ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

幻に生きる

○街(朝)

高層マンションが並ぶ、新興開発地域。

 

○滝沢宅/リビングルーム(朝)

マンション高層階の邸宅。

部屋着姿の滝沢均(36歳)が朝食を食べながらタブレットを操作している。

滝沢の手が止まり、食い入るように画面を見る。

滝沢が慌てて、画面をタッチする。

滝沢「舞!たいへんだ、舞!」

奥から滝沢舞(31歳)の声がする。

舞の声「今ストレッチ中」

滝沢が立ち上がる。

滝沢「出かける準備しろ!」

舞の声「まだ1セット残ってるから」

滝沢が出かける準備を始める。

滝沢「それどころじゃないん」

 

○街中(朝)

人通りの少ない清潔感のある街並み。

通りを一台の車が走っている。

 

○車内(朝)

走行中の車内。

滝沢が運転し、助手席に舞が座っている。

舞はスマホに自分の姿を写し、化粧や髪型を整えている。

舞「やだ、こんなので外を歩くの」

滝沢が車を運転しながら、膝元に置いたタブレットを操作している。

舞「ね、教えて、何、急いでるのよ」

滝沢「まだ誰にも言うんじゃないぞ」

舞が化粧を整えながら答える。

舞「うん」

滝沢「ビットコインが使えなくなる」

舞が化粧を整えながら答える。

舞「どういうこと?」

滝沢「ビットコインの価値がなくなった」

舞が化粧を整えながら答える。

舞「だから、どういうこと?」

滝沢「この生活も、預けてる金も、全部、失うんだよ」

舞が手を止めて、滝沢の方を見る。

舞「は?」

滝沢「まだ情報はオープンになってない。街の住民たちが気づく前に、俺たちの金だけでも、取り戻さなきゃいけないんだよ」

 

○行政役所/門前(朝)

滝沢が運転する車が止まり、滝沢と舞が車を降りる。

滝沢と舞が破壊された門を抜け、玄関ロビーの方を見つめる。

滝沢「先客がいるのか」

 

○同/玄関ロビー前(朝)

近代的な建築デザインの建物。

玄関前には「国や政府も関係ない。ビットコインから生まれた新たな街」、「この街の全ての決済はビットコインが保証します」など、この街がビットコインによって成り立つ特別区域であることをアピールする電子ポスターが掲示されている。

閉ざされた玄関の前に数十人の男女が集まり、ガラス張りの扉を叩いている。

スピーカーからは「認識システムが作動していません。速やかにドアから離れて下さい」というアラート音声が鳴り響いている。

集まった人々の「開けろ!」、「出てこい」という罵声が飛び交っている。

滝沢と舞も集まった人々に加わる。

後ろから車のクラクションの音。

慌てて、玄関前から離れる人々。

車が役所に突入し、ガラスドアを破る。

車から降りてきた男が「どこだ、出てこい!」と叫んでいる。

人々が役所の中に、なだれ込む。

滝沢と舞も中に入っていく。

玄関の奥から「こっちにいるぞ!」という声が聞こえる。

 

○同/廊下(朝)

ビットコイン・行政マネージメントユニット、セカンドマネージャー広重継彦(35歳)が三枝浩一(38歳)に胸倉を掴まれ、壁に押しつけられている。

三枝の周りには役所内に入ってきた人々が集まっている。滝沢と舞も様子を見ている。

三枝「何が知りませんだよ、俺たちのコインはどうなるんだ、おい!」

広重「分からないです」

三枝「マネージャーなんだろ、権限ぐらいあるだろうが、ここにいる皆の分だけでも、今すぐ換金して保証しろよ!」

広重が首を振る。

三枝が広重の頭を壁に打ちつける。

広重がキレる。

広重「テメェら勝手に入ってきやがって、強盗か!」

三枝「コインが崩壊してるんだったら、役所に不法侵入も何もねぇだろうが」

広重「だったら、俺も役人でも何でもねぇんだよ、何もできやしねぇよ」

奥からスマホを持った女性が声を上げる。

女性「ニュースやってる!」

スマホの画面にはテレビニュースが映っている宇。

 

○ニュース画面

街頭で争乱が起きている様子。

アナウンサーの声「ビットコイン崩壊のニュースを受け、行政特区内は警察や治安維持隊の活動が停止し、無政府状態となりつつあります。また、この状態に乗じて、特区の外部から強奪、略奪を目的とした集団が、大挙して境界線を突破しているという情報も入ってきています・・・誠に残念ながら、我々の放送局もビットコインによって運営しているため、これ以上の放送ができません。これより放送停止とさせていただきます」

画面が黒くなる。

 

○行政役所/廊下(朝)

皆が唖然とした表情で画面が黒くなったスマホを見ている。

三島が広重を殴る。

三島「この野郎!」

 

○山間部(夜)

山間に数軒の灯りが点っている。

 

○吉沢家/居間(夜)

吉沢幸恵(71歳)が話かけている。

幸恵「おばあちゃんの独り暮らしで、何もなくて、ごめんね」

滝沢と舞がおにぎりを食べている。

滝沢と舞は汚れて、やつれている。

滝沢「食べ物と寝る場所をいただけるだけで十分です」

舞「命があるだけで」

幸恵「逃げられて良かったね。この後のアテは?」

滝沢「隣の県に親戚がいるんで、そこまで逃げれば何とか」

幸恵「歩いていくには、まだ遠いよ」

舞「歩く以外にないんですよ」

幸恵「まぁ、まだ若いんだし、落ち着いたら、頑張って、またお金を稼げばいいんだよ」

滝沢「いや、もう懲りました。金とか、そういうワケの分からないことのためじゃなくて、生きる価値のある仕事をしたいですね」