ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

ミサイル

○寺の外/昼

寺の周囲に黒い街宣車が集まっている。街宣車には「日の丸」や「竹島を守れ」などの文字。

街宣車のスピーカーから「売国坊主を殺せ」、「北の工作員は出ていけ!」という怒号が飛ぶ。

 

○寺の中・事務室/昼

外から街宣車の音が響いている。

住職・高柳光輝(56歳)が電話をかけている。

高柳「今回の件で、入金に影響は?」

電話の相手は訛のある日本語を話す。

通話相手の声「大丈夫、将軍は心配するなと言っている」

高柳「ならミサイルの発射は心配しなくていいんだな」

通話相手の声「それはわからない、ただ総連ビルの支払いは心配しなくていいと」

高柳「万が一、東京にミサイルが落ちれば総連はどうなる?」

通話相手の声「それは私にわからない」

高柳「軍上層部の意見を聞きたい」

通話相手の声「二等書記官までなら話は聞ける」

高柳「もっと上の担当じゃないとミサイルのことは分からないだろう」

通話相手の声「でも、私の立場では・・・」

高柳「俺なら、どうだ?今回のビルの買収で、北の工作員だとバレてる。今、日本にミサイルが落とされれば、目の敵にされて、真っ先に命を狙われるのは、俺なんだ。軍は状況を説明する義務がある」

通話相手の声「・・・わかった、相談してみよう」

高柳「明日、中国経由で入国する」

 

○某国迎賓館広間内/夜

ドアが開き、高柳が入ってくる。

軍高官A(56歳)、B(49歳)、C(51歳)の3名が立ち上がり高柳を迎える。

A「(日本語で)高柳さん、お久しぶりです」

A、B、Cと高柳が握手をしていると奥の方から男の声がする。

男の声「(訛のある日本語で)長旅お連れさまです、高柳さん」

A,B、Cが声の方へ向きを変え、姿勢を正す。

声の主は将軍(31歳)。

将軍「お騒がせしてます」

高柳が将軍の元へ向かい、お辞儀をする。A,B、Cが高柳の後をついてくる。

高柳「お忙しい中、時間をいただき、ありがとうございます」

将軍「住職の仕事は慣れましたか?」

高柳「ミサイルが発射されるんじゃないと心配で、せっかく覚えたお経を忘れてしまいましたよ」

将軍と高柳が微笑む

高柳「事前に連絡をいただかないと困ります。政府に根回ししておかないと送金ルートが凍結されることもありますから」

将軍「凍結されても構いません」

高柳「え?」

将軍「高柳さん、本当に良いタイミングで我が国に来ていただいた」

高柳「まさか」

将軍「父の時代からの恩人であり同志である高柳さんを失いたくなかった」

高柳「発射するんですね」

将軍「明日10時、ソウル、東京、ロサンゼルスを一斉攻撃します」

高柳「決定?」

将軍「そうです、決定です。必ず発射します」

高柳が「呆れた」という表情をする。

高柳「父上の時代から国家に尽くしてきたんです。せめて前もって一声かけて下さい。間一髪で命拾いですよ」

将軍「いや、すみません。高柳さんのいる鹿児島なら、後から救助隊を送れると思っていたので」

高柳がニコリと笑い、周りを見渡す。

高柳「次にミサイルを発射する時は、よろしくお願いしますよ」

高柳は笑いながらAに抱きつく。

高柳「助かった〜」

A「ちょっと、高柳さん、フフフ」

高柳はAの腰の拳銃を奪い、A、B、C、将軍に向けて発砲する。

高柳はA、B、Cの息の根を止めた後、瀕死の将軍に迫る。

発砲音を聞きつけた兵隊たちがドアを開けて入ってくる。

高柳が一斉射撃を浴びる。

高柳が将軍の上に倒れ込む。

将軍「に、に、二重、スパイ」

高柳が将軍の心臓に弾を撃ち込む。

 

○老人ホーム玄関/朝

スーツ姿の立川賢治(45歳)が立っている。

 

○老人ホーム内/朝

君島敬(59歳)がベッドで横になっている男性老人(83歳)と話をしている。

老人「ところで倅は、お国の役に立っとりますか?」

君島「ええ、彼は我々の仕事は要役ですよ」

老人「そうか、良かった」

君島「じゃ、また明日」

老人「毎日、悪いね。この親不孝者の代わりに、わざわざ」

老人がベッドの脇のテーブルに目を向けると、(20年ほど前の)老人と高柳が仲良く並んで写っている写真。

君島「彼に仕事を頼んでいるのは私です。代わりに、お父さんのお世話をする義務があります」

老人「ありがたいね。倅にも、たまには顔を出せと伝えておいて下さい」

君島「ええ、では」

 

○老人ホーム玄関/朝

君島が出てくる。

待っていた立川が話しかける。

立川「君島さん」

君島「どうした?ここが、よく分かったな」

立川「奥さんに聞きました、毎朝、立ち寄ってると。昨日の北のクーデターの件、高柳が絡んでいます」

君島が老人ホームの奥へ顔を向けた後、前を向く。

君島「歩きながら話をしよう。彼のお父さんが中にいる」

君島が外へ歩き出す。

立川がついてくる。

立川「ひょっとして、その世話ですか?」

君島「二重スパイに仕立てたのは私だ。当然の義務だ」

立川「高柳は、もう、戻ることはないと思います」

君島が溜息をつく。

君島「いつか来て欲しいな」

立川「なにがですか?」

君島「名もなき英雄が評価される時代が」

君島と立川が無言で歩く。