ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

暗闘!甲子園

○神祇宴教団神殿外観/昼

随所に金細工が施された大きく豪華な神殿。

神殿前の広場には金色の鳥居が立っている。

 

○神殿内広間/昼

広大な畳敷きの広間、中央奥に金色の神棚がある。

神棚前の一段高くなった場所に、教祖・折原シン(68歳)が座り、その横に最高指導員・柿沢久司(45歳)が座っている。

シンと柿沢に対面して穂積孝義(51歳)、穂積紀子(48歳)、穂積真一(13歳)が、頭を床につけて正座をしている。

シン「お上げなさい」

孝義たちが、ゆっくりと頭を上げる。

孝義「ありがとうございます」

孝義、紀子は深々とシンにお辞儀をする。孝義たちを見て、真一もお辞儀をする。

シン「名前は真一?」

孝義「はい、教祖様から一字いただき、真一と名付けさせていただきました」

シン「いつ頃から、感じたのですか?」

孝義「はい、幼い頃から、度々、身の回りにおかしなことが起きていまして、教祖様に、いつかご相談をと」

紀子「特に最近は、自分でもコントロールできなくなっているみたいで、ぜひ教団で指導をしていただきたく」

シン「(柿沢に)どう思います?」

目を閉じていた柿沢が目を開く。

柿沢がシンを見て、うなづく。

柿沢が立ち上がる。

柿沢「真一君、透明の箱の前へ」

真一が立ち上がり、前に置かれている透明の箱の前へと進む。

透明の箱はガラス面で密封された正方形の箱で、中央上部から垂れた糸の先にガラス球が吊されている。

柿沢が真一の側まで歩いてくる。

柿沢「ガラス球に動けと念を送ってみようか」

真一が柿沢を見る。

柿沢「気楽にやってみよう」

真一が箱を見る。

真一が意識を集中させる。

静止していたガラス玉が極めて微かに動く。

柿沢「そうだ、いいね。じゃ左右に振ってみようか、右、左、右、左・・・」

ガラス玉が極めて僅かに左右に振れる。

真一の呼吸が荒くなる。

柿沢「力を入れる必要はないから、ゆっくり息を吸って、吐いて、吸って、吐いて」

真一の呼吸が穏やかになるが球の動きも止まる。

柿沢「よし、頑張った。きちんと指導を受ければ、きっと思った通りに力を使うことができる。指導部で勉強しよう」

真一が孝義たちの方を向く。

孝義、紀子が正座のまま頭を下げる。

孝義「ありがとうございます!」

紀子が頭を上げる。

紀子「真一も、ほら!」

真一がシン、柿沢にお辞儀をする。

 

×××時間経過×××

 

広間の出口で、神殿前のシンと柿沢に向かって深々と頭を下げている孝義、紀子、真一。

シンと柿沢が孝義たちを見ている。

孝義たちが出ていく。

シン「使えますか?」

柿沢「力は強くはならないでしょうが、確実性は高められそうなタイプです」

シンが何かを考える。

シン「小さな物を少し、思い通りに動かせるようになる?」

柿沢「はい」

シン「野球をさせましょう」

柿沢「野球?」

シン「ピッチャー、バットに当たる時に、少しだけボールをズラす」

柿沢がニヤリとする。

シン「学園の広告塔に」

柿沢「親元を離れて寮に移るよう伝えておきます」

シン「これで教団の抱える能力者は何人になりますか?」

柿沢「4名です、私を含めて」

シン「50万人の信者で4名、貴重な資産ね」

柿沢「先ほどの少年は責任をもって開発しますので」

シン「お願いします」

 

○甲子園球場/昼

高校野球の大会が行われている。

神祇学園と金沢明洋高校の試合。

神祇学園の守備。

真一(16歳)が神祇学園のピッチャーとなって投球している。

対戦相手のバッターは打球がゴロとなりアウト。

続くバッターの打球もゴロでアウト。

アナウンサーの声「神祇学園の一年生エース・穂積投手の打たせてとるピッチング、今日も見事な投球術です」

解説者の声「110km出るか出ないかのスピードなんですけど、手元で微妙に変化するんでしょうか、金沢明洋の強力打線を、ことごとく打ち取ってますね」

アナウンサーの声「今日も、打者20名に対して19名が内野ゴロ、球数はわずか52球という効率の良い投球が続いています」

マウンド上の真一がセットポジションになる。

真一の頭の中で、真一ではない別の男性の声が響く。

男の声「お前は教団に利用されているだけだ、ただの操り人形なんだ」

真一が怪訝な表情をする。

男の声「騙されてる、自分の能力は賢く使え」

真一がセットポジションを止めて、宙を見上げる。

男の声「お前の人生はお前のためにある」

キャッチャーがタイムを取り、真一の方へ向かってくる。

キャッチャー「どうした?」

真一「大丈夫です」

 

