さようなら、サトウさん
○農村/道路(夕方)
安里道夫(32歳)が佐藤雪子(女性・27歳)と肩を寄せて歩いている。
雪子は雪のように真白な肌をしている。
道夫は雪子をかばうように肩に手を回している。
野原で遊んでいた子供たちが道夫たちを見つける。
子供たちが道夫たちの背後から、ゆっくりと近づく。
子供Aが道ばたの石を拾い、雪子に向かって投げる。
石が外れる。
子供A「外れたー」
道夫と雪子が、子供たちに気づいて早歩きになる。
子供Bが雪子に石を投げる。
石が雪子の指に当たる。
雪の指が粉のように散る。
子供B「命中!」
道夫と雪子が、より早足になる。
子供Cが石を投げる。
雪子の足首に当たる。
足首が粉砕され、足首から先が地面に落ちる。
足首から白い粉がこぼれる(血は出ない)。
前のめりに倒れそうになった雪子を道夫が抱え、走り出す。
子供Cが雪子の足首から先の部分を拾う。
子供C「俺のモン!」
子供Cが雪子の足首を舐める。
子供C「あめぇ」
子供たち「舐めさせてよ!」
子供たちが雪子の足首を舐めていく。
○安里邸/外観(夜)
廃れた旧家。
奥の部屋から電灯の光が漏れている。
○同/室内(夜)
洗面器に白い粉が盛られている。
洗面器の周りには砂糖の空き袋。
道夫が砂糖を手ですくい、雪子の指が欠けた箇所に当てる。
道夫が手を当てたまま話をする。
道夫「もともとは砂糖を名物にして栄えた村なのに・・・」
雪子が微笑む。
雪子「私たちの役目は終わったんですから」
道夫「まったく」
道夫が雪子の手に当てていた手を離す。
砂糖が床に落ちる。
砂糖の中から現れた雪子の手は、欠けていた指が元に戻っている。
道夫が洗面器から砂糖をすくう。
道夫「出して」
雪子が片方の足を前に出す。
足首から先が欠けている。
道夫が雪子の欠けている部分に砂糖を当てる。
手を当てたまま、じっとしている道夫を雪子が見ている。
雪子「もう、私のことはいいんですよ」
道夫「え?」
雪子「村を出ていっても」
道夫「どうして・・・」
雪子「今、土地を売れば、まとまったお金になるでしょう?」
道夫「・・・」
雪子「街に出る良い機会じゃないですか」
道夫「知ってたのかい?」
道夫が手を離す。
雪子の足首から先は欠ける前の状態に戻っている。
雪子が立ち上がる。
雪子「山の向こうに行きたいわ」
道夫「え?」
雪子「最後に山の向こうが見てみたいの」
雪子と道夫が見つめ合う。
○海岸線(昼)
道夫と雪子が歩いている。
日傘をさした雪子がはしゃいでいる。
○浜辺(昼)
道夫と雪子が歩いてくる。
雪子が日傘を道夫に預け、波打ち際まで近づく。
雪子が振り向き、道夫の方を見ながら、ゆっくりと(海へ向かって)後ずさりする。
雪子が足元から、ゆっくりと溶けていく。
道夫「痛くないかい」
雪子「大丈夫」
道夫「溶けて無くなった後は・・・」
雪子「無くなる訳じゃないのよ。海になるの」
道夫「俺には良く分からないけど・・・」
雪子「心配しないで、もし、あなたが海で遭難することがあったら、私のことを思い出して、助けに行くから」
溶けた雪子の体は上半身と下半身で体が分かれ、雪子の上半身が波に流されていく。
道夫「ああ、忘れないよ!」
雪子「私も忘れない」
雪子が微笑みながら、波間に溶けていく。