ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

ひょっとこババァ

○渋谷・スクランブル交差点(昼)

大勢の人々が行き交う交差点。

交差点脇に黒塗りの高級外車が停車している。

車の運転席のドアが開き、運転手・小松武(47歳)が後部席のドアを開ける。

車から高級コートを羽織った岩崎聡子(28歳)が出てくる。

聡子の顔にはコメディアン風メイク(鼻下の髭、赤い頬、太い眉など)が描かれている。

聡子がコートを脱いで運転手に預ける。

コートを脱いだ聡子は法被(はっぴ)姿である。

運転手「奥様、本当に・・・?」

聡子は軽く微笑みを浮かべ、交差点へ向かう。

交差点の入口で聡子が、ひょっとこの表情を浮かべ、安来節の動きで踊り始める。

行き交う人々は聡子から離れ、怪訝な表情で踊る聡子を見ている。

 

○岩崎邸/外観(夜)

広大な庭園の中に建つ大きな洋館。

男性の声「世間体を考えてくれよ!」

 

○岩崎邸内/大広間(夜)

邸内の大広間。

岩崎芳正(32歳)が聡子を睨んでいる。

芳正「君も岩崎家の人間だったら、軽率な行為はよしてくれ!」

聡子「でも、道隆を」

大広間には芳正と聡子の他に、兵藤浩一(43歳)ら数名の男性がいる。

兵藤が芳正に話しかける。

兵藤「旦那さんも、少し冷静になってください。奥さんも、母親として何かしなくちゃという気持ちが・・・」

芳正「そりゃ、道隆のことは私だって心配ですよ!父親なんですからね。でも、うちは普通の家とは違うんです」

兵藤が「感情を抑えて」というポーズをしながら芳正に話しかける。

兵藤「もちろん、それも分かってます。ただ、犯人の要求である以上、奥さんにとっていただいた行動は、我々警察としても非常に助かったんですよ」

芳正「そもそも、あなた方、警察の捜査はどうなってるんですか?誘拐から3日経っても手がかり無しって」

兵藤「警視庁としても、最大限の捜査体制で取り組んでいます。ただ、犯行動機が絞り込めない以上、捜査対象を広くとらざるを得ず・・・」

広間に置かれた固定電話が鳴る。

広間にいる刑事の一人が声を上げる。

刑事「犯人から電話です」

兵藤「よし、皆、静かに」

兵藤が傍聴機のヘッドフォンを耳に当て、芳正に「OK」の合図を送る。

聡子が芳正の隣へ駆け寄る。

芳正が受話器をとる。

芳正「はい、岩崎です」

電話の声「おい、お前は踊らないのか?」

芳正「いや、今日は抜けられない会議があって」

電話の声「息子はどうなってもいいってことか?」

聡子が芳正から受話器を奪う。

聡子「道隆は!道隆は無事ですか!」

電話の声「お母さん、よく踊ったよ」

聡子「息子の声を聴かせて下さい」

電話の声「無理だよ、要求、守ってくれないんだもの」

聡子が芳正を睨む。

電話の声「岩崎財閥の御曹司夫婦が渋谷の駅前でバカ踊りをする姿が見たいんだよねぇ」

聡子「夫の分まで私が何でもします!息子を返して下さい、お願いします!」

 

○渋谷/スクランブル交差点(昼)

行き交う人々。

人垣が出来ている。

電話の声「もっと笑える踊りを見せてくれ」

人垣の中で聡子が一心不乱に踊っている。

聡子のメイク、表情、衣装は笑いをとるために、以前より下品になっている。

人垣に集まった人たちは聡子の様子を写メを撮り、ツイッターフェイスブックに投稿している。

通行人A「あれ何?」

通行人B「ひょっとこババァでしょ」

通行人A「ひょっとこ?」

通行人B「最近、渋谷で有名らしいよ」

 

○渋谷/スクランブル交差点(昼)

雨が降っている。

人垣の人々は写メを撮っている。

電話の声「水着でバカ踊りしろよ、ハイレグのきっつい水着を着てさ」

聡子が水着姿で踊っている。

雨に濡れた聡子の顔のメイクは崩れ、頬を伝う水は雨か涙か判別できない。

 

○渋谷/駅前交番(昼)

通報者(30代・女性)が警官に話しかけている。

通報者「あの人、警察でどうにかできないの?駅前で、ああいうの不愉快なんですけど」

警官が奥に座っている兵藤を見る。

兵藤が軽く首を振る。

警官「すみません、あれだけでは犯罪じゃないんで、警察では・・・」

 

○岩崎邸/大広間(夜)

