ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

文殊の知恵

○研究施設・外観/朝
広大な敷地内にある大きな研究施設。
職員たちが出社している。
 
○研究施設・職員事務室内/朝
20名ほどの職員が集まっている。研究チーム主任・鮫島幸司(48歳)と中田友貴(26歳)が予定表の前に立ち、集まった職員に向けて挨拶をする。
鮫島「この度、研究チームに配属となった中田君です。東大で量子物理の…(中田の方を見る)」
中田「高島研究室です」
鮫島「高島研究室、古沢君、滝本君の後輩にあたるのかな?研究チームとしては3年ぶりの新規スタッフ、希望に燃えている優秀な人材だから、皆さんお手柔らかに指導をお願いします。じゃ、中田君」
微笑する職員たち。
中田「今、紹介をいただきました中田友貴と申します。この度、研究チームの一員として勤務することとなりました。日本の原子力エネルギーの平和利用、有効活用の未来を築けるよう精一杯頑張りますので、ご指導よろしくお願い申しあげます」
職員たちの拍手。
 
○施設内・通路/昼
施設内の通路を鮫島と中田が歩いている。
鮫島「悪いね、今すぐにでも研究を始めたいだろうけど。何日かは研究スタッフの仕事を見学してもらった方が君の為になるだろうから」
中田「全然、大丈夫です」
鮫島がドアの前で立ち止まる。
ドアには「第1研究室」の文字。
鮫島「まずは、ここから」
中田「はい」
鮫島がドアをノックする。
ドアの向こうから、古沢正治(33歳)の声がする。
古沢「はい」
鮫島「邪魔するよ」
鮫島がドアを開ける。
 
○第1研究室内/昼
室内に鮫島、中田、古沢、湯川久(39歳)、香坂義男(44歳)。
湯川「新人研修ですか?」
鮫島「そう、最初はここの研究室からお願いしようかと思って」
香坂「責任重大だな」
鮫島「(古沢に)後輩にみっちり仕事を教えてください」
古沢「教えるほどの仕事は」
中田「よろしくお願いします」
鮫島「じゃ、一通り終わったら、連絡を下さい」
湯川「はい」
鮫島が退出する。
湯川「(香坂に)なにを見てもらいましょう」
香坂「概論に目を通してもらおうか」
湯川「(古沢に)あれ、持ってきて」
古沢「はい」
香坂「簡単な書類を渡すから、誤りがあれば指摘してみて。クイズを解くようなつもりで気楽に」
古沢が資料棚から20ページ程の論文の束を持ってくる。
古沢「さぁ、どうだ」
 
×××時間経過×××
 
中田が論文を読みながらノートにメモをとっている。
香坂はパソコンに向かい、湯川は本を読み、古沢は手書きの原稿を書いている。
 
×××時間経過×××
 
中田が自分が書いたノートを読み返している。
中田「できました」
古沢が立ち上がり、中田のノートを手に取る。
古沢「うん、なるほど、こことここね、うん、うん」
湯川「どう?」
古沢が湯川にノートを渡す。
古沢「目のつけどころは、いいと思います」
湯川がノートに軽く目を通し、香坂に渡す。
湯川「ほぅ、優秀」
香坂がノートに目を通す。
中田「いかがでしょう?」
香坂「うん、いいね」
中田「良かった」
香坂「よし合格点」
中田「毎日、こう論文の対応研究を行ってるんですか?」
中田が各人の机を見る。
古沢の机には原稿用紙が重ねられている。
香坂「古沢君はね、同人誌を作ってるんだ」
中田「は?」
古沢「ライトノベルとかじゃなくて純文学、同人ていってもコミケじゃなくて仲間内だけの楽しんでるだけで」
湯川「(中田に)読むのはミステリーとか?」
中田「いえ、特に決まったジャンルは」
湯川「彼の書くのは真面目な小説だけど、格調のある文学で実力あると思うよ」
古沢「いや、単なる自己満ですから」
中田が湯川の机の目を向ける。
湯川が読んでいた本は料理本。
中田「その本は?」
香坂「湯川君はレシピを読むと、だいたいの料理を再現できる味覚の達人なんだよ」
古沢「研究所でパーティやる時は、湯川さんが料理担当」
中田「はぁ、そうですか」
中田が香坂の机に目を向けると、パソコンのモニターには碁盤が表示されている。
中田「(香坂に)そのパソコンは?」
古沢「「OH!ATARI」って囲碁ソフト知ってる?」
中田「知りません」
湯川「世界最強の対戦囲碁ソフト。それを作ってる「碁レンジャー」っていうプログラマー集団」
古沢「碁レンジャーの碁は数字の五じゃなくて囲碁の碁」
湯川「香坂さん、そこの赤レンジャーなんだよ」
香坂「世界最強っていっても、ライバルは国内しかいないけど」
中田「はぁ」
香坂「じゃ、鮫島さんに次の研究室を案内してもらいなさい」
 
