ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

犬・猫・母

○榎本家/玄関前(深夜)

深夜、静かな住宅街。

玄関前に乗用車が停車している。

運転席には榎本則男(54歳)が座っている。

 

○同/車内(早朝)

則男がバックミラーを見る。

後部席のドアが開き、榎本久美(50歳)に押されるように、榎本佳代子(79歳)が乗り込む。

久美は乗り込まず、外からドアを閉めようとする。

佳代子「お母さん、お母さんも一緒でしょ、一緒に行こう」

佳代子が車から出ようとする。

則男が久美の方を向く。

則男が久美に「乗って」という合図を送る。

久美が佳代子に話しかける。

久美「お母さんは前に乗るからね」

佳代子「うん、一緒に行こう」

佳代子が後部席のドアを閉め、助手席に乗り込む。

佳代子の不機嫌な表情を浮かべる。

則男と久美が小声で話す。

久美「一人で行ってよ、なんで一緒に」

則男「仕方ないだろ、グズられたら連れてけないんだから」

則男が車を走らせる。

佳代子が嬉しそうに外の景色を見ている。

則男「珍しいな、最近は子供に戻ることなかったのに」

久美「犬だって、わかるっていうから」

則男「何が?」

久美「飼ってる犬を捨てようとしたら、それを察して、いつもは喜んで散歩に行く犬が嫌がることがあるっていうじゃない」

則男「犬か・・・」

 

○山道(早朝)

日の出前、薄暗い明け方。

則男たちを乗せた車が走っている。

 

○車内(早朝)

久美「あと、どれくらい?」

佳代子「立花さんのおじいさん、最近、見ないけど」

久美「あ、変わった」

則男「桜の木の話」

佳代子「立花さんの庭に大きな桜の木があるでしょ、道路を広げるっていうんで(話が続く)」

久美が佳代子を無視して話をする。

久美「まだ、かかるの?」

則男「もう少し走らせよう、なるべく施設に近い方がいい」

久美「どうする、同じような家族から捨てられた人でいっぱいだったら?」

久美が微笑する。

則男「ボケ老人で?」

久美「そうよ。だって、あのニュース見たら、ボケ老人かかえてる家は、皆、同じこと考えるでしょ。捨てれば施設が引き取ってくれるんだって」

則男「まぁ・・・な」

久美「早めに知ってれば、何年も介護に追われなくて済んだのに、ホントにもう」

前方の彼方に灯りが見える。

久美「あれファミレス?」

則男「ドライブインかな」

久美「あそこで私、降ろして」

則男「「降ろして」って・・・」

久美「最後は、あなたが責任を持って捨ててきてよ、あなたのお母さんでしょ」

則男「でも」

久美「大丈夫よ、今の人格、子供じゃないんだし、母親役の私がいなくても言うこと聞くわよ」

則男「そんな・・・」

久美「殺そうっていうんじゃないのよ、保護されそうな場所に置いてくるだけなんだから」

則男が、ため息を吐く

 

○ドライブイン前(早朝)

24時間営業のドライブイン。

久美が車から降り、車が走り出す。

 

○車内(早朝)

走行する車内。

則男が無言で車を運転し、後部席の佳代子は眠っている。

 

○河原(早朝)

車が泊まっている。

運転席から降りた則男が後部席のドアを開ける。

眠っていた佳代子が目を覚ます。

佳代子が寒そうに腕をさする。

佳代子「お父さん、物置の毛布、取ってきてもらえます?則男がカゼを引かないようにしなくちゃ」

則男「(小声で)母さん・・・」

佳代子「あの子、いつも、この時期、真っ先にカゼひくんだから」

 

画面、黒に暗転。

タイトル「犬・猫・母」

 

黒い画面のまま、音だけが聞こえる。

 

ドアを閉める音。

走り出す車の音。