誰がブレイクショットを突いたのか?
○ビリヤード場・場内(夜)
営業終了が終了し、照明の消えた店内。
唯一電灯の灯った奥のビリヤード台で野田剛(42歳)と吉崎保(38歳)が話をしている。
吉崎がクッションに向けて軽く球を突く。吉崎は反射する球の動きを見ている。
吉崎「球が一つしかなければ、その後、どこに行くかは予想がつく」
吉崎は止まった球でナインボールのブレイクショットを放つ。
一斉に乱れ動く球。
吉崎「でも、複雑に絡み合った動きは誰も予想ができない」
野田が散らばった球を指で触る。
野田「在特団の結成メンバーの中で橘、近藤、中山、大井、奴らは在日だな」
野田が球を指ではじき、ポケットに球を一つ落とす。
野田「在特団しばき隊の道下、阿部、木下も在日だった」
野田が球を指ではじき、ポケットに球を一つ落とす。
野田「橘、近藤、道下は民団青年部、中山、大井、阿部、木下は総連の行動班。在特団、しばき隊、どっちも民団と総連の金が入ってる」
野田がポケットに球を一つ落とす。
×××時間経過×××
野田「そして、あっちの国の高官と、こっちの国の議員、そして日本の庶民党の議員さんが利権を分ける仕組みになっている」
野田がポケットに球を一つ落とす。
吉崎「素晴らしい。一つ一つを厳密に追えば誤りもあるかもしれませんが、おおよその見立ては間違いないでしょう」
吉崎が手にしたキューを台の上に置く。
吉崎「で、警部さんは、それだけの情報を集めて、何をしたいんです?全員を逮捕したいとか?」
野田「まさか。球には興味がない」吉崎「ん?」
野田「興味があるのはブレイクショットを突いた奴だ」
吉崎「ほぅ」
野田「知ってんだろ?」
吉崎「どうでしょう」
野田「止めろと伝えてくれ」
吉崎「簡単に言うことを聞く方々じゃないと思いますよ」
野田「止めなければ、本当の情報をバラまく」
吉崎「条件は何ですか、金ですか?出世ですか?」
野田「そんなものはない、ただ止めりゃいいんだよ」
吉崎「あなた、どういう相手に交渉してるか分かってます?」
野田「情報のデータには毎日1回パスワードを送信する必要がある、パスワードが送信されなければ、データは世界各国の報道機関、警察、情報機関に一斉送信される。俺が死んで困るのは、そっちだ」
吉崎「なるほど。ブレイクショットを突いた奴らも、あんたの動きまでは読めなかっただろうな」
野田「アジアに平和を」
野田と吉崎が微笑む。