神様は福島を救う
◯東京電力本社・外観(昼)
◯同・会議室入口(昼)
入口に「福島第一原発・対策検討会」の貼紙
◯同・会議室内(昼)
10名程の白衣を着た技術者が席に座りホワイトボードの方を見ている。
ホワイトボードの前に「東京電力技術部・垣内寿志」の名札をつけたスーツ姿の垣内寿志(46歳)が立っている。その横にスーツ姿の職員の姿が数名。
技術者たちの先頭の席には佐藤啓(62歳)と西田康一(55歳)が座っている。
佐藤「そんなの、かかる手間を考えると無駄じゃないですかねぇ」
西田「これだけの研究者が集まって検討を続けているんですよ」
垣内「もちろん先生方のおっしゃることは承知しております。ただ、我々、東電としましても、ポーズで構いませんので、外に向けたアピールをしないことにには、世間の皆様に納得してもらえないという事情がございまして」
西田「ポーズといっても、佐藤教授を始め、原子力災害に関する日本最高の知性が集まって協議を重ねているわけで」
垣内「もちろん、我々は先生方のご尽力は承知しております、感謝しております。ただマスコミや世論からの目線をそらすためにも」
佐藤「集まったアイデアを判断する権限は私たちにあるんですね」
垣内「もちろんです、こちらにお集まりいただいている皆さん以上に、福島の問題を的確に処理できる方はいませんから」
佐藤が鼻で笑う。
佐藤「仕方がないですね、じゃ、やるだけやってみたら、どうですか」
垣内「ありがとうございます」
垣内が頭を下げる。
◯同・会議室内(夕方)
技術者たちがいなくなった会議室。
垣内ら東電職員数名が残っている。
職員1「全くロクな対応策も考えつかないくせに」
職員2「”判断する権限”って、要は自分たち東大グループの権限を手放したくないってことでしょ」
垣内「(職員3に)京大の瀬戸博士の反応は?」
職員3「案はあるけど佐藤教授たちが採用してくれないんじゃないかって心配してましたね」
職位1「阪大の姫川教授も同じような反応でした」
垣内「そういうメンドくさい学閥を排除する為の企画なんだけどなぁ」
◯新聞記事
「東電が福島原発の対応策を一般公募」の記事が掲載されている。
◯東電・会議室(昼)
佐藤ら技術者たちが真剣な表情で論文を読み込んでいる。
佐藤が顔を上げる。
佐藤「このアイデアは、どこの研究所から?大学ですか、企業ですか」
垣内「いえ、個人で直接持ち込みをされたものです」
佐藤「どこかで研究はしているでしょう、こんな新しい理論に裏打ちされた具体策を立てられるということは」
垣内「言葉に、たどたどしいところがありましたから、海外の研究機関に長く勤めている方かもしれませんが、特に、そこまでは」
西田「だとしたら、中国やアジアの研究機関の技術スパイという線もあるんじゃないですか」
垣内「いちおう奥村と名乗ってはいましたけど」
佐藤「技術立国日本にとって技術情報は財産です。国外に流出しないように気をつけなければ」
垣内「とはいいましても、このアイデア、無視するわけには。一度、検証だけでも、どうでしょう」
佐藤が黙って考えている。
西田たちが佐藤をじっと見ている。
佐藤「いいでしょう、その人の話は聞いてみましょう」
○東電・会議室(昼)
奥村佑(36歳)がホワイトボードの前で講義をしている。
ホワイトボードには多くの計算式や図式が書き込まれている。
佐藤や西田たちは講義の内容を漏らさずノートに書き写している。
奥村「他に何か聞きたいことはありますか?」
奥村は、ところどころで変なアクセントの言葉遣いである。
佐藤「その理論の裏付けは、どこで行ったのかね?」
奥村「何か論理的におかしなところがありますか?」
西田「教授は、君がどこの研究機関に属しているのかと聞いているんだよ。(佐藤に)ですよね?」
奥村「(西田に)私の質問に答えてください、あなた方は、このアイデアの理論的な誤りを指摘できるのですか?」
西田が佐藤を見る。
佐藤「君の話は理論的には正しいかもしれない、いや・・・、正しいと認めよう。今まで対策が講じられなかったことも、この方法なら解決できるかもしれない」
会議室の隅に立っていた垣内が声を出す。
垣内「博士、では早急に」
佐藤「その前に、新しい技術の権利の所在を明らかにする必要があるんじゃないですか」
西田「そうですね、後で莫大なパテント料を要求されると困りますし」
佐藤「それに、もし、これがどこにも発表されていない画期的な方法だとすると、研究者として誰が後世に名を残すのか、という問題も出てくる」
西田「そうです、教授の仰る通りです。これは誰の成果なのか明確にする必要があります、(奥村に)仮に君が唱えた学説だとしても、それを実際に検証、証明したのが・・・」
奥村「それは、ここにいる皆さんで決めて下さい」
西田「は?」
奥村「ご自由にどうぞ」
佐藤「別に、私は君の手柄を横取りするつもりでは・・・」
奥村「この情報を提供するのは福島を危機から救うためです、目的が果たせれば、私は、それで充分です」
佐藤と西田が顔を合わせる。
○東電・ホール(昼)
報道陣が集まった記者会見の様子。
会見席に佐藤、西田らが座っている。
佐藤「以上に述べました方法を用いることで、メルトダウンを起こした原子炉の完全冷却、海水及び地表の放射生物質の除去などの早急実現が可能となります」
報道カメラのフラッシュがパラパラと光る。
記者A「佐藤教授、今、仰られた方法は、何を参考にされた方法なんでしょうか?私の知る限り世界的にも例のない・・・」
佐藤が満面の笑み。
佐藤「我々、東大研究室の独自理論を応用した全く新しい技術です」
カメラのフラッシュが一斉に光る。
○山岳地帯(夜)
雪の積もった高山。
吹雪いている。
飛行機やヘリコプターとも違う飛行物体が山腹の洞窟に入っていく。
○地球内部
洞窟と繋がった穴から飛行物体が出てくる。
地球の内部は空洞となっており、中央に小さな太陽が浮かんでいる。
太陽が照らす地表には都市が築かれている。
○地底都市・空港
飛行物体が停止している。
パイロット姿の奥村が上司らしき人物と話をしている。
二人は共に人類と同じ姿形。
話している言葉は理解できないため、以下の会話は字幕で表示される。
奥村「技術は伝えてきました」
上司「理解していたか?」
奥村「彼らの知識レベルに合わせた技術を選んで伝えたので大丈夫です」
上司「ありがとう」
上司と奥村が足下を見る。
上司「メルトダウンが進めば、我々の生活にも支障が出てくる。地表の民が、早く自分たちの身の丈にあった生き方に気づいてくれればいいんだが」
奥村「地表民とのやりとりをした印象だと、まだまだ、先になりそうですよ」