特別な一日
○大通り(昼)
店舗が並ぶ通り。
人の姿はない。
1台のベンツが走ってくる。
コンビニの前でベンツが停まる。
ベンツからTシャツにジーンズ姿の庄司尚樹(29歳)が出てくる。
○コンビニ(昼)
コンビニのドア・ガラスが破壊されている。
ガラスに注意しながら庄司が店内に入る。
店内に店員の姿はない。
店内に灯りは点いておらず、店内放送も流れていない。
商品棚の菓子、食品、飲料は何も残っていない。
入口でガサッと音がする。
庄司が入口の方を見る。
スエット姿の水野沙織(22歳)が立っている。
庄司「誰?」
沙織「え?」
○通り(昼)
庄司と沙織がコンビニから出てくる。
庄司「何が起きたか知ってる?」
沙織が首を横に振る。
庄司「何やってた?」
沙織「え?」
庄司「何やってた、この3日」
沙織「何も」
庄司「俺がベットでぶっ倒れてた3日前まで、何も起きてなかった、何が起きたんだ、この3日で」
沙織「分からない」
庄司「この辺に住んでるの?何で知らないの?」
沙織「テレビも、ネットもやらないし」
庄司「誰かから情報は入ってくるだろ、こんなことになってて」
沙織が首を横に振る。
庄司「家族は?一人?」
沙織がうなずく。
庄司「ひきこもりか?」
沙織がうなずく。
庄司「携帯は?」
沙織がポケットから携帯を取り出す。
沙織「繋がらない」
庄司が沙織の携帯を見る。
庄司「auもダメか。携帯会社の問題じゃないんだな」
沙織「停電?」
庄司「docomoもダメ、基地局に電源が来てないんじゃないのか。ったく、パソコンのネットも繋がらないし、参ったな」
沙織「お腹すいた」
庄司「俺だって空いてるよ」
庄司が車の方に向かう。
○車内(昼)
走行中の車内。
庄司が車を運転している。
助手席に沙織が座っている。
○商店街(昼)
住宅街の小さな商店街。
人の姿はない。
大半の店先が破壊され、通りに商品が散乱している中、シャッターが降ろされ無事の「食品・生活雑貨 加藤商店」という店がある。
店の前にベンツが停まる。
沙織が加藤商店の前に立つ。
ベンツがシャッターに向かって、ゆっくりと前進する。
シャッターが曲がり、隙間ができる。
沙織が中に入る。
○河原(昼)
大きな橋のかかっている河川。
河原に車が停まっている。
庄司がドアを開けたまま菓子を食べている。
木陰から沙織が出てくる。
沙織の手にはティッシュペーパー。
庄司「済んだ?」
沙織「うん」
沙織が助手席に座り、菓子を食べ始める。
庄司「食べたり、出したり、忙しいな」
沙織が無視して菓子を食べる。
庄司「ようやく休みが取れたと思ったら…」
沙織「何やってる人?」
庄司「銀行、本社で国際金融の担当でさ」
沙織「国際?」。
庄司「為替、わかる?為替」
沙織が首を傾げる。
庄司「まぁ、いいや。それが、この1ヶ月、ムチャクチャ忙しくてさ、ベットの上で寝れたの5日だよ、1ヶ月で、たったの5日」
沙織「それ以外は?」
庄司「ほぼ徹夜、寝れたとしても会社のソファで仮眠とか」
沙織「無理!」
庄司「引きこもって、何してんの?」
沙織「寝てる」
庄司「ずっと?」
沙織「ずっと」
庄司「こっちは一週間休みを取るのに半年前からネゴってたんだぜ」
沙織「予定はあったの?」
庄司「とにかく寝る、携帯切って、枕元にミネラルウォーターとカロリーメイトとサプリを置いて、ひたすら寝貯めする」
沙織「3日前から」
庄司「ああ、ようやく起きようと思ったら…」
庄司が立ち上がって周りを見渡す。
町から風と川の音、鳥の鳴き声しか聞こえてこない。
庄司「家族は?」
沙織「え?」
庄司「こうなる前に実家から連絡無かった?」
沙織「着拒してるし」
庄司「そうか」
沙織「そっちは?」
庄司「留守電とかメールも相当残ってるんだけどさ、電池がさ」
沙織「見るのはできるんじゃないの?」
庄司「着信で電池減ってたのに、停電で繋がらないの知らなくてさ、発信やらネットやら試してたら、アッという間になくなったよ」
沙織「停電」
庄司「マンション、住んでるの?」
沙織「うん」
庄司「エレベーター止まってなかった?」
沙織「ついてないから」
庄司「管理人がオートロックと駐車場を開けてくれてたみたいで助かったけど、エレベーターはまいったね、17階だぜ」
沙織がペットボトルの飲料を飲みきり、ボトルを捨てる。
庄司「食った?」
○大通り(昼)
庄司と沙織を乗るベンツが走っている。
○車内(昼)
走行中の車内。
沙織「あ!」
庄司「ん?」
沙織「人」
庄司が車を停める。
シャッターの降りたビルの前に浮浪者数名が座っている。
庄司「窓開けて」
沙織が沙織側(歩道側)の窓を開ける。
庄司が運転席に座ったまま、浮浪者に大きな声で話しかける。
庄司「すいませーん!」
浮浪者が庄司の声に反応する。
庄司「なにが起きたか知ってますかー?」
浮浪者たちが話をしている。
庄司「なにがあったんですかー?」
浮浪者の一人が手にしたラジオを指差しながら答える。
浮浪者「地震だってよ」
庄司「地震があったんですかー」
浮浪者「起きるんだってよ」
沙織がつぶやく。
沙織「起きる?」
庄司が浮浪者に話しかける。
庄司「警報ですかー?」
浮浪者「ああー、(ラジオを指差しながら)今は聴けないぞ」
庄司「いつですかー?」
浮浪者「もう、そろそろだ」
庄司「ありがとうございました-!」
庄司がアクセルを吹かして車を発進させる。
沙織「乗せないの?」
庄司「臭いの嫌なんだよね」
○高速道路(夕方)
高速道路の入口。
ゲートが破壊されている。
庄司のベンツが高速道に乗り入れる。
○車内(夕方)
走行中の車内。
庄司「ベットで爆睡してる間に警報が出てたのか」
沙織「外がザワザワしてたかも」
庄司「はぁ・・・そうか、そういうことか」
沙織「なに?」
庄司「この1ヶ月、忙しかったのは為替が異常な動きだったからなんだけど、裏で、地震が来るっていう情報が巡ってたのかもしれない」
沙織「ふぅん」
庄司が車を停める。
○高速道路・ジャンクション(夕方)
ベンツが停車している。
○車内(夕方)
停車中の車内。
庄司「どっちに行く?」
沙織「さぁ」
庄司「東、西、北」
沙織「任せます」
庄司「よし」
庄司がアクセルを吹かす。
○高速道路(夕方)
ベンツが走行している。
○車内(夕方)
走行中の車内。
庄司がメーターに目をやる。
庄司「持って100km」
沙織「ガソリン?スタンドは?」
庄司「停電だろ、あっても動かないよ」
沙織「どうするの?」
庄司「さぁね」
庄司がアクセルを踏み込む。
○高速道路(夕方)
道路を走行しているのは庄司と沙織の乗るベンツのみ。
ベンツがスピードを上げる。
車内の庄司と沙織の表情が微笑んでいるかのように見える。