LINE殺人事件
○警察署内・取調室/昼
窓から光の射し込んでいる取調室。
椅子に座った少女が涙と鼻水を流しながら泣いている。
テーブルを挟んで少女と向かい合う小林達夫(52歳)が少女を見つめている。
部屋の隅で調書を記録している斉藤久志(34歳)が手を止め、少女を見る。
○市街地/夜
小林と斉藤が歩道を歩いている。
斉藤「小林さんの言ってた通りの展開になりましたね」
小林「刑事も長くやってりゃ、だいたいの先行きは読めるよ」
斉藤「あんなにすぐ捜査から外れるもんですかね」
○<回想>警察署内・署長室/昼
署長・平沢孝(35歳)が椅子に座っている。平沢のデスク前に小林と斉藤が立っている。
平沢「ご苦労さま。今回のヤマは、色々と処理することが多いから、ここからは私が直接当たるよ」
斉藤「署長がですか?」
小林の手が斉藤の腿裏を叩く。
平沢「一課の長島君には話を通してる、外れてくれて結構だ」
小林「了解しました。この後は?」
平沢「県警から派遣された捜査員が引き続く、引き継ぎも私がやっておくから」
小林「そうですか。了解です」
斉藤「了解しました・・・」
平沢「わかってるだろうが、捜査は継続するから、くれぐれも情報は外に漏らさないように」
小林「はい」
斉藤「殺人以外の件については・・・」
小林の手が斉藤の尻をつねる。
平沢「その件も私の管轄になる。問題ないよね?」
小林「もちろんです」
斉藤が小林をチラリと見る。
平沢「君たちには悪いようにはしない、捜査の邪魔をしなければ、な」
小林「了解しました」
○市街地/夜
小林と斉藤が歩いている。
斉藤「小林さんがいなかったら、俺、バカ署長に食ってかかるとこでしたよ」
小林「刑事なら察しろよ、取り調べの内容漏らすんじゃねぇぞって口止めだろ」
斉藤「さすがだなぁ。その後も展開も小林さんの読み通りですもんね、記者クラブを押さえて」
小林「だろ?最初は、うまい理由が見つからないみたいで外に出す供述が二転三転してたけど、最後はネットの喧嘩で押し切りやがって」
斉藤「新聞社の奴らも、いつもは偉そうなこと言っといてダラしないっすよね。記者クラブから閉め出すって言われて、ビビってんでしょ」
小林「違うね。こういう時は「記者の中に常連客いますけど、もし規制を破ればリークしますよ」って脅すんだよ。ハッタリだと思っても、もしホントだったら、その新聞社の信頼ガタ落ちだからさ、それ以上は深追いしなくなる」
斉藤「マスコミはそうやって操るんですか。でも、なんで、あのバカ、そんなにはりきってんですかね」
小林「どうせ自分のためだろ」
○<回想>警察署・署長室/昼
応接テーブルを挟んで山崎宏和(61歳)と平沢が座っている。
山崎「ところで、本題なんだけどもね」
平沢「はい」
山崎「山で見つかった死体の件、どうするつもりかな」
平沢「どうするといいますと?」
山崎「私本人が、という訳じゃないんだが、私に縁のある人が、あの女の子と会ったことがあるらしくてね、あの事件がどう処理されるのか相談があったんだ」
平沢「うちの捜査員が真相の究明を急いでおりますが」
山崎「究明は、どこまで進めるつもりかな」
平沢「どこまで、と申しますと?」
平沢の頬が少し緩む。
山崎「じれったい男だね、平沢署長も。要は、捜査は殺人事件で終わらせるつもりなのか、あの女の子たちの売春組織まで進めるつもりなのかってことだよ」
山崎が笑う。
平沢「進めようと思えば、どこまでも進めることはできますが」
平沢が笑う。
山崎「平沢君は、ここが最初の署長かな、まだまだ出世はしたいだろう、君も」
平沢「もちろんです」
山崎「この後、国会に戻って、西川政務次官に伝えておく、広島の平沢君は仕事のできる男だってね、それでいいかい」
平沢「ありがとうございます」
山崎「頼むよ、殺人犯を逮捕したら、速やかに手を引くように」
平沢「承知いたしました」
山崎「マスコミの管理も怠りなく」
平沢「はい」
○市街地/夜
小林と斉藤が通りを歩いている。
斉藤「でも、悔しくないすか、あんなバカの下で働いて」
小林「いくらバカでも、いちおう上長だから命令は守る、情報は漏らさない。ただ盗み聞きされて、記事にされるのは知ったこっちゃないよな」
斉藤「でも記事にする記者います?」
小林「週刊誌の記者は記者クラブと関係ないし、書くよ」
小林がビジネスホテルの前で足を止める。
小林と斉藤がビジネスホテルの中に入る。
○ビジネスホテル・喫茶店/夜
店内は客が一人、店員もいない。
小林と斉藤は先客のテーブルの隣に背中合わせで座る。
小林が斉藤に話しかける。
小林「あの女の子の交友関係を探ると面白い話が聞けるんだよなぁ」
斉藤「同じ高校の同級生、同じ中学を卒業しているフリーターの友達」
小林「ぜんぶ集めると30人位になるかな」
斉藤「お、県内で荒稼ぎしてる未成年売春グループのメンバーと同じ数ですね」
小林と斉藤が話を続ける。
隣のテーブルの男がメモを取り続けている。