虎の尾を踏む男たち
○ホテル/客室内(夜)
高級ホテルの一室。
香川智久(51歳)が白石(60歳)と話をしている。
香川「契約書も?」
白石「もちろん、それだけの金額が動くんだ、先方だって必要だからね」
香川「研究を続ける限り?」
白石「そう、香川教授が向こうの研究室で研究を続ける限り、年間30億円の研究費を保証する」
香川「研究対象は、私の判断で決め手いいんですよね?」
白石「そう聞いてる」
香川が無言で考えている。
香川「条件は疑問を表明すること?」
白石「そう、スタンプ細胞の研究結果に疑問がある、共同研究者の香川教授から、その一言が欲しいんだ」
香川「それだけで?」
白石「理想的な研究環境を手に入れることができる、どうかね?」
香川が腕組みをして考え込む。
○基幹科学研究所/外観(昼)
○同/会議室(昼)
室内で年齢50代ぐらいの男性研究員、大井健次郎、西田修、芝崎秀一が話をしている。
テーブルの上に新聞紙。
新聞には「スタンプ細胞の研究結果に疑問?共同研究者から指摘」の見出し。
大井「オスラエル、国家機関?」
西田「日本人のエージェントを経由して話が行ったみたいです」
芝崎「うちの国で研究しないかって?」
西田「でしょう」
大井「象牙の塔の先生なら夢見そうなことですよ」
芝崎「飼い殺しなのに」
大井「オスラエル系の製薬会社は年間2、3兆の売り上げでしょ、不老不死のスタンプ細胞が実現したら国家的に大打撃になるって、ちょっと考えたら分かるじゃんなぁ」
西田「オスラエルの片隅で発表もされない研究を永遠と続けて人生を終えるんだろう」
芝崎「他に、確認できたのは?」
西田「岡山教授には中国系の製薬会社から接触が来ているみたいですね」
大井「データを買いとって、勝手に特許を申請?」
芝崎「だろうね」
西田「研究結果に疑問点があるから全てのデータを公開しろといってきたアメリカなんて、まだ可愛いもんですよ」
大井「虎の尾を踏んだなぁ、ちょっと画期的すぎた・・・」
三人とも無言になる。
西田「どうします?」
芝崎「ひとまず撤回しよう」
大井「そうしますか・・・、彼女は?」
西田「施設で匿ってます」
芝崎「今、外に出すと確実に殺される、自殺の形でね、ほとぼりの醒めるまで、そこで研究を続けてもらおう」
大井「欲のない良い研究者だったんだけどなぁ」
西田「次に発表を託せる研究者の登場を待ちましょう」
大井「いつまで待ちゃいいのかね、今年で干支が10回目、120歳」
芝崎「社会の変化と研究を託すにふさわしい研究者、待つしかないよ、50年でも100年でも」
西田「我々、明治の男はしつこいですからね」
大井「仕方ねぇなぁ」
画面フェイドイン。
テロップ「不老不死のメカニズムを解明した研究者たちも、医療産業の陰謀には叶わない」