慎也「母さん、あのさ・・・」
文「なに?」
慎也が無言で文を見る。
文「なんだい?」
慎也「いや・・・」
文「どうした?」
慎也「うん」
文が部屋を出ていく。
慎也が文の後ろ姿を見ている。
慎也が目の前の封筒の束を見る。

○スーパーマーケット/店内(昼)
道子がレジを打っている。

○同/休憩室(昼)
道子がパート仲間と話をしている。

○喫茶店/外観(夜)

○喫茶店/店内(夜)
道子が席に座り、スマートフォンを見ながら紅茶を飲んでいる。
道子の前の席は空いている。
ドアが開き、慎也が入ってくる。
慎也が道子を見つけ、道子の前の席に座る。
慎也「なに?家で話せないことって」
道子「きちんとした方がいいんじゃないかと思って」
慎也「なにが?」
道子「お義父さんのこと」
ウェイトレスが水を持ってくる。
ウェイトレス「ご注文は?」
慎也「アイスコーヒー」
ウェイトレスが去る。
道子「パート仲間にもいたの」
慎也「だから、なにが?」
道子「子供の時、別れた父親が身寄りのないまま死んだそうなんだけど、その父親に借金があったらしくて、後で揉めに揉めたって話」
慎也「えぇ・・・」
ウェイトレスがアイスコーヒーを持ってくる。
ウェイトレス「アイスコーヒー、お待たせしました」
道子「逆に財産が残してくれるような親だったらいいわよ、でも、想像つくじゃない、お義父さんの生活」
慎也「うん」
慎也がコップに直接口をつけてコーヒーを飲む。
慎也「金は持ってないな」
道子「でしょ」
慎也「でも、だからって」
道子「だからさ、本当の父親を探すのよ。そうすれば、戸籍を抜くことができるらしいの」
慎也「まだ、親父に借金があるって決まったわけでじゃないし」
道子「なに言ってんの、このまま死なれたら、親子の関係はそのままよ。あの人の抱えてるトラブルが、全部、ウチに来るのよ、大丈夫なの?」
慎也「そんなこと言ったって」
道子「だいたい、お義母さん、どういうこと?」
慎也「だよなぁ」
慎也が首を小さく横に振る。
道子「本当の父親じゃないって、なんで教えてくれないの?」
慎也「全然、そんな素振り見せないんだよなぁ」
道子「まさか、誰の子か分からない位・・・」
慎也「そんな人じゃないよ、母さんは」
道子「もし、本当のお父さんが大金持ちだったら、素敵じゃない?」
慎也「え?」
道子「少なくとも、普通の生活してれば、何か財産あるでしょ」
慎也がアイスコーヒーを飲む。
慎也「もういいよ、やめよう、この話は」
道子「ね、もしもの時のために、お母さんの遺伝子も調べておかない?」
慎也「どうして?」
道子「本当の父親を見つけた時、両親の遺伝子が一致してたら、その人も逃げようがないでしょう?」
慎也が呆れた表情を浮かべる。
道子「あなただって知りたくないの?本当のお父さん」
慎也「だったら母さんに直接聞けばいいだろ?」
道子「聞きなさいよ」
慎也が鼻から深く息を吐く。
道子「まず、お母さんに本当の話をしてもらうためにも遺伝子を調べてもらう」
慎也「どういう理由で?」
道子「適当に理由をつけて検査受けさしゃいいじゃない」
慎也「適当に・・・」
道子「そうだ、結果が出たら、医者から説明してもらいましょうよ、あなたと父親の遺伝子が違うって」
慎也「はぁ・・・」
道子「そうすれば、いくら何でも心を当たりのある人のこと話すでしょ、そこから・・・(話続く)」
画面フェイドアウト。

○公団アパート/外観(夜)

○同/中原宅・居間(夜)
道子がテレビを見ている。
会社帰りの慎也が入ってくる。
慎也「ただいま」
道子「遅かったわね」
慎也がスーツ姿のまま座る。
道子「食べてきた?」
慎也「病院に呼ばれたんだ」
道子「え?」
慎也「話したいことがあるって」
道子「なにが?」
慎也「いいんだ」
道子「いいって、なにがよ、教えてよ?」
慎也「なんでもないよ」
道子「なんなの」
慎也「きちんとするから」
道子「は?」

○総合病院/外観(昼)

○同/廊下(昼)
慎也が文の腕を引いている。
文は後ずさりしている。
道子が慎也と文のやりとりを後ろから見ている。
文「いやだ、よしてちょうだい。絶対にいやだから」
慎也が文の腕を引っ張る。
慎也「頼むから!こっちに来て」
通りがかりの患者が足を止めて見ている。
道子が慎也に近寄る。
道子「もう、いいじゃない、お義母さんが会いたくないって言ってるんだから」
文「二度と会いたくないの、あの人とは」
道子「(慎也に)ね、やめましょう」
慎也「(大声で)ダメだ!もう一度、三人が会わなきゃダメなんだよ!」
道子と文が唖然とする。

○同/個室病室前(昼)
文の腕をとって歩いていた慎也が立ち止まる。
道子が病室の名札を見て、慎也に話しかける。
道子「お義父さん、個室に?」
慎也「今日だけ移してもらったんだ」
慎也がドアを開け、文の腕をつかんで中に入ろうとする。
文は一瞬、後ずさりする。
慎也が文の顔を見る。
文が観念したように慎也に従う。
慎也が道子に話しかける。
慎也「三人で話がしたいから」
道子「うん・・・」
道子が廊下で立ち止まる。
慎也と文が入っていく。

○同/外観(昼)
慎也の声「父さん、母さん、ごめん、僕、二人の間に生まれた子供じゃないんだって」

○イメージ映像
慎也の子供の頃からの写真のフラッシュバック。
慎也の声「父さんの遺伝子も、母さんの遺伝子も入ってないんだって・・・取り違えられたんじゃないかって・・・でもさ、最後まで父さんと母さんのこと、父さんと母さんって呼ばせて欲しいんだ、いいだろ、父さんのことを父さんだって、母さんのことを母さんだとだと思い続けても・・・」
親子がすすり泣く音。
画面フェイドアウト。

○病院/廊下(昼)
道子が病室の前で待っている。
中からドアが開く。
慎也が顔を出す。
慎也「カメラある?親子の記念写真、撮って欲しいんだ」