ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

夜の虫

○山(昼)
虫採り網を手にした芦原信夫(7歳)が、ゆっくりと歩いている。
信夫の視線の先には1匹の蝶。
信夫が網を振り下ろし、蝶を捕まえる。
信夫が蝶の羽を掴み、走り出す。

信夫が芦原啓司(37歳)に蝶を見せる。
信夫「採ったよ!アゲハ」
啓司「フタツメアゲハだな」
信夫「フタツメ?」
啓司が信夫の頭をなでる。
啓司「帰ったら図鑑で調べよう」
信夫「うん」
啓司「戻してあげな」
信夫が指を離す。
蝶が飛んでいく。

○民宿/玄関(夜)
カエルの鳴き声が騒がしい田舎。
辺りの陽は暮れており、街灯が点っている。
虫採り網を持った信夫と啓司が帰ってくる。
信夫が街灯を見て、立ち止まる。
街灯には虫が集まっている。
信夫「なんで電灯に集まるの?」
啓司「電灯の光に集まってるんじゃないんだよ」
信夫「でも、あれ」
啓司「あれは、星の光と間違えてるんだ」
信夫「星?」
啓司が星空を見ながら話を続ける。
啓司「虫には、星の光で自分の位置を知る習性があるんだ」
信夫「習性?」
啓司「何万年も、何億年も前から、そうやって生きてきた。真夜中に目印になるものは、星の光しかなかったからさ」
信夫「電灯は?」
啓司「人間が電気を発見したのなんて、地球の歴史じゃ、つい、この間のことだよ」
信夫が電灯に群がる虫を見る。
信夫「迷ってるの?」
啓司「星だと勘違いしてるんだ」
信夫「人間のせいで」
啓司「まぁな」
信夫「人間は悪者だ」
啓司が笑う。

○刑務所/外観(昼)

○同/グラウンド(昼)
自由時間。
囚人たちがグラウンドで時間を潰している。
芦原信夫(52歳)が金網に止まった蝶を見ている。
信夫がゆっくりと近づき、蝶を捕まえる。
高木毅(47歳)が信夫に話しかける。
高木「あんた、うまいな」
信夫が蝶を離す。
信夫「父親が昆虫の研究やっててね」
高木「ガキの頃から手伝ってたんだ?」
信夫「まぁ」
高木「今のは何て蝶?」
信夫「マダラアゲハ」
高木「昆虫博士だ」
信夫が微笑む。
高木が近くを飛んできた蝶を捕まえようとするが、蝶は逃げていく。
高木が照れたように微笑む。

○同/レクリエーション室(昼)
雨が降っている。
信夫が窓際に座り、外を見ている。
高木「博士、雨だと虫採りできねぇな」
信夫が高木の方を向く。
信夫「ああ」
高木が信夫の隣に座る。
高木「空き巣?」
信夫「え?」
高木が人指し指を曲げる(スリのジェスチャー)。
高木「こっち?」
信夫「何?」
高木「何でここに入ったかって話」
信夫「ああ」
高木「盗みかい?」
信夫「そんなところかな」
高木「虫も殺さないような顔して」
信夫「自分は?」
高木「空き巣だよ、3度目だから、ちょっと長かったけど、じきに出れる、博士は?」
信夫「まだ10年残ってる」
高木「10年?マジで・・・何盗んだら、そんなに長くなる?」
信夫「横領、億の単位の金の」
高木「ウソ!何?女?」
信夫「・・・まさか自分がハマるとは・・・」
高木「水商売?」
信夫が頷く。
高木「博士、ウブだから、ウソを本気と信じて・・・ってトコ?」
信夫は答えない。
高木「博士はネオンに近づいちゃいけなかったんだな」
信夫「今さら悔やんでも仕方がないよ」
高木「そ、仕方がない」

○同/脱衣場(夜)
浴室に通じる脱衣場。
入浴を待つ囚人たちが(裸で)並んでいる。
その横を入浴を終えた囚人が通る。
入浴を待つ信夫が天井の電灯を見ている。
電灯には蛾が数匹群がっている。
入浴を終えた高木が浴場から出てくる。
信夫に気づいた高木が足を止めて、電灯を見る。
信夫と高木が、共に後ろの者から、「止まるな」と急かされる。

○同/グラウンド(昼)
信夫が地面に顔を近づけて、虫を見ている。
高木「博士」
信夫が立ち上がり、高木の方を向く。
高木「蛾は、なんで電灯に吸いよせられるんだ?」
信夫「あれは、電灯に集まってるんじゃない、空の星だと勘違いしてる」
高木「星?」
信夫「そう、虫は星の光を頼りに夜、行動する習性がある。でも人間の灯りのせいで、勘違いしてるんだ」
高木「電灯を星と」
信夫「そう」
高木は深くうなづいている。
信夫が再び地面の虫を見始める。
高木「博士もネオンの蝶を本物の蝶と勘違いしたワケだ」
信夫が高木の方を見る。
高木が微笑む。
高木「昆虫博士」
信夫が虫の観察を続ける。
高木「虫は人間を恨んでるのかな?」
信夫は高木に背中を向けたまま答える。
信夫「仕方がないと諦めてるよ」
高木「そうなんだ」
信夫の背中越しに(信夫が)鼻で笑う音が漏れる。