帝国崩壊の序曲
○**本社ビル・外観/昼
大きくそびえ立つビル。
○**社内・大会議室内/昼
採用面接が行われている。
リクルートスーツを着た橋本敬子(22歳)、那須千鶴(23歳)、小山芽依(22歳)が横並びで座っている。
三人の前には、**社社長・富永陽一(59歳)、副社長・海藤武(52歳)、人事部長・夏木大介(46歳)ら会社役員10名ほどが並んで座っている。
役員らは履歴書や書類に目を通している。
夏木「では、最後に何か一言あれば、どうぞ」
橋本敬子が手を挙げる。
夏木「橋本君」
橋本「富永社長、私を覚えていませんか?」
役員たちが一斉に橋本を見る。
那須千鶴、小山芽依も橋本の方を見る。
富永が微笑んで答える。
富永「息子以外に、子供はいないはずだがね・・・」
役員たちも微笑む。
橋本「中学一年生の時、あのクラブにいたんですけど」
富永の顔から笑みが消える。
橋本「覚えてますよね」
富永の顔がひきつる。
役員たちが、ざわつく。
富永「なんのことかな、記憶に無いが」
橋本「あそこ、会社の保養所だったんですね、貸切の温泉、楽しかったです」
役員たちが富永の方を見る。
海藤の口元がゆるむ。
海藤「何の話をしてるのかな、橋本さん。具体的な話をしてもらえませんか」
橋本がポケットからSDカードを取り出す。
海藤が富永を見る。
富永の頬が震えている。
橋本「面接のお守りになるかと思って、あの時撮ったデジカメのデータ、持ってきてるんです」
海藤がニヤリと微笑む。
夏木「橋本さん、ここはそういう話をする場所じゃないですから、止めてもらって良いですか」
富永「橋本さん、君の話は採用とは関係ないことだよ、求めている人材は適正と実力だから」
話を終えた富永が海藤を睨む。
那須千鶴が毅然とした表情で手を挙げる。
那須「私もいいですか」
那須が立ち上がる。
夏木が顔を伏せる。
那須「私、人事部の夏木部長にホテルへ誘われました」
役員たちがざわつく。
富永「夏木君、なんてことを」
夏木は顔を伏せたまま。
那須「採用について話があるといって誘われました」
海藤「(夏木に)本当なのか?」
那須「もしマスコミに伝わると御社の信頼に傷がつくと思います」
橋本「それは、私の話も同じです」
小山芽依は醒めた表情で目の前の光景を見ている。
海藤「ひとまず君たちの面接は、ここで終了します。ありがとうございました。結果は、人事部から追って連絡させてもらいます」
橋本、那須、小山が立ち上がる。
橋本が微笑む。
橋本「よろしくお願いします」
那須が微笑む。
那須「ありがとうございました」
小山が軽く会釈する。
3人が退席する。
役員たちから、ため息が漏れる。
海藤「さて、どうしますか、今の話。マスコミ、株主、消費者、騒ぎだす前に手を打たないと」
富永が海藤を睨む。
富永「あぁそうか、そういうことか」
海藤「どうしました?」
富永「社長の座から引きずり落とそうと、副社長の派閥が私の身辺を洗ってる、情報をくれた者がいるんだが」
海藤「何の話ですか」
富永「仕組んだな」
海藤「何を言ってるんですか」
富永「君たちが犯してることこそ、会社に対する背任行為だ」
海藤「八つ当たりは止めてください」
富永が立ち上がり、海藤に殴りかかろうとするが、周りの役員に羽交い締めにされる。
海藤は静かに立ち上がる。
海藤「仮に、私が仕組んだとしても、社会に貢献すべき我が社の社長が、中学生デートクラブの会員だというのは、ねぇ」
海藤が周りのスタッフに微笑む。
海藤「ひとまずは夏木部長の件を隠れ蓑にしてあなたが引責辞任すれば、社長の少女売春というスキャンダルの火種は消せますよ、ちょうどいい幕引きなんじゃないですか」
富永「なんだと、この野郎!」
役員A、Bが騒動を収拾するように割って入る。
役員A「それよりも、今の面接の結果、どうしますか?」
役員B「筆記も面接も、小山君でしょう。将来有望な人材です」
ドアがノックする音。
役員A「どうぞ」
人事スタッフAが入ってくる。
人事スタッフA「あの、今、面接を受けた小山さん、採用されたとしても辞退するので自分の結果は検討しなくても結構です、と」
役員Bの手元。
手元は小山芽依の面接評価シート。
ペン先がシートの項目「状況を的確に判断した対応」のチェックシートに移動し、三重丸の印を書き込む。