芳正「君は狂ってるよ!」

兵藤たち警察スタッフたちがいる中で芳正が聡子に怒鳴っている。

芳正「いくら岩崎グループがマスコミをねじ伏せたとしても、ネットで勝手に拡散されると手に負えない!わかってるのか!」

聡子「でも道隆が」

芳正「出回ってる写真を見て、聡子に似てるって電話があったよ。バレるのは時間の問題だよ。どうする?岩崎グループ代表の嫁が渋谷で裸踊りしてるってバレたら」

聡子「あの子は、どうなるんですか!」

芳正「もうお前は動くな!警察の仕事だ!」

聡子「要求を無視して、あの子が殺されたら・・・、あの子が殺されても、あなたは良いっていうんですね!」

芳正が一瞬、言葉に詰まる。

芳正「とにかく、君には、もう家にいてくれ!」

広間に置かれた電話が鳴る。

聡子が芳正を睨む。

芳正「岩崎グループ、15万人に関わる問題なんだよ!」

刑事「電話、お願いします!」

芳正が急いで電話の場所に向かい、受話器を取る。

聡子も芳正の隣に立つ。

芳正「はい、岩崎です」

電話の声「あんた、いい加減にしろよ、息子の命なんて、どうでもいいんだな」

芳正「何を言う」

電話の声「なんで俺たちの要求、無視すんの?見せてくれよ、岩崎財閥、若きリーダーのバカ踊り」

芳正「んぅ」

聡子が受話器に話しかける。

聡子「夫の代わりに私が何でもします、お願いします、息子を返して下さい!」

芳正が聡子を受話器から遠ざける。

電話の声「まったく、母の力は凄いな、感心するよ。もう、わかった、返してやる」

芳正「ホントですか!」

聡子「ありがとうございます!」

電話の声「ただ、条件がある。明日から1ヶ月、毎日24時間、踊り続けろ」

電話が切れる。

芳正が聡子に向かって首を振る。

聡子「やります」

芳正「ダメだ」

聡子「あなたが何といっても、私はやります」

芳正「許さん」

兵藤が間に入る。

兵藤「旦那さん、奥さん、冷静になりましょう」

芳正が聡子に背中を向け、ソファに座る。

聡子「印鑑をお渡しします」

芳正が振り向く。

聡子「岩崎家の名誉に傷がつくというなら、私を籍から外して下さって結構です」

芳正「は?」

聡子「離婚をしても、息子が生きて返ってくるなら、それで良いじゃないですか」

芳正「何を言う」

聡子「離婚をしても、岩崎家の恨んだりしませんから!私は、ただ、あの子を、道隆を」

 

○渋谷駅前/スクランブル交差点(昼)

聡子が狂ったように踊っている。

行き交う人々が笑いながら写メを撮っている。

 

××時間経過××

 

夜の雑踏。

聡子が狂ったように踊っている。

あざけ笑う人々。

 

××時間経過××

 

早朝。

行き交う人の少ない交差点。

聡子が狂ったように踊っている。

 

××時間経過××

 

昼間。

ゲリラ豪雨

聡子がズブ濡れで踊っている。

聡子が、傘をさしている通行人とぶつかる。

通行人「あぶねぇだろ」

聡子は狂ったように踊り続ける。

 

××時間経過××

 

疲労、陽射し、汚れで変わり果てた聡子が踊り続けている。

 

○岩崎邸/書斎(夜)

机の上に印鑑の押された離婚届け。

芳正が離婚届けを手に取り、弁護士に渡す。

弁護士「いいんですか?」

芳正「先生、あれは、もう狂人ですよ、キチガイだ」

弁護士「そうですか・・・。後々のトラブルが起きないよう、法的な処理はしておきます」

芳正「お願いします」

 

○車中(昼)

走行中の車内。

車内の装飾から高級車であることが分かる。

後部座席に学制服姿の岩崎道隆(14歳)が座っている。

車が停止する。

道隆「あっ」

運転手・小松武(57歳)が運転席に座っている。

 

○車/外観(昼)

車は渋谷駅前のスクランブル交差点の赤信号で停まっている。

小松の声「どうされました?道隆さま」

 

○車内(昼)

道隆「なんだか、ここを通るたびに、不思議な感覚がするんだよね」

小松「はぁ、そうですか・・・。あの・・・なにか話を・・・伺ったことは・・・」

道隆「話?」

小松「幼い頃の・・・」

道隆「ないね。小さな頃の話をすると、パパも気まずい雰囲気になるから、僕も、あんまりしないし、自分でも、あんまり覚えてないんだよね」

小松「はぁ、そうですか・・・」

道隆「小松は知ってるの?前のママのこと。パパは、前のママの話になるのを避けてるんだよね、絶対」

小松「いや、そんなこと・・・」

道隆「口止めされてんでしょ、いつか教えてよ」

車が動き始める。

 

◯渋谷・スクランブル交差点(昼)

車が行き交っている。

道隆の声「前のママ、元気に暮らしてんのかなぁ」