○施設内・通路/昼
鮫島と中田が歩いている。
中田が釈然としない表情。
中田が窓の外を見ると、キャッチボールをしている職員の姿。
鮫島が「第2研究室」と書かれたドアの前で立ち止まる。
鮫島「次は、ここを見てもらおうか?」
中田「あ、はい」
 
○第2研究室内/昼
鮫島と中田が中に入ってくる。
室内中央に大きな水槽が置かれている。水槽は藻で覆われている。
中田「これは?」
研究室の奥から三島健太郎(45歳)、早川幸夫(35歳)が出てくる。
三島「あ、新人研修の番ですか?」
鮫島「(水槽を見て)これを説明してくれないか?」
三島「(中田に)なんだと思う?」
中田「汚染水の処理を研究している、とか?」
早川「まじめだなぁ」
三島「ヘラブナを飼っててね」
早川が足下に立てかけられていた小さな釣り竿を手に取る。
早川「釣り堀」
中田「え?」
中田が鮫島の方を見る。
中田「いいんですか?」
早川「去年の釣り大会、優勝、鮫島さんだから」
鮫島「あれ、まぐれだよ」
中田「は?」
奥の方から「チーン」と音がする。
大倉真智子(38歳)の声がする。
大倉の声「焼けました〜」
大倉が焼きたてのパンを持って出てくる。
大倉が中田に気づく。
大倉「中田君だっけ?お腹空いてない?」
中田「あの、それ?」
大倉「研究所で培養したイースト菌で焼いてるの」
三島「(中田に)美味しいよ、大倉さんのパンは」
中田が呆然としている。
鮫島「じゃ、中田君を預けるから、研修してあげて」
三島「なにしてもらおうかなぁ・・・」
 
○施設内・通路/夕方
鮫島と中田が歩いている。
鮫島「どうだった、研修初日は?」
中田が神妙な表情。
鮫島「言いたいことがあれば、なんでもどうぞ」
中田「あのぅ、皆さんのしていることは仕事なんでしょうか?自分は日本の未来がかかった研究施設だと聞いて、ここに」
鮫島「第2研究室でも論文は読んだ?」
中田「あ、はい」
鮫島「明日の研修でも、いくつか論文に目を通すと思うんだけど、まぁ理論的には穴が多いよね?」
中田「ええ、いくつか破綻してる点がありました」
鮫島「この研究所、あの論文に書かれた成果を実現するために設置されてるんだよ」
中田「無理ですよね?」
鮫島「決められた実験以外はしてはいけないことになってる」
中田「大事故がおきますよ」
鮫島「政府の都合でデタラメな論文を元に作られた研究所。研究なんかしたら、国の半分以上を立ち入り禁止区域にしなきゃいかん」
中田「だから・・・」
鮫島「我々がすべき仕事は、この研究所を稼働させないことだ。サボってるんじゃないよ、日本の未来のために科学者が取るべき態度だよ」
中田「そんな」
鮫島「中田君を採用したのは人柄だ。出世や名声のために闇雲に研究したり、学術的な興味のためだけに自分勝手な研究をする科学者は必要ないから」
中田「はぁ・・・」
鮫島「趣味は何だい?」
中田「えぇ、昆虫とか好きですけど」
 
○研究室内/昼
誰もいない研究室。
とある机の上に飼育ケースがおかれ、その中ではカブトムシが動いている。