ナマズ
○会見場/入口(昼)
入口に「地震観測所・定期会見」の貼り紙。
○同/場内(昼)
壇上には主任観測官・竹村公和(42歳)が座って会見を行っている。
竹村「以上、今回の結果から、今後も東南海沖を震源とする・・・」
記者席には新聞記者らが座り、資料に目を通しながら、音声レコーダーを記録している。
竹村「・・・と思われます」
竹村が読んでいた資料を脇にやり、前を向く。
竹村「ところで、記者の皆さん、地震の原因はお分かりですか?」
記者たちが辺りを見回す。
竹村「地震が起きないかなぁって待ってる人いるでしょう?起きて欲しいだけじゃなくて、起きそうだなぁって思う人、いるでしょう?そういう感情を地球が察知して、大地は揺れるんです!」
記者席がザワザワする。
竹村「地震を起こすのは人の心!人の心が清ければ、地震は起きない!」
竹村が立ち上がって、会見場から立ち去っていく。
会見場に残されたスタッフ、記者たちが呆然としている。
○政府地震観測所/入口(夕方)
「政府地震観測所」の看板。
○竹村研究室/入口(夕方)
「竹村研究室」の名札。
入口ドアは開いたまま。
奥から「参ったなぁ」という男性の声。
○同/室内(夕方)
観測所・室長(54歳)とスタッフ(34歳)がノートを手にしている。
ノートには「地震」という文字だけがビッシリと書き綴られている。
ノートのページをめくると、同じように「地震」の文字が続く。
さらにノートをめくると徐々に「地震」の文字が大きくなる。
最後のページには1ページに1つの「地震」の大きな文字。
所長「私が予測は不可能だということをきちんとアピールすべきだったな・・・。彼を追いつめたのは私のせいだよ」
スタッフ「ここまで悩んでたなんて・・・、どうします、釈明会見」
所長「覚悟を決めるしかない」
○会見場/場内(昼)
記者が詰めかけている会見場。
所長が壇上で会見を行っている。
記者たちが所長を質問攻めにする。
記者A「年間20億の研究費が支払われている公的機関が出した結論が、あのような・・・」
記者Bが記者Aの質問を遮って質問を始める。
記者B「過度な成果主義が竹村研究員を精神的に・・・」
所長の頭の中で記者たちの質問がエコーのようにコダマする。
記者C「予想される東南海地震について・・・」
記者D「研究所の管理体制に問題が・・・」
記者F「他にも、あのような考えを持つ研究員が・・・」
所長の頭の中で質問が鳴り響いている。
所長は生気のない表情で、ノートにメモを取っている。
ノートには「地震」という文字だけが次々と書き足されていく。
突然、会見場が揺れる、震度4程の地震。
記者たちは質問を止め、揺れが止まるのを確認する。
所長が顔を上げ、ペンを置く。
所長が立ち上がる。
所長「これからも研究を続けて参ります!」
所長が壇上奥の控え室のドアを開け、入っていく。
記者たちの声「所長!」