消費税とワシントン
○市民党本部ビル・外観(夜)
黒塗りの車が入口に停まる。
○同ビル・幹事長室外(夜)
ドア上に「幹事長室」の札。
○同ビル・幹事長室内(夜)
幹事長の峰川健作(61歳)ら数名の議員と経産省官僚、政策秘書ら数名が話をしている。
ドアがノックされ、首相の高部富雄(63歳)ら数名が入ってくる。
峰岸らが立ち上がる。
高部「見つかったって?」
峰岸「やれますよ、消費税」
高部「ホントに国会を乗り切れるのかね」
高部がソファに座り、一同も席に着く。
高部「憲法改正、そこに辿りつくまで政権を譲りたくはないんだよ」
峰岸「民衆党を黙らせる方法を見つけましたから」
高部「ほう、どんな?」
峰岸「政策秘書の片岡君からの情報です」
片岡「総理、ジョージ・ワシントン・キャピタル・サービスはご存じですか?」
高部「ワシントン?アメリカの金融会社?」
片岡「いえ。毎月3万円を預ければ3億円の利子を保証すると謳っている日本の会社です」
高部「そんなバカな」
峰岸「大がかりなキャンペーンをやっていて、かなりの数の顧客を集めているようです」
高部「詐欺じゃないのかね」
片岡「そこが集めた金に民衆党の議員たちが群がっているんです」
高部がニヤリと微笑む。
高部「消費税アップを宣言した後に、ワシントンにガサを入れる?」
片岡「そうです、金融庁、検察、マスコミに話はつけられます」
峰岸「民衆党が消費税を審議にかけたくとも、ワシントンの話が表になれば国会どころの騒ぎじゃなくなる」
片岡「国民の信頼も失いますし」
高部「政権は安泰だな」
高部が考える。
高部「よし、やろう」
○新聞印刷(イメージカット)
印刷される新聞の映像に記事見出しのテロップ。
テロップ「民衆党、消費税審議よりもワシントン社疑獄事件が大事?」
テロップ「ワシントン社事件 捜査一転、市民党議員にも巨額献金?」
テロップ「ワシントン社疑獄 追求のメス、市民党に倍返し!」
○市民党ビル・幹事長室内
高部が立ち上がっている。
席に座っている峰岸。
うつむきがちに席に座る10数名の議員たち。
高部が議員たちに怒鳴る。
高部「どうなってるんだ!君たちが献金をもらっていたおかげで」
高部の足下がふらつく。
峰岸が立ち上がり、高部の体を支える。
峰岸「総理、また次がありますよ」
高部「三度も返り咲くような総理はいない!」
○港町・街並み(夜)
寂れた飲み屋が並んでいる。
○小料理屋・店内(夜)
店内には女将(38歳)、カウンターには、一人客の片岡、二人客の三島(55歳)、吉田(60歳)がいる。
片岡が女将に話しかける。
片岡「女将さん、この辺りから遠洋の漁船出てますよね、船長さんに伝手あったりしませんか?」
女将「ちょうど(三島たちを見て)奥の三島さんたち、まぐろ漁をやってるのよ。(三島に)三島さん、こっちのお客さんが話があるって」
三島「なんだって?」
女将「仕事がしたいんだって。(片岡の方を見て)でしょ?」
三島「なんだよ、若造。簡単にできる仕事じゃないぞ」
片岡「わかってます」
吉田「どうした、しくじったか?何から逃げてんの?」
女将「やめて、失礼でしょ」
吉田「漁船に乗りてぇつったら、なんか理由がある奴に決まってるんだから、な」
片岡「まぁ、いろいろ八方ふさがりで」
三島「なんの仕事だよ、ポリとヤクザはお断りだぜ」
片岡「情報を扱う仕事を」
吉田「こっち、あっちに調子のいい話をして金ふんだくったんだろう」
片岡「金で動くような仕事はしてませんよ」
三島「じゃ、なんだよ」
片岡「日本を良くするためですよ」
吉田「なんだそりゃ」
片岡「消費税が上がると困るじゃないですか」
片岡が微笑む。
三島「ま、なんでもいいや、1年間、海の上で逃がしてやるよ」
吉田「ちょうど明後日から漁にでるから、用意しときな」
片岡「ありがとうございます」
三島「乾杯!」
片岡、吉田「かんぱーい」
三人が酒を飲み交わす。