ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

物語が世界を創る

○神社・境内(昼)

木々に囲まれた境内。

階段を上がり終えた山内隆太郎(32歳)が一息つく。

山内「ふぅ」

山内が背負っていた荷物を下ろす。

四角く梱包され、大きく重たい荷物。

境内と隣接した祈祷所から祈祷客(老女)がデてくる。

客は奥に向かって「ありがとうございました」と深々と頭を下げ、境内を後にする。

すれ違いさまに山内に会釈をする客、つられて山内も会釈をする。

祈祷所の方から「あんた、山内さん?」という男性の声。

祈祷所から神主・葛城譲治(56歳)が出てくる。

山内「はい、山内です」

 

○神社・祈祷所内(昼)

神棚の飾られた板の間に座布団があるだけの質素な室内。

葛城と山内が座っている。

葛城が神主姿のまま、山内にお茶を出す。

葛城「さっきのおばあちゃんが持ってきたオハギあるんだけど、まだ神さんにお供えしてなくてね、お茶しかなくて申し訳ない」

山内「全然構いません」

葛城「かついで来たのが装置?」

山内「はい」

葛城「あれで中まで見通せるっちゅうわけ?」

山内「傷つけずに物質の構成要素を測定できます、こちらにある竜の骨も」

葛城が笑う。

葛城「うちらの村が奉っとるのは竜の鱗よ」

山内「すみません」

葛城「竜神様は、元々は火の神に仕えとったんじゃけども、神様に黙って火を吹いたり、悪さばっかりするもんじゃから、地上に落とされたんや。それで、この辺りの山も一度は全部焼き尽くされてしもうて」

山内「村に伝わる話ですね」

葛城「山の民たちの祈りが神様に通じてな、神様が竜様に言うた「民を助ければ再びお前を神の元に戻してやろう」。それ以来、うちらは竜を神社に奉り、竜は竜神様として村を守ってくれとるという話じゃ」

山内「その竜の鱗ですか」

葛城「そう」

山内「そんな大切なモノを調査させてくれるなんて、本当に助かります」

葛城「調査は別に構わんよ、あなたの業なんやから」

山内「業?」

葛城「業・・・、因果というか、縁というか」

山内が頷いて、何かを察した表情。

山内「それは祟り・・・ということですか?」

葛城が答えない。

山内「いや、実は、伝説のある施設に調査協力を申し込むと、たいてい祟りとか、呪いを理由にして断られるんですよ、困ってたんです」

葛城「いや、まぁ」

山内「こちらの神社は快く了解をいただいたので、その手の噂を信じていないのかと思ってましたが」

葛城「正直な話、うちらは竜神様を手厚く奉っとりますから、ムゲなことはせんと信じとります、ただ悪う思わないで欲しいんですが、余所から来た人のことを竜神様がどうなさるかは、うちらには関係のないことで・・・」

山内が笑う。

山内「大丈夫です」

山内が立ち上がる。

山内「では調査を始めさせてもらいます。遠くからスペクトルを当てるだけで済みますから、すぐに終わりますんで」

 

○神社・境内(夕)

山内が荷物を背負っている。

葛城が山内を見送る。

山内「あれは鯨ですね、鯨の髭です。昔、山に住む人たちと海に住む人たちで物々交換があったんでしょう」

葛城「そんなことはどうでもいいんです、うちらの村の者にとっては、あれは竜の鱗以外の何物でもないんですから」

葛城が微笑む。

山内も微笑む。

山内「じゃ、ありがとうございました」

葛城「気をつけて」

山内が階段を降りていく。

 

○神社・境内(昼)

葛城が境内の手入れをしている。

山内が境内に姿を現す。

山内は生気のない表情を浮かべ、小さなぬいぐるみを手にしている。

葛城「先生?」

山内「お久しぶりです、山内です」

葛城「どうしました、突然」

山内「もう一度、伺いたいと思ってまして」

葛城「研究発表、うまくいきましたか?」

山内は答えない。

葛城「調査に問題でも?」

山内がぬいぐるみを見る。

山内「論文をまとめてる時、息抜きのつもりで散歩に出たんですよ、娘を連れて。いつもの道で、今まで、そんなことなかったのに・・・、娘が急に走り出して、曲がり角を曲がった先で・・・」

山内が唇を噛みしめる。

葛城「どうして、ここへ?」

山内「散歩してる時、山奥の神社に行ってきたんだっていうと、私も行ってみたいなって」

山内が境内の様子を見せるようにぬいぐるみを動かす。

葛城が山内を見ている。

葛城「山内さん、私にとっては、そのぬいぐるみは単なる繊維の塊ですよ、でも山内さんには娘さんの想い出がこもった特別なものでしょう」

山内「ええ、そうです」

葛城「竜神様を信じていないんだったら、私がそのぬいぐるみに思い入れがないのと同じで、娘さんに起きたことは呪いや祟りなんかじゃないんですよ、恨まないで下さい」

山内「もちろん、そんなつもりで来たんじゃありません」

葛城が安心したよう表情をする。

山内「ただ、あの・・・お詫びは出来ませんか?」

葛城「何を?」

山内「龍神様に罰当りなことをしたお詫びです」

葛城「でも、それだと龍神様の伝説を信じることになりますが・・・」

山内がぬいぐるみを見ながら話す。

山内「娘のことで気づいたんです。娘の写真とか形見の品物、もっといえば、私たちの体だって、化学的に分析すれば単なる物質にすぎません。でも、物語が物質を物質ではない別の存在に変化させるんだと」

葛城「真剣に祈りを捧げるつもりだったら、村の者にも相談してみるが」

山内が深々と頭を下げる。

葛城「神話の世界へ、ようこそおいでになりました」