ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

平成の牛若丸

○下町の街角/夕方

通りを行き交う人々、買い物カゴを手に歩いてる女性、学校帰りの学生たち。

通りの脇には小さな町工場。

踏切が開くのを待つ人々の中にスーツ姿のサラリーマンが混じっている。

 

○町工場・外観/夕方

小さな鉄工所。

踏切を待っていたサラリーマンが訪ねてくる。

 

○町工場内/夕方

作業が終わり静かな作業場。

サラリーマンが声をかける。

サラリーマン「すみません、社長さんいらっしゃいますか?」

作業場の奥から中田隆三(66歳)が出てくる。

中田「はい、どなた?」

サラリーマン「午前中にお電話をしましたホワイトハウス証券の者です」

中田「あ?」

サラリーマン「投資のお話をさせていただいて、資料だけでもお届けしますと」

中田「わざわざ来たの?」

サラリーマン「はい」

サラリーマンが中田に名刺を差し出す。

中田が受け取った名刺には「ワシントン証券 開発営業部 部長 牛若丸三郎太」と書かれている。

中田「牛若丸?おたくの会社の社員さんは芸名なの?」

サラリーマンは牛若丸三郎太(49歳)である。

牛若丸「いえ、牛若丸三郎太は本名です」

中田が牛若丸の顔をしげしげと見る。

中田「あぁ、昔、テレビに?」

牛若丸「そうです、バブルの頃にテレビのCMに」

中田「あの人か・・・。今、ここに勤めてんだ」

牛若丸「外資系の証券会社です」

中田が名刺を見る。

中田「部長さん、出世して。資料なんて部下に任せりゃいいじゃない、直接来なくても」

牛若丸「いえ、肩書きは部長ですけど、部下がいないんですよ。覚えてます?CMのセリフ」

中田「CMの?」

牛若丸「24時間働けますか?」

中田「あったね、そういうの」

牛若丸「今の社員たちに、そういって仕事をさせるとパワハラだ、ブラック企業だの言われましてね、すぐにいなくなるんですよ」

中田「そういうの多いらしいね」

牛若丸「会社も、仕事で鬱になったとかで賠償金を請求されるのも嫌だから、私には部下をつけないようになって」

中田「それで資料を持って回ってんだ」

牛若丸「ええ」

中田が時計を見る。

時計は午後6時過ぎ。

中田「資料はいただいとくけど・・・、まだ仕事?」

牛若丸「いや、今は残業するのもうるさい時代なんで、このまま家に戻ります」

中田「CMのセリフと違うじゃない」

牛若丸「24時間働けません」

中田「こんな町まで来たんだ、ちょっと寄ってきなよ」

中田がお猪口を飲むフリをする。

 

○居酒屋・店内/夜

仕事帰りの地元の人で賑わっている居酒屋。

中田と牛若丸が席に座る。

中田が店員に声をかける。

中田「いつもの2人前」

店員「はい」

中田「バブルの頃は、こういうトコ、来なかったでしょ」

牛若丸「そうですね、だいたい仕事終わりは銀座が六本木でしたね」

中田が小指を立てる。

中田「こういうとこ?」

牛若丸「ええ」

中田「夢みたいな話だな」

 

×××時間経過×××

 

中田と牛若丸の前にビール瓶が並んでいる。

牛若丸「どこ行っちゃったんですかねぇ、バブル。もう少し続けられたとと思うんだけどなぁ、上の世代が悪いのか、下の世代が悪いのか、全く」

中田「仕方がないよ、時代だったんだもん」

牛若丸「でも、ホント、自分たちの世代は24時間シャカリキに働いて日本経済をを引っ張ってきたんですよ、それなのに」

中田「時代だよ、時代。俺のオヤジとオフクロなんて戦争の世代よ、でも、その世代の人たちが戦争大好きかってつったらさ、そうでもないもの。単に

、時代がそういう時代だっただけ」

牛若丸「でも、自分たちは会社の業績を」

中田「関係ないんだって、あの頃は、誰がやっても業績伸びてた時代なんだって」

牛若丸「いや、そんな」

中田「バブル世代のサラリーマンがそんなに優秀だったら、今の不景気なんて、とっくに吹き飛ばしてるよ」

牛若丸が苦笑いを浮かべる。

牛若丸「確かに」

中田「うちになんてバブルと関係なかったから、チマチマやってこれたんだもの。それがウチの取り柄。逆に、大変だろ、あんたの方こそ」

牛若丸「一度、イイ目を見てますからね、ホント、もう」

中田「とにかく浮き沈み無く、地道にやるのが一番ってことよ」

牛若丸「はぁ」

中田「よし、明日から頑張れよ」

中田が店員に声をかける。

中田「2人分、つけといて」

牛若丸「自分の分は」

牛若丸が財布を取り出そうとする。

中田「いいよ、腹一杯食っても、銀座で柿ピー頼むより安い店なんだから」

牛若丸「ごちそうさまです。あと、パンフレットを」

牛若丸が鞄の中からパンフレットを取り出そうとする。

中田「やっぱり時代だったんだなぁ」

牛若丸「え?」

中田「ビジネスの勘所がわかってなくとも世界を股にかけたジャパニーズ・ビジネスマンになれてた時代」

牛若丸「は?」

中田「さっきのやりとりの中に証券やる気はないよって伝えたつもりなんだけど」

牛若丸「そうですか・・・」

中田「ま、金に目がくらまないようい生きるんだな」