成人式の夜
○山・遠景(夕方)
人家や畑の近くの小さな裏山。
山には草木が茂っている。
○山道(夕方)
野宮加奈子(6歳)が斉藤茜(6歳)を見ている。
茜は砂利道にしゃがみ、泣いている。
茜「なんで?加奈子ちゃん・・・加奈子ちゃん、なんで?」
加奈子が砂を掴み、茜(6歳)の口に入れる。
茜がむせて咳き込む。
加奈子が茜を突き飛ばす。
茜が道脇の用水池に落ちる。
少しの間があって水面からむせぶ音が聞こえる。
むせぶ音がゴボゴボと水を飲む音に変わり、手足をバタつかせる音がする。
加奈子は池を見ている。
すぐに音がしなくなるが、再びむせび、飲み、バタつかせる音がする。
水面からの聞こえる音の間隔が延び、弱くなっていく。
加奈子は池を見ている。
○市民ホール・外観(昼)
振り袖姿の女性やスーツ姿の男性がホール前に行き来している。
○同・入口前(昼)
「成人式」と書かれたパネル前でポーズをとって記念撮影をする振り袖姿の女の子たち。
女の子たち「イェーイ!」
女の子たちの中の一人、西田良美(20歳)が遠くを見ている。
良美が周りの女の子に話しかける。
良美「あそこにいるの茜ちゃんの両親だよね?」
入口から離れたところに茜(6歳)の遺影を手にした茜の父親と母親が立っている。
女の子A「茜って?」
良美「うちの小学校にいたの池で溺れた、ね、加奈子?」
斉藤加奈子(20歳)が茜の両親を見ながら答える。
加奈子「うん、覚えてる」
○居酒屋・外観(夜)
○同・店内(夜)
振り袖姿の女の子たちが盛り上がっている。
女の子A「ごめん、ちょっとお手洗い」
女の子B「私も」
良美「連れションかよ!」
席が少し静かになる。
女の子C「茜ちゃんの両親に挨拶した?」
良美「前通るのツラかったよねぇ、どういう表情していいもんかさぁ、加奈子も困ったでしょ?」
加奈子が困惑と苦笑いが後悔が入り混じった表情をする。