ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

<ボイスドラマ>世界霊性革命(愛子-3)

○マンション内
竹之内と橋爪が廊下を歩いている。
竹之内「ご足労いただいてすみません」
橋爪「いえ、こちらこそ。あの薄暗い研究室では気分もノラないでしょうし」
竹之内と橋爪が部屋に入る。
竹之内「頻繁に訪問できないものですから。(ドアを開ける)こちらの部屋になります、いかがでしょうか」
橋爪「明るくていいですね」
竹之内「そう言っていただけると」
橋爪「意識も集中しやすいでしょうし、こちらこそ助かります」
竹之内「研究の前に、部屋の中を確認されますか?」
橋爪「では、念のため」
橋爪がコンコンと壁を叩きながら室内を歩く。
橋爪「研究を始める時にはパーティションを?」
竹之内「また、ついたてを置かせてください」
橋爪が室内を歩く。
橋爪「携帯はお持ちですか?」
竹之内「あのお方はお持ちではありません」
橋爪「他に、離れたところから指示を受けられるような、例えばパソコンとか」
竹之内「こちらの席にお座りになるときは、持ち込まないようにお願いしております」
橋爪「どちらの椅子に座りますか?窓を背にした方ですか?」
竹之内「教授がご指定いただいて結構です」
橋爪「あのエアコンを隠すようなものはありますか?」
竹之内「エアコン?」
橋爪「この部屋の中で、カメラや、合図を出せる機械を隠せるのは、あのエアコンでしょう」
竹之内「布で覆うようにします」
橋爪「竹之内さんも同席されますよね」
竹之内「もちろん」
橋爪「では、今回は、ついたての私の側に座っていただけますか」
竹之内「はい、承知しました」
 
