我が家の憲法改正
○ニュース番組
国会で憲法改正に関するニュース。
スタジオにはキャスターの隣に国会議員・箱崎宏一(49歳)ら数名の議員が座っている。
キャスター「最後にもう一度、意見を伺いたいと思います。まず、憲法を守る議員連盟の箱崎議員」
箱崎「先ほどから申し上げている通り、憲法こそが国民の生活の基盤となるものです。この憲法が今日の幸福を築いてきたわけです、安易に憲法を変えてしまうことには断じて反対です」
キャスター「次に改憲派の横井議員」
ニュースが続く。
○テレビ局スタジオ
ニュース番組が終了し、退場する箱崎たちにスタッフたちが挨拶をしている。
○テレビ局玄関/夜
箱崎と秘書がテレビ局が手配したハイヤーに乗り込む。
番組スタッフが頭を下げる。
番組スタッフ「ありがとうございました、またよろしくお願いします」
箱崎が車内から手を挙げて応える。
○ハイヤー内/夜
走行中のハイヤー内。
箱崎が秘書に目で合図する。
秘書「運転手さん、党本部に用があるので、自宅じゃなくて、永田町の方にお願いできます?」
運転手「あ、はい、わかりました」
○市民党本部前/夜
箱崎と秘書がハイヤーから降りる。
ハイヤーが去る。
秘書が急いで携帯をかけ始める。
秘書が通話を始める。
秘書「すみません、タクシーの手配、1台お願いします。市民党本部です。4、5分ですか?大丈夫です、なるべく早くお願いします」
秘書が電話を切る。
秘書「4、5分で来るそうです」
箱崎「今日は神楽坂」
秘書「はい」
○神楽坂界隈/夜
神楽坂の住宅街。
タクシーが止まり、箱崎と秘書が降りてくる。
箱崎と秘書が人通りの少ない道を歩いている。
箱崎「大丈夫か?」
秘書が周りを見渡す。
秘書「大丈夫です」
箱崎「よし」
箱崎がマンションのロビーに入り、ロックの開錠(居住者とやりとり)を行う。
秘書は立ち止まり、周囲を見渡し、箱崎が中に入ったのを確認して立ち去る。
○マンション内/夜
ドアが開き、箱崎が入ってくる。
30代の女性が出迎える。
女「今日はココなのね」
箱崎「いつだって、ココだよ」
女「うそ、昨日は女子大生と一緒にいたんでしょ」
箱崎「心は、いつもココ」
女「もう」
箱崎が女とキスをする。
女「食事は?」
箱崎「なにかある?」
女「簡単なものでいい」
箱崎「ああ」
箱崎がネクタイを外しがら、リビングのソファに座る。
女はダイニングで食事の用意をしている。
女「テレビ見たわよ」
箱崎「どうだった?」
女が料理の入った皿を持ってくる。
女「いいんじゃない」
箱崎の携帯が鳴る。
着信表示は「浩文」。
箱崎が女に静かにしろというジェスチャーをして電話に出る。
箱崎「どうした、こんな時間に?」
電話の声「浩文の携帯なら出てくれるんですね」
箱崎「バカなことをするんじゃない」
洋子「日本の憲法よりも我が家の憲法について話をしませんか?」
箱崎「その話だったら、ない」
洋子「このままだと法廷か、マスコミか、どちらかに訴えることになるかもしれません」
箱崎「いい加減にしろ」
洋子「私じゃ止められないんです」
箱崎「どういうことだ?」
洋子「とにかくウチに来て下さい」
箱崎が立ち上がる。
箱崎「待ってろ、戻る」
○箱崎家玄関・廊下/夜
玄関ドアが開き、箱崎が入ってくる。
箱崎「帰ったぞ」
箱崎が廊下を歩く。
箱崎「なんだ、さっきの電話は」
箱崎がリビングのドアを開ける。
○箱崎家リビング/夜
箱崎がドアを開けて入ってくる。
リビングには箱崎洋子、浩文(17歳)、昌治(15歳)、香苗(12歳)が座っている。
箱崎の動きが止まる。
箱崎「どうした?みんな揃って」
浩文「母さんに頼んだんだ。この家を正しい状態にしたいと思って」
箱崎「え?」
浩文「議会を開いて結論を出す。昌治と相談して、そういう手続きできちんと話をしようって」
昌治「議員の息子らしくね」
箱崎が困惑と嬉しさの混じった微妙な表情をする。
箱崎「(洋子に)子供たちは巻き込むな。(浩文たちに)これは父さんと母さんの話し合いだ、二人で結論をだすから」
昌治「この家をどうするかは、父さんと母さんだけの問題じゃないよ」
浩文「父さん、母さんが死んだ後も、僕と昌治と香苗は家族なんだから、僕らにだって一票を投じる資格はある」
香苗「賛成!」
香苗が手を挙げる。
昌治、浩文も手を挙げる。
洋子も手を挙げる。
箱崎「(洋子に)子供たちを味方につけて」
浩文「議会での野次は慎んでください」
洋子がハンカチを取り出し、目元を拭う。
浩文「では、箱崎家の離婚について決議をとります。父さんと母さんの離婚、賛成の人」
浩文、昌治、香苗が手を挙げる。
昌治「母さんは」
洋子は下を向いている。
箱崎「議決は多数決で決めるのか?全員一致か?」
浩文「どうする?」
香苗「母さん、どうしたの」
洋子がゆっくりと顔を上げる。
洋子「家族で、きちんと話をするのって、久しぶりだなぁって」
昌治「母さん、そんなのだめだよ、僕らは父さんを許さないよ」
香苗「絶対に許さない」
箱崎は子供たちをじっと見ている。
箱崎は洋子の手をとって、一緒に手を挙げる。
箱崎「離婚に賛成。審議通過」
洋子「あなた?」
箱崎「子供たちに、そこまで嫌われてるならな、仕方ない。お前たちの人生の方が、後が長いんだ」
浩文「父さん」
箱崎「(浩文たちに)いろいろ調整しなきゃいけないから、すぐにはいかないけど約束は守る。(洋子に)いい教育をしてくれた、俺よりも立派な政治家たちだ。ありがとう」
洋子が微笑む。
箱崎「泊まっていってもいいかな?」
洋子「ええ」
昌治「今日は我が家の憲法改正の日ってことでいいの?」
箱崎「ああ記念日だ」
箱崎が微笑む。
浩文、昌治、香苗が少し笑う。