東京電力の新エネルギー
○繁田宅・室内(夜)
ワンルームマンション。
室内には繁田実(22歳)が一人。
繁田はパソコンのキーボードを叩いている。
○パソコン画面
2ちゃんねるの画面。
○繁田宅・室内(夜)
電灯の灯りやパソコンの画面が不安定に暗くなる。
繁田が窓の外を見る。
○町中
町中の灯りも同じように明るさが不安定。
○パソコン画面
2ちゃんねるの画面に「東電サボるな 潰れ炉 料金泥棒クソ盗電」の書き込み。
(キーボードを叩く音)
○繁田宅・室内(夜)
電灯が点灯する。
繁田「ざけんなよ」
○パソコン画面
2ちゃんねるの画面に「今から突入します」の書き込み。
○繁田宅・室内(夜)
繁田が窓の外を見る。
住宅街の外れに電気に関する施設らしき建物が見える。
○電気施設・入口(夜)
薄暗い灯りで「東京電力・新エネルギー・森戸南発電所」という施設の看板が照らされている。
看板の脇には「100%クリーンな新エネルギーであなたの町を明るくします」の文字。
繁田が通りかかる。
繁田よりも先に数名の住民が入口に来ており、施設スタッフに文句を言っている。
住民A「ここんところ毎日じゃないか!」
住民B「お宅の電気、危なっかしくて使えねぇよ、金返せよ」
住民A「石油でも原発でも何でもいいから、新エネルギーは止めろ」
スタッフが住民たちに頭を下げている。
繁田は施設の裏に回る。
○施設・裏(夜)
施設の裏は小山になっている。
繁田が小山の上から、塀で囲まれた施設の様子を見ている。
どこからともなく「ドサッ」と大きなモノが落ちる音。
少女の声「イタ」
繁田「ん?」
繁田が音のする方へ向かう。
塀際に白いスェットの上下を着た少女(12歳)が倒れている。
繁田が少女に近づき声をかける。
繁田「なにやってんの?」
少女「あ」
少女が後ずさりする。
繁田「なにもしないよ」
繁田が手を上に挙げる。
少女「ここ外?」
繁田「外って、何の?」
少女「発電所の?」
繁田「そう」
少女が辺りを見回しながら、ゆっくりと立ち上がる。
少女が匂いを嗅ぐ。
繁田「どうしたの?」
少女「これが外の世界なんだなって」
繁田「はぁ?」
○町中(夜)
不安定な明るさの街灯が照らす町中を繁田と少女が歩いている。
繁田「ホントに?」
少女「ホントよ、それが新エネルギーの正体」
繁田「独自に開発したバイオ技術だとかって説明だけど」
少女「バイオネーションね、人間の想念を利用した発電」
繁田「想念?」
少女「意識を集中させるの」
○<イメージ>発電所内
少年少女たちが一列に並んで椅子に座っている。
一人一人の前の机には水晶玉のような装置が置かれている。
少女の声「わたしたちが装置に向かって意識を集中すると電気が生まれるの」
水晶玉の中にプラズマのような光が発生する。
少女の声「施設の中で暮らして、毎日3時間ずつ交代で電気を出してるの」
少年少女たちが入れ替わる様子。
繁田の声「それじゃ奴隷じゃない」
少女の声「でも、電気を出せるのは13歳くらいまでだから」
少女Aが少年Aの方を見る。少年Aが少女Aを見つめ返す。
少女の声「女の子だったら生理、男の子だったら声変わりが始まると段々と電気が出なくなってくる」
○町中(夜)
不安定な街頭の光。
繁田と少女が歩いている。
繁田「電気が出せなくなったら、どうなるの?」
少女「連れてかれる、たぶん別の施設に移されて暮らしてるんじゃないのかな?」
繁田「なら、いいけど」
少女「お兄さんは、どうして、あんな所にいたの?」
繁田「いや、ちょっと」
少女「ちょっとって?」
繁田「電気の調子がさ、ちょっと」
少女が街灯を見上げる。
不安定な街灯の明かり。
少女「ここの担当、知ってる。同じシフトに入ってる子のことが気になるんだって」
後ろから急停車する車の音。
少女が後ろを振り向く。
少女が苦笑いしながら、繁田に話しかける。
少女「見つかちゃった」
車から発電所スタッフが降りてくる。
少女「人を好きになる自由くらい、あってもいいじゃない」
スタッフは少女の腕を捕まえ、車の方へ連れていく。
少女は観念したように抵抗しない。
少女「ね?」
少女を乗せた車はUターンして去っていく。
繁田が街灯を見上げる。
街灯の不安定な明かり。
繁田が微笑む。
繁田「うん」