宇宙の果て
○宇宙
宇宙空間を大型宇宙船が推進している。
○宇宙船内/操舵室
20名ほどのクルーが不安そうに外の光景を不安そうに見ている。
船長のジョージ(47歳)に副船長ルイ(42歳)が話しかける。
ルイ「エンジンルームのミサキ室長から修理は不可能だと」
ジョージ「停止も?」
ルイ「止めるにはエンジンを破壊するしかないようです。船ごと爆発するでしょう」
ジョージ「仮にエンジンが止まったとしても、このまま推進するだけだ、救助も間に合わんな」
通信担当のハンス(35歳)がジョージに話かける。
ハンス「ジョージ船長、ミッション・マニュアルから警告が出てます」
ジョージ「なんだ?」
ハンス「6時間毎にインフォメーション・ポッドを投下しろと」
ルイ「インフォメーション・ポッド?」
ハンス「状況報告をレポートするためのポッドだそうです」
ルイがジョージに話しかける。
ルイ「そんな航海規則ってありましたか?」
ジョージが腕組みをして考えごとをする。
ルイ「最初から、事故が想定されていたような」
ジョージがルイに小声で話しかける。
ジョージ「人柱」
ルイも小声でジョージに話しかける。
ルイ「技術的な試験は、さんざん行ってきたじゃないですか」
ジョージ「ダークエネルギーをエネルギーに変換するエンジンには何の問題もない」
ルイ「だったら、なぜ我々がモルモットに」
ジョージ「その無限のエネルギーを使って宇宙の果てに人類を送り届けたかったんじゃないのか、宇宙局は」
ルイ「え?」
ジョージ「無限のエネルギーを使って無限にエンジンを推進させて、我々を宇宙の果てに送るのが、この船の本当の任務だとしたら」
ルイ「トラブルは仕込まれてた?」
ジョージ「そういうことも考えられる」
ルイ「クルーは、どうなるんですか、62名の命は?」
ジョージ「船内マイクを」
ルイがマイクをオンにする。
ジョージがマイクに向かって、陽気な声で話しかける。
ジョージ「船内のスタッフのみんな、喜べ、我々は人類の歴史を変える偉大な航海のクルーとなる。目的地は前人未踏の宇宙の果てだ。このまま直進すれば、あと10日で宇宙の果てに到着する」
○宇宙
宇宙空間を推進する宇宙船。
ジョージの声「我々の航海日誌は地球側がピックアップすることになっている。素晴らしい体験を地球で待つ家族へ伝えることもできるんだぞ!」
宇宙船の後部から、進行方向とは反対側に向けて球(インフォメーション・ポッド)が発射される。
ジョージの声「さぁ、元気を出して、最高の旅を楽しもう!」
画面は次第に光に包まれる。
○光の中
光の中。
ジョージの声「こちらフロンティア号、宇宙局へ。おそらく、これが最後のポッドとなるだろう。もうじき宇宙の果だ。しかし宇宙の果てに到達する前に、我々は素晴らしい体験をしている。とても信じられないと思うんだが、信じて欲しい。今、我々は、あなたたちの前にいる」
画面が徐々に会議室へと変わる。
○宇宙局/会議室(昼)
宇宙局の幹部スタッフ5名が会議をしている。
スタッフA「最後のメッセージ、どう思います?」
スタッフB「臨死体験のようなものでしょう」
スタッフC「錯乱状態の一種ですよ」
スタッフD「我々に対する恨みなんじゃないんですかね」
スタッフたちの心の中にジョージの「違う」という声が響く。
スタッフたちの視線が一瞬泳ぎ、再び議論を始める。
スタッフA「どうしました?」
スタッフE「いや、なんでもない…。続けよう」