あんまちゃん
○ラブホテル・外観/夜
○ラブホテル・室内/夜
香川哲(32歳)がスマートフォンを操作している。
スマートフォンには性感エステ店「デトリックス」のサイトが表示されている。
サイトには「当店人気ナンバー1」などの説明と共に「玲奈(21歳)」という看板嬢の顔出しグラビア画像が掲載されている。
ドアをノックする音。
香川がドアまで歩く。
香川「はい」
ドアの向こうから男性店員の声がする。
男性店員の声「デトリックスです」
香川がドアを開ける。
男性店員が入ってきて、ドアを閉める。
男性店員「玲奈さんをご指名のシバタ様ですか?」
香川「はい」
男性店員「初めて玲奈さんをご指名いただくお客様には、ご説明のお時間をいただいているのですが、少し、よろしいですか?この時間はプレイには含みませんので」
香川「はぁ」
男性店員「玲奈さん、ホームページではお知らせしていないのですが、一つだけ秘密があるんです」
香川「秘密?」
男性店員「実は、彼女、目が見えないんです」
香川「え?」
男性店員「サービスの点はご心配なく。目が見えない分、本当に従順でおとなしい性格ですので、お客様のお望み通りのプレイに応じてくれる女の子です」
香川「でも、それって始めに教えてくれないと」
男性店員「もしチェンジのご希望があれば、それでも構いません。ただ、その前にドアの外に出ていただいて、玲奈ちゃんを一目見てあげて下さい、来てますから。ウチのお店で抜群のルックスの女の子です。チェンジをするかどうかは本人を見た後で構いません」
香川「来てるんすか?」
男性店員「ドアの向こうで待機してますから、顔をご覧になって、お戻り下さい」
香川「ふーん」
香川がドアから顔を出す。
廊下には玲奈(21歳)がうつむいて立っている。
黒髪で清楚な女性である。
ドアの音を聞いた玲奈が顔を上げ、ドアの方へ微笑み、ささやくような声で話しかける。
玲奈「お客様ですか?」
香川店員「はい」
玲奈「よろしく、お願いします」
玲奈がペコリと会釈をする。
じっと玲奈を見ていた香川がドアを閉め、部屋の中に入る。
男性店員「いかがですか?」
香川「玲奈ちゃんのままでいいです」
男性店員「良かった、彼女も喜びます」
男性店員が香川に顔を近づけ、小声で話しかける。
男性店員「あと1つ、ぜひ守ってもらいたい約束がございます」
香川も小声で会話をする。
香川「なんですか?」
男性店員「玲奈ちゃんには、このお仕事のこと、他の目の見えない人も普通にやっている、按摩やマッサージの仕事だって伝えてるんです」
香川「ん、騙してる?」
男性店員「でも、どちらもお客様にスッキリしてもらうお仕事じゃないですか。彼女は、これが按摩のお仕事だと信じてるんですから、おわかりですよね?」
香川「う〜ん」
男性店員「じゃ、玲奈ちゃんに、入ってもらいます」
男性店員がドアを開け、玲奈を呼び込む。
入ってきた玲奈が香川のいない方へ向いて会釈をする。
玲奈「お呼びいただいてありがとうございます、玲奈です」
男性店員が玲奈の手をとって、香川の手を握らせる。
男性店員「お客様は、こっち」
玲奈「ごめんなさい」
男性店員「(玲奈に)しっかりお客様につかまって。(香川に)では、プレイの始まりになります」
男性店員が部屋から出ていく。
香川は玲奈の顔をじっと見ている。
玲奈「ありがとうございます」
香川「どうしたの?」
玲奈「私、目が見えないんです、私でも構いませんか?」
香川「聞いてるから大丈夫」
玲奈「上手くはないかもしれませんけど、一生懸命、按摩をします。やり方が違ってたら、仰ってください」
香川「ん、うん」
玲奈「まずはシャワーからになります」
玲奈が香川の体に手をかけて服を脱がしていく。
×××時間経過×××
玲奈が服を着ている。
香川が玲奈の背中のボタンを留めてあげる。
玲奈「シバタさんが優しいお客様で良かったです」
香川「いや、そんな」
玲奈「私の按摩、どうでしたか?」
香川「うん、上手かったよ」
玲奈「良かったです、コリはほぐれましたか?」
香川の動きが止まる。
香川「ああ、ありがとう」
○イメージカット
ラブホテルの外観、春の風景、夏の風景などのイメージカット。
香川の電話声「シバタですけど、玲奈ちゃんの予約を・・・」、「玲奈ちゃん予約空いてますか?」、「玲奈ちゃんで空いてる時間は?」など、香川が玲奈を指名予約する音声。
○ラブホテル・室内/夜
ベッドに横になっている香川と玲奈。二人とも裸である。
香川「聞いてもいいかな?」
玲奈「なんですか?」
香川「玲奈ちゃん、まだ、この仕事続けるつもり?」
玲奈「按摩のお仕事は年齢に関係ないお仕事だと聞いてますし、できる限りは」
香川「あのさ、いや、いいや、やっぱ」
玲奈「何ですか?」
香川「あの〜、どうしよっかな」
玲奈「何ですか、言って下さい」
香川「あのさ、これって玲奈ちゃんのお仕事を悪く言ってるんじゃないよ、でもね、玲奈ちゃんがやってる仕事って、これ、按摩じゃないんだよ」
玲奈「え?これは按摩やマッサージですよ」
香川「いや、あのね。うーん。そうだ、玲奈ちゃん、このお仕事をしてる理由ってあるの?」
玲奈「弟と妹がいるんです。私、目が見えないから、ちゃんと勉強ができなかったでしょ、だから二人には、きちんと学校で勉強させてあげたくて、塾に通わせたり、大学の学費を貯めてあげてるんです」
香川「そうなんだ…、えらいね」
玲奈「弟なんて、お姉ちゃんの目を治してやるって、医学部に進みたいって言ってくれて、だから学費もかかりますし」
香川が玲奈を見つめる。
○ワゴン車/夜
道路を走行中のワゴン車。
○ワゴン車・車中/夜
車中の後部座席には男性店員と玲奈が座っている。
玲奈はスマートフォンの画面を操作しながら、男性店員に話しかける。
玲奈「シバタって客、もうそろそろ見切り時かな」
男性店員「どうした?」
玲奈「家が大変なのって話したら、俺がなんとかする、だって」
男性店員「またウソついて」
玲奈「メクラって設定がウソなんだから、いいでしょ、それくらい。金、引っ張ったら、札幌の方の店に移してよ、あの人、マジだから逃げないと」
男性店員「また出た?頼む、仕事は辞めてくれ〜」
玲奈「ホント、男って純情だよね。(スマートフォンの画面を見ながら)あ、これだ、これ」
男性店員「なに?」
玲奈「まとまった金が引っ張れたら、これ買おっかな」
玲奈がスマートフォンの画面を男性店員に見せる。
画面には指輪のカタログが映っている。