○神祇宴教団事務室内/夜

シンと柿沢が話をしている。

柿沢「今日の試合に勝てば、次の対戦相手はOM学館。OM教には高校生の能力者がいないんでしょう。だから対戦する前に、観客席に能力者を送り込んで、妨害の念を送ってきたんでしょう」

シン「勝てたから良かったですが」

柿沢「真一の心はかなり同様しています。次の試合も同じように念を送られると力が発揮できなく・・・いや」

シン「なんですか?」

柿沢「壊されるかもしれません」

シンがため息をつく。

シン「精神を?」

柿沢「ええ」

シン「どうします?」

柿沢「私も甲子園に向かいます」

 

○甲子園球場OM学館側応援席/朝

試合前の応援準備を学館の生徒たち。生徒だけでなく、OM教の旗をもった信者たちが詰めかけている、祈っている信者たち。

 

○甲子園神祇学園側応援席/朝

応援準備の学園生徒だけでなく、神祇宴教団の信者が詰めかけ、教団の経を唱えている。

 

○甲子園内通路階段/朝

柿沢が立ち止まり入場する観客たちを観察している。

人混み中で綾瀬美津夫(46歳)が立ち止まり、柿沢を見ている。

綾瀬は手にOM教の旗を持っている。

柿沢と綾瀬がお互いに気づく。

 

○甲子園球場内の通路/朝

人通りの少ない通路。

歩いて来た柿沢と綾瀬が立ち止まる。

綾瀬「柿沢さんが来ているということは、神祇の野球部の中に能力者が?」

柿沢「今日はお守りに来ました。これ以上、そちらに妨害されないように」

綾瀬「妨害?」

柿沢「前の試合で念を送ったのは綾瀬さんですね?」

綾瀬「え?」

柿沢と綾瀬が見つめあう。

綾瀬「いや、ウチの野球部にも能力者がいましてね、そのお守りで来たんですよ。ウチの選手も前の試合で念を送られたんです」

柿沢と綾瀬が無言。

柿沢「お互いの野球部に能力者がいて、妨害の念を送られている」

綾瀬「柿沢さんも、私も、心当たりがない」

無言の二人。

綾瀬「どうします?」

柿沢「このままだと壊されるかもしれません」

綾瀬「ウチもそうです」

柿沢「やめますか」

綾瀬「そうしましょう」

 

○甲子園球場外/朝

柿沢が携帯電話をかけている。

通話相手はシン。

柿沢「教祖様、念の送り主はOM教側ではありませんでした、特定できません」

シンの声「それで?」

柿沢「お願いがあります。この後、真一を外すように野球部の下地監督に連絡を入れてもらえますか?」

シンの声「試合は大丈夫なのか?」

柿沢「真一を壊さないようにするには、これしかありません。その後に能力を強化する方法はいくらでもありますから」

シンの声「わかりました」

 

○甲子園球場スコアボード/朝

神祇学園とOM学館のスタメン選手が発表されていく。

神祇学園のピッチャーのポジションが発表される。

ウグイス嬢の声「ピッチャー井上学、ピッチャー井上学、背番号12」

観客席がざわつく。

 

○甲子園球場外/朝

タクシーに乗り込もうとしている柿沢と真一。

ピッチャーの井上が発表され、ざわつく球場の音が聞こえる。

真一が立ち止まり、球場の方を振り返る。

柿沢が真一の肩を叩く。

柿沢「教祖様は試合のことよりも真一のことが大事に思ってくれてるんだ。不動の心を強めて、来年また来ればいい」

真一「はい」

二人がタクシーに乗り込み、タクシーが球場を後にする。