ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

あぁ無情

○雪道(昼)

雪が降りつもった幹線道路。

動けなくなった車が長く連なっている。

堀哲夫(45歳)がパンの入った箱を持って歩いている。

後ろの車の後部席の窓が開き、両手にパンを持った子供が顔を出す。

子供「おじちゃん、ありがとう!」

堀が振り向いて笑う。

堀「お腹いっぱい食べてね」

子供が手を振る。

運転席の親が、堀に頭を下げている。

堀も会釈を返し、再び前を向く。

停まっている車の運転席の窓をノックする。

窓が開き、高橋賢治(36歳)が顔を出す。

堀「お腹が空いてたら、パンどうですか?」

賢治が堀をじっと見る。

助手席の高橋佳枝(35歳)が賢治に話かける。

佳枝「なに?」

賢治「パンだって」

奥の席から高橋美奈(8歳)と高橋靖(5歳)が堀を見ている。

堀が美奈と靖にパンを手にとって見せる。

美奈と靖が微笑む。

賢治「いくら?」

堀「タダですよ」

賢治が佳枝に話しかける。

賢治「タダなんだって」

佳枝が堀に話しかける。

佳枝「どうして、タダなの?」

堀「商品回収の途中でトラックが停まっちゃって」

佳枝「それ、賞味期限切れの商品ってこと?イヤだ、おたくの会社は、そんなもの人に食べさせるつもり?」

堀「過ぎてても1日くらいだったら、お腹を壊したりは・・・」

堀がパンを手に取る。

佳枝がパンを見て、苦笑いする。

佳枝「ダメ、期限が切れてなくてもダメ、島崎パンでしょ。読んでるんです「食べてはイケナイ」。防カビ剤、防腐剤、加工油脂の塊、悪いけど、ウチではおたくのパン、口にしないようにしてるの、ね」

佳枝が美奈と靖の方を見る。

美奈と靖が曇る。

堀「そうですか・・・」

賢治「あと、島崎パンさんじゃ、どういう決済ルートなんですか?タダでパンを配るって、きちんと稟議とか回してるんですよね」

堀「稟議?」

賢治「僕の会社だとさ、100円単位のお金の動きでも、会社の業務は、稟議を回して決済を取る必要があるワケ、そういう手続きを踏んでるのかって話」

堀「いやぁ・・・、渋滞でお腹を空かせてるんじゃないかと思って」

賢治「あなたの独断で配ってるわけ?怖い、ますます受け取れないよ。後から、そちらの会社内で問題になったりしたら、こっちまで責任が及ぶかもしれないじゃないですか」

佳枝「お腹を壊した時も、運転手さんが全責任を?」

堀「あ、いや・・・。そんなつもりは・・・。じゃ、パンは大丈夫ですか?」

賢治「結構です。アドバイスですけど、これ以上、他の人を巻き込まない方が良いですよ」

堀「すみません、ありがとうございます」

車の窓が閉まる。

堀が前を向いて、前の車へと歩き始める。

堀が運転席の窓をノックする。

 

○雪道(夕方)

車は立ち往生したまま、長く連なっている。

 

○トラック・運転席(夕方)

停車中の小型トラック車内。

堀が腕組みをして眠っている。

ドアをノックする音がする。

堀が目を覚まし、窓を開ける。

外に賢治が立っている。

堀「はい?」

賢治「パンもらえないですか?」

堀「全部、配っちゃって、残ってないんですよ」

賢治「ああ・・・そうなんだ」

堀「すみません」

賢治が自分の車の方へ戻っていく。

堀が窓を閉め、再び腕組みをして、目をつぶる。