メッセージ・オン・ザ・ボート
○漆黒
暗い闇の世界、何も見えない。
かすかにエンジンの音がする。
黒石義広(35歳)の心の声が響く。
黒石の心の声「ん、俺、生きてるのか?目隠し?うう、手は後ろで縛られてるんだな、う、足もか、身動きはとれない。どこだ、ここ?揺れてる、船の上?(耳を澄ませて音を聞く)耳栓、船員の声もわからない、参ったな、お手上げだよ。殺されるのかな、このまま。あぁ、内閣府の役人までなれたのにな、最後は魚の餌か・・・いや待てよ、死体を消すのに、わざわざ海の上まで持ってくるか?町中でも死体は処分できるだろ。とすると何かの目的がある、交渉道具?いや無いな、だったら、こんな手荒なことはしない。殺すんだろうけど、死体を送りつけて、日本政府へのメッセージにするとか?(少しの間)背中につけた爪痕は死んだ後も残るのかな?死ぬ前に政府へメッセージを残せるかもしれない。こいつら、どこの国の奴らだ、思い出せ、どこで拉致られた、ホテルを出て、通りを歩いてるところまでは覚えてる・・・う〜ん、ダメだ、わからん。焦るな、冷静に考えろ、俺の死体が見つかって、国際問題になったとき、一番特をするのは、どこの国だ?殺されるまでに考えろ、ヒントはある」
○船・甲板上(夜)
船員が2人がかりで黒石を運んでる。
甲板上には5名ほどの船員が集まっている。
黒石が甲板上に置かれたゴムボートに乗せられる。
船員が黒石の体をボートに縛る。
黒石の心の声「そろそろ、俺に終わりが来る。今まで生きてきて、これほど考えを巡らせたことはない、人生の最後に俺が残すべきメッセージは一つしかなかった」
船員の一人が拳銃を目隠しをされたままの黒石の顔の前に持ってくる。
○船・遠景(夜)
拳銃の音が響く。
ゴム・ボートが海に落ちる音。
○黒石家・外観(夜)
○同・居間(夜)
黒石房江(32歳)と遠藤保(45歳)、西田純一(36歳)が話をしている。
房江「どうして夫は、そんな危険な任務を?」
遠藤が頭を下げている。
遠藤「本当に申し訳ございません」
房江が涙を流す。
房江「命を落とすような仕事だと分かってたなら、お仕事を変えてくれって言えたはずなのに」
西田「本当に、すみません」
房江「せめて、あの人が何をしていて命を落としたのか、教えてもらえませんか?」
遠藤「まだ公にできない話が・・・」
ドアの方から幼い女の子の声がする。
女の子の声「どうしたの?」
房江が涙を拭ってドアの方に向かう。
房江「茜、大丈夫だから、先に寝ててね」
遠藤と西田が顔を合わせる。
房江が戻ってくる。
房江「いつか娘が大きくなった時に、父親がなぜ亡くなったのか、説明する必要があると思うんです」
西田「まだ捜査の進展がないということも・・・」
房江「本当ですか?手がかりがあるんじゃないんですか」
遠藤が西田に目で合図を送り、房江に話しかける。
遠藤「実は一つだけ手がかりがありました。彼は体にメッセージを残していたんです」
房江「メッセージ?」
西田「後ろに縛られた手で背中に」
房江「なんて?」
遠藤「どういう意味が込められているのか、推理が錯綜していたんですが」
西田「アルファベットでエイ・ケー・エイ・エヌ・イー」
房江「あかね・・・」
遠藤と西田が頭を下げる。
○公園(昼)/イメージ映像
黒石義広、房江、娘の3人が手をつないで楽しそうに歩いている。
黒石の心の声「人生の最後に俺が残すべきメッセージは一つしかなかった」