ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

それぞれの戦後

○道路(昼)

南洋の島。

道路の脇には熱帯植物が茂っている。

一台の乗用車が走っている。

 

○乗用車・車内(昼)

石原辰郎(46歳)が車を運転している。石原昭夫(76歳)が助手席に座っている。

車内には辰郎と昭夫が二人。

辰郎「よかったよ、ほんと、父さんの具合も良くなって」

昭夫「おやじに挨拶するまでは死ぬに死ねんからな」

辰郎「爺ちゃんに挨拶したら安心してポックリいくんやないの?やめてよ」

昭夫「ばかなこというな」

昭夫は風呂敷包みをしっかりと手にしている。

 

○道路(昼)

辰郎の運転する車が走行している。

 

○車内(昼)

辰郎「この先に集落があるはずなんだけど」

昭夫が身を乗り出して前を見ている。

昭夫「あれだろう」

 

○集落(昼)

道沿いに店舗が並び、その辺りに数十軒の住居が建っている。

道脇に停めた車から辰郎たちが降りてくる。

昭夫は風呂敷包みを大事そうに抱えている。

辰郎「あそこの店の人に聞いてみるよ」

辰郎が店に近づくと中から初老の現地人男性(57歳)が出てくる。

男「ニホンジン?」

辰郎「日本語、大丈夫ですか?」

男「スコシネ」

辰郎「この辺りにお墓があるって知ってますか?」

男「ニホンジン?ヘイタイさん?」

辰郎「そう、戦争で亡くなった兵隊のお墓」

男「シッテル。アソコの道からスコシ登ったところにあるよ、案内スルヨ」

辰郎「助かります」

 

○山道(昼)

辰郎と昭夫と現地人男性が歩いている。

男が昭夫に話しかける。

男「アナタ、ヘイタイさんですか?」

辰郎「いや、彼のお父さんが兵隊、私のおじいちゃん」

男「このシマいいた?」

昭夫「帝国軍人としてお国のために・・・」

 

○<回想>石原家・玄関(昼)

昭和21年。

長屋のような家屋の玄関先で土下座をしている坊主頭の男性(35歳)がいる。

男性「上官として誠に申し訳なく思っております」

男性に石原ミチ(30歳)が声をかける。

ミチ「そんな・・・、頭を上げて下さい。あの時はそれが軍人としての役目だったんですから」

男性「すみませんでした」

男性は顔をあげない。

昭夫(8歳)が玄関の様子を奥の方から見ている

 

○<回想>石原家・居間(昼)

小さな居間の隅に位牌、線香、石原喜一郎の生前(25歳頃)の写真が置かれている。

ミチと昭夫が位牌に手を合わせている。

ミチが祈りを終えて目を開けると、まだ昭夫は祈っている。

昭夫が目を開ける。

ミチ「父さんの声、聞こえた?」

昭夫「うん、俺の分まで頑張れって」

ミチが昭夫の頭を撫でる。

ミチ「軍人として命がけで頑張ったんだ、お前も頑張らないと、父さん悲しむからね」

昭夫「うん」

 

○<回想>中学校・校庭(昼)

昭和27年、中学校の校庭隅。

昭夫(14歳)が少年たちと向かいあっている。

昭夫の着ている衣服は貧しいボロ着である。

少年たちは、ごく普通の衣服。

昭夫「貧乏でなにが悪い!お前らが、今、命があるのは、俺の父ちゃんが命がけで闘ったからだろうが!」

少年1「わかったよ、謝るよ、バカにして悪かった。平和にいこう、平和に」

少年たちが手を合わせて昭夫に頭を下げる。

 

○<回想>町工場・作業場(夜)

昭和35年。

下町の町工場、作業場。

誰もいない作業場、昭夫(22歳)が作業をしている。

町工場の扉が開き、社長(50歳)が入ってくる。

社長「昭夫、そろそろ上がれ」

昭夫「あと、これだけやれば、終わりますんで」

社長「ありがたいけども、無理すんな、明日に回しても、納期まで充分間に合うだろ」

昭夫が手を止める。

昭夫「早く終わらせて、加藤さんがやってる作業を教えてもらおうかと思って」

社長「偉いよ、お前は」

昭夫「俺の親父、23歳の頃には、もう自分の工務店開いてたんですよ」

社長「召集される前?」

昭夫「そうなんです、だから俺も頑張って親父に負けないようにしないと、浮かばれないだろうなと思って」

社長「大丈夫、お前の頑張りは天国で見守ってくれてるよ」

昭夫が微笑む。

昭夫「これ終わらせたら、声かけますんで」

昭夫が作業を始める。

社長「まったく」

社長が苦笑しながら作業場から出ていく。

 

