人間、売ります(1)
○歌舞伎町/通り(夜)
人々が行き交う繁華街。
警官たちが走っている。
警官A「どいて!」
人々をかき分けて警官たちが続く。
警官Bが無線に話しかける。
警官B「こちら三丁目交差点に向かって追跡中、状況確認お願いします」
○警視庁/外観(夜)
○同/監視指令室(夜)
数十台のモニターが並ぶ指令室。
モニターに映っているのは歌舞伎町に設置された防犯カメラの映像。
モニターに映る人々の顔が次々とスキャンされている。
モニターをチェックするスタッフたちが声を出す。
スタッフA「カメラ1から5、該当者発見できません」
スタッフB「カメラ6から10、該当者おらず」
後続のスタッフたちも同様に「該当者無し」の声。
立花義男(38歳)がスタッフに指示を出す。
立花「5分前から再スキャン」
○歌舞伎町/通り(夜)
警官たちが立ち止まっている。
警官B「(無線に)指示お願いします」
○警視庁/監視指令室(夜)
立花が無線に応答する。
立花「顔認証システム、整備中。しばらくは事件現場のコンビニから三丁目に抜ける道を再捜査」
無線の声「了解しました」
○警視庁/外観(昼)
○同/会議室(昼)
部長クラスの刑事たちが20名ほど集まっている。
前方には警視・須藤隆信(52歳)ら指揮官たちが並んで座り、立花の発言を聞ている。
立花「以上が昨夜の追跡結果となります」
須藤「その後も全く?」
立花「認証システムで該当者は発見できず、申し訳ございません。ただ、どこに身を潜ましている可能性を考えて、警官パトロールを常駐させております」
須藤「そうか・・・」
指揮官A「先ほど埼玉、千葉、新潟、福島、静岡の捜査本部に確認をとったが、どこも手がかりはなし。現在の犯行件数、都内11件、全国28カ所、犯行場所がコンビニ、飲食店なので額は小さいが、連続強盗としては過去に例がない、引き続き、気を引き締めて捜査に当たってくれ」
刑事たち「はい!」
○同/監視指令室(昼)
立花が部屋に入ってくる。
モニターには現在の歌舞伎町の映像が映っている。
モニターの一つに警官が映っている。
木下公平(34歳)が立花に話しかける。
木下「お疲れさまです」
立花「はぁ(溜息)。あれだけ監視カメラが見張ってる場所で、なぜ見失う!ってよ」
木下「(微笑んで)お疲れさまです」
立花「だって見つからないんだから、なぁ?」
木下「他の地区も?」
立花「ああ、他の現場も進展無しだって」
木下「現場じゃなくても、どっかのカメラで見つけてくれりゃいいんですけどね」
立花がモニターを見る。
立花「だよな、全国には監視カメラが何万台もあるんだから、その一つくらいが・・・」
立花が警官が映っているモニターをのぞき込む。
立花「こいつ、会議が始まる前から、ここに突っ立ってただろ?」
木下がパソコンを操作する。
モニターに映る警官の顔を認証する。
モニターに警官の個人情報が表示される。
木下「区役所通りの派出所の鴇沢って巡査ですね」
立花「鴇沢・・・、あ、前にシステム部にいた?」
木下「そうなんですか?」
立花「そうだ、仕事中にゲームで遊んでたか何かで、内勤から派出所に飛ばされた奴だよ」
木下「なんで知ってるんですか」
立花「家のパソコンの設定が面倒くさくてさ、システム部にいる後輩に頼んだら、代わりにコイツ寄越してきたんだよ」
木下「そうですか…。で、そいつが、ここでサボってる」
立花「こんな奴、派出所に出すなよ」
立花が携帯を操作する。
モニターの中の鴇沢が動きだし、姿が消える。
木下「あ、動いた。これでパトロール終了かよ」
立花「切り替えて」
木下がパソコンを操作する。
鴇沢がモニターに映る。
ゴミ回収車を待機させ、回収場所におかれたゴミ袋の封を開けている。
木下「ゴミ?」
立花「なにやってんだ?あいつ」
立花が携帯を操作する。
立花「あった」
木下「何がですか?」
立花「あいつの番号」
立花が携帯をかける。
立花「(木下に)驚かせてやる」
木下が笑う。
○区役所通り派出所・外観(夕方)
立花と木下が訪ねてくる。
○同・室内(夕方)
所内の奥にある部屋。
鴇沢潤(26歳)が立花と木下と向かい合って座っている。
立花「で、さっきの電話でした話、お前の推理から、もう一度、頼む」
鴇沢「ええ。全国で30件以上の犯行じゃないですか、コンビニ、牛丼屋、風俗店、金取った後は全部逃走ですよね」
木下「そうだ」
鴇沢「それで逃げきってる、でも手配された友川って50手前じゃないですか、すげぇ元気だなって」
立花「確かに」
鴇沢「それに前科持ちだっていっても、食い逃げと万引きでしょ、連続強盗するかなぁって」
木下「しかしカメラには奴の姿が映ってる」
鴇沢「でも、その後が完璧じゃないですか、町中のカメラでチェックしてるワケだし、どうして、そんなこと出来るかなぁ・・・って」
立花「それが、さっきの?」
鴇沢「3Dプリンターじゃないのかなぁって」
木下「マスク?」
立花「顔認証システムの裏をかいてる?」
鴇沢「そうじゃないかと思って、昨日、ホシが消えた辺りのゴミ漁ろうかなぁって」
木下「それで、あの」
立花、木下、鴇沢が部屋隅のゴミ袋を見る。
鴇沢「たぶん、あの中の燃えカスがマスクを燃やした跡だと思いますよ」
木下「ゴミの出所は?」
鴇沢「調べようがないですね、どこかの事務所から出たのか、通りすがりに捨てかもしれないし」
立花「まずは鑑識に回そう。しかし、本当にマスクを使ってるとしたら・・・」
木下「全国の警察が追いかけている犯人は別人という可能性がありますね」
鴇沢「それよりも、なんで友川なんですかね、そっちの方が不思議じゃないですか」
立花「ん?」
鴇沢「友川本人が、どこかで普通に生活しているなら、認識システムに引っかかるハズでじゃないですか」
木下「確かに全国手配だからな」
立花「マスクを作るのに、どういう手順が必要なんだ?」
鴇沢「精巧に作るならスキャナーでデータを取り込みますね」
立花「本人の協力が必要ってことか」
木下「それで友川が金もらってる?」
鴇沢「他の場所で同時に強盗が起きてないですしね、組織的に管理してるかもしれませんよ」
立花「木下、戻って、他にも全国規模の連続強盗が起きてないか調べてみよう」
木下「はい」