みんな同罪
○山中(昼)
土石流の跡が残る山中。
上空には多数のヘリコプターが飛び、飛行音が響いている。
瓦礫や土石流を掘り起こしながら、捜索員たちが大きな声を出しているが、捜索員の声はヘリコプターの音にかき消されて聞こえない。
捜索員Aが捜索員Bに話かける。
捜索員Bは「何だって?」というジェスチャーをする。
捜索員Aは捜索員Bの耳元へ口を当て、大声で叫ぶ。
捜索員Bは首を振り、両手でクロスさせ×印を作る。
○芦田家・居間(夜)
六畳程の居間。
芦田満(38歳)、芦田景子(35歳)、芦田八重(7歳)がテレビを見ている。
テレビはヘリコプターから撮影された、土石流災害の捜索風景の映像。
テレビ音声・アナウンサー「今回の台風がもたらした中山町の大規模土石流跡では、今日も必死の捜索が続いています」
テレビ音声・コメンテイター「災害の日から、すでに2日か経過していますから、捜索は時間との戦いですね。捜索員の方の懸命の努力が救助に結びつくよう祈るしかありません」
テレビ音声がCMに入る音楽に切り替わる。
テレビの下には黒い箱が置かれている。
○放送局・外観(昼)
○同・社長室(昼)
ドアを開けて役員Aが入ってくる。
社長「どうした?」
役員A「民事訴訟を起こされたという知らせが」
社長「どこから」
役員A「ビル・ダーツです」
社長「ダーツ?バイクロ・ソフトの?」
役員A「はい」
社長「なんだね、特許か何かで?」
役員A「それが業務上過失致死でして」
社長「バカな、まさか収録中の事故なんて起こしちゃいないだろ」
役員A「訴状によると、夏に起きた台風で起きた土石流の事故で日本に来ていたダーツの子供が亡くなったじゃないですか」
社長「関係ないだろ、あれは事故だ」
役員A「検死の結果、事故から2日間は、まだ生きていたそうです。救助隊との連絡が取れれば、まだ助かったと」
社長「なら救助隊を訴えりゃいいじゃないか」
役員A「それがマスコミ取材陣のヘリコプターの騒音が原因で連絡が取れなかったと」
社長「はぁ?ヘリ飛ばしてたのは、ウチだけじゃない、バカバカしい」
役員A「ウチ以外の局と新聞社にも訴状が届いているようです」
○広告代理店・本社ビル外観(昼)
○同・役員室(昼)
大勢の役員たちが顔を合わせている。
社長「で、訴状が届いているクライアントは全部で何社になる?」
役員B「こちらで把握しているのは、全92社になります」
社長「起訴の理由は全部ウチと同じかね?」
役員B「はい、全社、業務上過失致死の幇助で訴えられています」
社長「スポンサーした番組の不祥事の責任で訴えてくるとなんて、アメリカ大富豪の考えることは・・・、まったく。法務、でも、勝てるんだろ、この裁判」
法務部担当者「番組や新聞の制作費とCMのスポット・フィーが直接関係ないこと証明すれば、負けることはありません」
役員C「ただ、裁判の勝ち負けはともかく、広告を出した先のトラブルでスポンサーも責任を取らされる可能性があるとなると、体への広告を控える会社が増えてくるかもしれません」
社長「全部署に通達、今回の件の報道を完全にウチがコントロールするように」
○芦田家・居間(夜)
満と景子が背広姿の高木(38歳)と話をしている。
高木の胸元には弁護士バッジ。
満「私たちはテレビを見ていただけですよ」
景子「それで訴えられるなんて、おかしいですよ」
高木「ダーツ氏は、視聴者が欲しがる情報をマスコミは優先的に提供する、つまり情報の受け手と送り手は共犯関係にある、というお考えです。詳しくは、訴状に目をお通し下さい」
満「だったら、テレビを見ていた何千万人を訴えて下さいよ、どうしてウチばっかり」
高木「日本の全世帯の視聴記録を調べることは不可能です、しかし、ダーツ氏は、視聴率調査会社の全株式を取得しました。事故が報道されていた頃、視聴率の測定期を設置していた家庭であれば把握できます。今回の訴訟は、そこから該当する全てのご家庭を相手に起こしたものです」
満と景子が手にした訴状を見つめている。