使えない奴ら
○会議室
窓のない地下会議室。
会議室の壁には「帝国主義粉砕・反米共闘!」、「労働者による国家体制の確立!」などのスローガンの紙が貼られ、棚には「反原発会議」などの見出しの書かれたビラが置かれている。
テーブルを挟んで、30代以上の年齢の男女、10名程が集まって話をしている。
東野真由子(46歳)がうなずきながら話をする。
東野「今の有田議長のアイデア、私は良いと思う」
有田良夫(52歳)が話を続ける。
有田「ちょうど都合良く、我々が支援している山田太郎が国会にいる、この機会を生かすのは今しかない」
桐原重光(45歳)が手を挙げる。
有田「なんだい?」
桐原「それ自己矛盾してませんか?」
東野「矛盾?」
有田が腕組みをする。
桐原「我々、赤丸革命軍の創設テーゼの一つに天皇制の完全否定があるじゃないですか。赤丸が山田に天皇に直訴させるってことは、赤丸は天皇の国家的な権威を認めているということになりませんかね?」
有田は桐野の話をじっと聞いている。
東野「違う、違うわ。これは天皇を認めてるんじゃないと思う、天皇を利用してるの、そうですよね、議長」
有田「うん、そうだね、そう、天皇を利用している。だから、矛盾はしていない」
桐原「天皇の権威を利用していることになるのでは?」
有田「それは認識が違う。我々が天皇を利用しているんだよ、つまり、天皇の地位は我々、労働者の下にあるんだ。権威を認めているわけではない」
桐原「そうでしょうか?」
有田「道具だよ、我々にとって単なる道具にしか過ぎない、道具に権威なんてない」
桐原は納得していない表情をする。
東野「議長、山田が直訴をした後、赤丸からも彼の行動を指示する声明を出すべきだと思います。その中で桐原第三書記が感じた矛盾に対する説明も加えておくべきです」
有田「うん、必要だろうね」
○印刷工場
新聞の輪転機が回っている様子。
雑誌が印刷されている様子。
そこに記事の見出しを伝えるテロップが被さる。
テロップ「山田議員、天皇陛下に手紙」
テロップ「使えるものなら天皇だって使ってしまえ!赤丸派、山田太郎へ直訴指令」
○テレビ・スタジオ
ニュース番組の収録を行っている。国会議員・浜崎浩一(65歳)がキャスターに話しかけている。
浜崎「私は陛下を心から尊敬してますけどね、そりゃ、世間には、そうじゃない人もいるってことは分かってる。だから、今回の件は、陛下に対して失礼だ、捕まえろとは言わないよ。でも、私が本当に気に食わないのが、相手が陛下であろうが、テレビの前の視聴者の皆さんであろうが、人のことをただの道具だっていう、自分にとってどうなのかってことしか頭にない奴らのことが許せんのだよ!」
○新宿駅・駅前(夕方)
群衆が集まっている。
群衆が囲んでいるのは浜崎の政治演説。
浜崎「赤丸だか、ハゲ丸だか知らないけど、人をモノにしか考えないような奴らを信用しちゃいけませんよ、あんなのが世の中にはびこったら、あなたたちも道具としてイイように使われてオシマイですよ!」
群衆から大歓声が起こる。
○車中(夕方)
停車している車の後部席に、演説を終えた浜崎と秘書が乗り込み、車が走り始める。
秘書「大歓声でしたね」
浜崎「こりゃ赤丸様様だな」
秘書が浜崎に、おしぼりを手渡す。
浜崎がおしぼりで顔を拭きながら、秘書に話しかける。
浜崎「赤丸の奴らみたいに理屈だけで生きてる奴らなんて、片手でチョンだよ。こっちは票のために土下座だってしてきたんだ、アピールするのに何を使えばいいのか、100倍わかってる」