***(フェイドイン)***
 
橋爪「うん、いいね。じゃぁ次に、これは?」
少しの間が空く。
愛子「丸と線?丸の中に1本線、丸の下に2本線です」
橋爪「線の向きはどうなってるかな?」
愛子「全部、同じ方向…、あ、でも、まるの中の線が少し斜めになっています」
橋爪「よくできました、疲れたでしょう」
愛子「いえ、全く」
橋爪「カードのテストは、ここでおしまいにしようか、お疲れさま」
愛子「はい、ありがとうございました」
橋爪「少し竹之内さんとお話するから、そのまま待っててね」
橋爪「(竹之内に小声で)テスト以外の質問をしても大丈夫ですか?」
竹之内「(小声で)個人を特定するものでなければ」
橋爪「(小声で)大丈夫です、能力に関する質問です」
竹之内「(小声で)それでしたら、どうぞ」
橋爪「では、ちょっとお話を聞かせてもらえるかな」
愛子「はい」
橋爪「今、先生の手元にあるカードの絵柄を当ててもらったよね」
愛子「はい」
橋爪「目の前は金属で出来たついたてがある」
愛子「はい」
橋爪「何も見えないはずだ」
愛子「はい、見えていません」
橋爪「どうして分かったのかな、全部、当たってたよ」
愛子「うーん、なぜだかわからないんですけど、見えるんです」
橋爪「それはカードを見ようと思えば見えてくるのかな?」
愛子「えぇと、うーん」
橋爪「どうしたのかな?」
愛子「よくわかりません」
橋爪「よく分からない?」
愛子「見ようと思わなくても、見えるときもあります」
橋爪「勝手に映像が浮かんでくる感じ?」
愛子「はい、そうです」
橋爪「そういう時は、どうういうものが見えるの?」
愛子「いろいろです」
橋爪「いろいろって?」
愛子「人が思っていること、前に起きたこと、人やモノや、あと、これからおきることが見えることもあります」
橋爪「ちょっと待って、一つ、一つ、聞いてもいいかな?」
愛子「はい」
橋爪「人の思っていることって、心の中が見えるということかな?」
愛子「あぁ、はい、そうだと思います」
橋爪「たとえば、どんな時に?」
愛子「うぅん、教室でみんなが考えていることとか」
橋爪「わかるんだ」
愛子「(少し語気が弱く)は、はい」
橋爪「どうしたの、元気がなくなったけど、悪いこと聞いたかな?」
竹之内「(小声で)ご学友の心の中を知って傷ついたことがあるのです、できれば質問を変えていただけませんか」
橋爪「ごめんね、じゃ、話を変えよう、学校以外ならどうだろう?」
竹之内「はい、あとは、お正月、大勢の皆様を前にした時に」
竹之内「(ついたての向こうに)失礼します、竹之内でございます。そのお話は、別の話にしましょうか」
橋爪「あ、ごめんね、その話は、そこままで大丈夫」
愛子「え、は、はい」
橋爪「じゃ、今、先生の心が読めるかな?」
愛子「はい、先ほどから感じています」
橋爪「そうかい、じゃ聞かせてもらえるかい」
愛子「とても、まじめな方です」
橋爪「まじめ?」
愛子「まじめに私のことを考えてくれています」
橋爪「うん」
愛子「そういう方とお会いできるのは嬉しいです」
橋爪「そう言われると、こっちも嬉しいな」
愛子「人の気持ちを痛く感じることがあるので…」
竹之内「(ついたての向こうに)お話中、失礼します」
竹之内「(橋爪と愛子に)少しお疲れのようです、質問は、この辺りで終了ということでいかがでしょう」
橋爪「そうですか」
竹之内「少しお休みしましょう」
愛子「はい」
竹之内「先生を外にお連れしますので、ごゆっくりしててください」
愛子「はい、わかりました」
竹之内「先生、席を外しましょう」
橋爪「あ、はい」
竹之内と橋爪が席を立ち、外へ出る。
橋爪「じゃ、また、次もよろしく」
愛子「はい、楽しみにしています」
竹之内と橋爪が部屋を出て、廊下を歩く。
橋爪「(小声で)どうしました?」
竹之内「(小声で)外へ出てからです」
玄関のドアが閉まる。
橋爪「なぜ、外へ」
橋爪と竹之内が通路をエレベーターに向けて歩く。
竹之内「先ほどの会話でお分かりでしょう?あのお方は、全てを見通す力をお持ちです。離れた場所でなければ、全てを知られてしまいます」
橋爪「離れたって見通されますよ」
エレベーターのボタンを押す。
竹之内「気休めだと承知してますが、少しでも遠くの場所で話ができれば」
エレベーターの扉が開く。
橋爪と竹之内が乗り込み、エレベーターが降下する。
橋爪「彼女は確実に本物です、相当な能力者です」
竹之内「そう思われますか?」
橋爪「46枚のカード、全て正解でした。偶然では絶対にありえない」
竹之内「透視でしょうか?」
橋爪「カードテストの場合、研究者は2つの能力の可能性を検証します。透視か、カードを見た人の心を読んでいるかのいずれかです」
エレベーターのドアが開く。
竹之内「学者の方は、そういうお考えをなさるんですね」
橋爪と竹之内はマンションのエントランスを抜け、外へ出て行く。
橋爪「ただ、今回、カードは裏返したままでした、彼女が絵柄を口にするまで、私も答えを知りません」
竹之内「そうでしたね」
橋爪「透視能力でしょう、あんなレベルの能力者は見たことがない」
歩いている。
橋爪「伺ってもよろしいでしょうか?身元に関わることは聞きませんので」
竹之内「はい、大丈夫です」
橋爪「先ほどのカード以外の能力についてです」
竹之内「あのお方に質問なさっていた件ですか?未来や過去の」
橋爪「ええ、本当でしょうか?」
竹之内「全て真実です、私が証人です」
橋爪「どれくらいの確率で当たってましたか」
竹之内「大局的に見てハズレることはないと思います」
橋爪「大局的?」
竹之内「一見、ハズレたと思えることも、後々、仰った通りの結果になります」
橋爪「うん、そうですか」
竹之内「どうしました?」
橋爪「答えていただける範囲で構わないのですが」
竹之内「はい」
橋爪「後天的な能力でしょうか?それとも生まれついての能力なのでしょうか?」
竹之内「あのお方が3歳の頃からお世話をさせていただいております」
橋爪「5年前」
竹之内「少なくとも、その頃には、あの力を身につけておいででした」
橋爪「具体的には、どのような?」
竹之内「翌日の天気を当てるのです」
橋爪「なるほど」
竹之内「しばらくは、夕焼けが出れば晴れ、そういう空の様子でご判断されているのかと思っていました」
橋爪「そうじゃなかった?」
竹之内「ご両親のご旅行先の天気も当ててしまうのです」
橋爪「空の様子が見えない地方の天気」
竹之内「ええ、国内だけでなく、海外の旅行先も必ず当てるのです」
橋爪「そこで彼女には何か力があるのではと思い始めた」
竹之内「そうです」
橋爪「確信されたのは、いつ頃でしょう?」
竹之内「あのお方が5歳になったころです」
橋爪「それから3年…。なぜ、今になって、急にカウンセリングにいらしたんでしょう」
竹之内「あの方は、苦しまれています。私ども世話をする者たちも、そんなお姿を見ているのが心苦しく、協議の結果、信頼できうる先生に、ご相談すべきだと」
橋爪「その、苦しむ、というのは、能力が彼女を苦しめているということですか?制御できなくなっているとか?」
竹之内「我々はご本人ではありませんから、あくまで推測ですが、能力というよりも、能力で得られる情報に苦しんでらっしゃるのだと思います」
橋爪「先ほどの人の心が読めるという話ですね」
竹之内「はい、純真な子供たちも、徐々に世の中のことを知るにつれて、偏見や妬みなど、好ましくない意識を持ち始めます」
竹之内「はい、小等部に進んで以来、ご学友の中に、あのお方のことを心良く思わない方もいるようで」
橋爪「そういった悪意をキャッチしてしまう」
竹之内「そうです、態度に出ていなくとも、心の中の感情を敏感に察してしまうのだと思います」
橋爪「能力者には良くあることです」
竹之内「やはり、そういうものなのでしょうか」
橋爪「人々は能力者を、得体の知れない怪物として、目の敵にしたり、好奇の目で見るものです。耐え切れなくなった能力者は身を隠し能力を封印するか、心のバランスを崩してしまうか」
竹之内「あのお方から「なぜ人は人を信じ合えないのか?」と何度も質問をされました」
橋爪「学校へは、そのことを伝えていますか」
竹之内「目に見える被害を受けてはおりませんし…。なによりも、あのお方は、人を憎んだり、怒りを露にすることを好みません。学校へ訴えることもお望みにはならないはずです」
橋爪「騒がない方が良いでしょうね、火に油を注ぐようなものです」
竹之内「私どもも困っております」
橋爪「せめて、もう少し大人になっていれば、気持ちの整理のつけようもあると思いますが、小学生の子供には酷な話でしょう」
竹之内「あのお方の立場が立場だけに…」
少しの間が空く。
橋爪「竹之内さん、そこは私が踏み入れてはいけないところでしょう?」
竹之内「失礼いたしました、申し訳ございません」
橋爪「とにかく、彼女には、自分が特別な能力を持ち主だということ、その力を正しく使うことを教えてあげるべきです」
竹之内「ありがとうございます」
橋爪「澄みきった心の持ち主だということが、唯一の救いですね」
竹之内「私も、そう思います」
橋爪「あれだけの力を間違った方向に使われてしまうと、たいへんなことが起きる…」
(続く)