○<回想>工務店・外観(昼)

木造平屋の事務所に「石原工務店」の看板。

 

○<回想>工務店・外観(昼)

昭和50年。

4階建ての鉄筋ビル、1階部分は車庫と事務所。

事務所には「石原工務店」の看板。

 

○<回想>工務店・事務所内(昼)

事務机が3卓ほど並んでいる事務所。

昭夫(40歳)が帳簿をつけている。

ランドセルを背負った辰郎が事務所のドアを開ける。

辰郎「ただいま」

扉を閉めてビル脇の階段を上がろうとする辰郎を昭夫が呼び止める。

昭夫「辰郎!」

辰郎が戻って、事務所に入ってくる。

辰郎「ん〜?」

昭夫「上に持ってけ」

辰郎「なに?」

昭夫が指をさした先に菓子折り。

菓子折りの前には喜一郎の写真が置かれている。

昭夫「お客さんが旅行に行ってきたって、お土産」

辰郎が菓子折りを手にする。

辰郎「あんこか」

昭夫「この饅頭、ばあちゃん好きなんだよ。じいちゃんには、下でお供えしたから、仏壇には供えなくてもいいよって」

辰郎「そう言ったって供えるけどね」

昭夫「そりゃ、お前、今の俺たちがあるのは」

辰郎「もう、その話は聞きあきたって」

辰郎が菓子折りを持って事務所から出ていく。

 

○山道(昼)

現地人男性、昭夫、辰郎が歩いている。

昭夫「仕事、大丈夫ですか。すみませんね、わざわざ」

男性「ニホンジンはタイセツなヒト」

辰郎「ありがとうございます」

男性「ワタシも半分ニホンジンだもの」

昭夫「そうだったんですか」

男性「下の村の人、オトウサンのコドモたち」

昭夫「オトウサンというのは日本人?」

男性「そう、ヘイタイさん。(小指を立てて)コレでシマに残ったヒト」

辰郎「そういう人もいるんだね」

男性「いっぱいコドモをツクッタね」

昭夫「あれかな?」

昭夫が指さす方に慰霊碑がある。

男性「ソウ」

辰郎「父さん、ようやく念願叶ったね」

昭夫は手にした風呂敷包みを慰霊碑の前に置き、慰霊碑に顔を近づける。

辰郎「名前ある?喜一郎」

昭夫「ある、石原喜一郎」

男性「キーチ?」

辰郎「喜一郎」

男性「私たちのオトウサンと同じね、キーチ」

辰郎「喜一郎、石原喜一郎」

昭夫は慰霊碑を撫でるように触り、涙を流している。

男性「オー、オトウサン、ヒシハラキーチ、イッショね」

辰郎「ホントに?すごい偶然だね」

男性がズボンのポケットから財布をとりだし写真を見せる。

子供と父親の古びた写真。

父親は喜一郎の遺影と同じ人物である。

男性「ボクがコドモの頃、オトウサンと」

写真を見た辰郎が沈黙する。

辰郎「父さん」

昭夫は慰霊碑を撫でている。

辰郎「父さん」

昭夫が振り向く。

辰郎が微笑む。

辰郎「ちょっとこっち来て」

 

○道路(昼)

亜熱帯の林が見える道路。

車が走っている。

現地人男性の声「オトウサンは軍隊から、この村にニゲテキタネ」

 

○車内(昼)

走行中の車内。

辰郎が運転している。

現地人男性の声「戦争がオワって、ナカマが呼びにキタケド、ココにノコったって」

助手席の昭夫が外を見ている。

現地人男性の声「いっぱいコドモ作ったから、よくハタラいたよ、ダイクさん、上手なダイクさん」

辰郎が昭夫の方を見る。

現地人男性の声「オトウサン、あのお墓で泣いてたね、カナシそうだった」

昭夫が達郎の方を見る。

現地人男性の声「オトウサンに一番カワイがられたよ。今でもアキ、アキって、ボクを呼ぶ声がキコエる」

辰郎「ばあちゃんが死ぬ前に、これ知ったら、どう思ったかね?」

昭夫「良かったって言うに決まってるよ、生きてたんだから」

昭夫が微笑む。

 

○道路(昼)

車が走っている。

辰郎の声「人生いろいろあるね」

昭夫の声「いい供養ができた」