ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

仮出所

○会議室内/朝

ビル上層階にあるガラス張りの会議室。

スーツを着こなした30代の男性たちが会議をしている。

会議は経営会議。

会議に出席している豊永栄喜(38歳)のスマートフォンのバイブがうなる。

着信の名前に「堀池貴文」の文字。

豊永はスマートフォンを素早く手にして、辺りを見回す。

着信が切れる。

豊永「ちょっと、すみません」

豊永は慌てるように席を立ち、会議室の外に出る。

 

○会議室外の廊下/朝

廊下の奥、周囲に人のいない場所で豊永がスマートフォンをかけている。通話相手として堀池の名前が表示されている。

電話が繋がり、豊永が小声で話かける。

豊永「堀池さん、どうしたんですか、どこからかけてるんですか」

堀池(通話音)「さっき仮出所だったんだ」

豊永「えー!知らなかったですよ、そんなの」

堀池「誰にも教えてない、弁護士にも」

豊永「どうしてですか?」

堀池「説明は後で。今から言う人に堀池が出所したと伝えて欲しい、メモの用意は?」

豊永がスマートフォンを操作する。

豊永「録音セットしました」

 

××× 時間経過 ×××

 

豊永「以上ですか?」

堀池「とりあえず」

豊永が録音をオフにする。

豊永「新聞社、出版社、テレビ局、全部で16社ですね」

堀池「追加があったら、また連絡する」

豊永「出所したと伝えればいいんですね」

堀池「それで、もし取材をしたい相手がいれば、君が受けて僕に教えて欲しい」

豊永「自分が窓口ですか?」

堀池「広報担当になってよ」

豊永「そんな・・・」

堀池「マスコミにコネができると思えばいいじゃん。また、こちらから連絡する」

豊永「もっと説明を」

堀池「この件、今、教えた人以外には伝えないでよ」

通話が切れる。

豊永「ちょっと、堀池さん」

豊永がリダイヤルする。

警告音「おかけになった電話番号は電源が入っていないか・・・」

豊永「まいったなぁ」

 

○マンション・リビング/夜

2LDK程のマンション、リビング。

豊永が缶ビールを持ってくる。

ソファで堀池がハンバーガーを食べている。

豊永「ホントに驚きましたよ、突然」

堀池「迷惑だった?」

豊永「いや、そんなことないですけど」

豊永がテーブルに缶ビールを置き、ソファに座る。

堀池がビールを手に取り、缶を開け飲み始める。

堀池「こっちが、臭い飯を食ってる時に、贅沢な暮らしをしていたわけだ」

豊永「贅沢というほど」

堀池「家族と住んでる自宅とは別に都内でこんなセカンド・マンションを持ってるなんて恵まれてるでしょ。知ってるの、奥さんは?ここのこと」

豊永「いや、まぁ」

堀池「嬉しいよ、会社は無くなっても、部下が無事に生活できてて」

豊永「ありがとうございます。で、あの今日の件ですけど・・・」

堀池「そうそう、どんな反応?」

豊永「一斉にニュースで取り上げてました」

堀池「取材の問い合わせは?」

豊永「全社からインタビューの依頼が来てました」

堀池「よし!取材は受けるって戻しといて。ただし条件があって、24時間、ベタ付きで取材すること、密着で」

豊永「そんなの受けていいんですか?」

堀池「大丈夫、それが望みだから」

豊永「そもそも、最初にマスコミに連絡するって、どういうことですか?」

堀池「君ら旧経営陣が無事に暮らしているのは、僕が捕まったからでしょ。あそこで捕まったからあの罪状で済んだけど、知ってる?、検察はうちの会社に流れてた資金のことを調べたかったんだよ」

豊永「裏社会からの?」

堀池「そう、マネーロンダリングの仕組みを暴こうとしてた。そこまで捜査が進んでれば、僕も君ら幹部連中も、消されてたよ。口封じに」

豊永「その前に、わざと捕まったんですか」

堀池「そうだよ。あそこで捕まって、捜査の手が止まるなら、僕らも、裏の世界の人たちも都合がいいでしょ。リーズナブルな買い物だった」

豊永「で、それと、今回の件は?」

堀池「謁見に来た弁護士に聞いたんだけど、裏社会で、会社が裏金を隠したって言ってるグループがいる」

豊永「それを寄越せ、と?」

堀池「金を返して済むなら、すぐ返す。でも、それ以上のことを要求されるとさ、消されたりするのは、嫌でしょ」

豊永「殺しに来ますか?」

堀池「だから密着取材。マスコミの目の前に、わざわざ殺しには来ないもの」

豊永「今日の反応じゃ、マスコミの数も多そうです」

堀池「でしょ。ニュースバリューとしての価値を下げないように刑務所の中でも、いろいろやってたからね」

豊永「堀池さんなら数字が取れるって、何十件も留守電入ってましたよ」

堀池「マスコミの奴らは、相変わらずバカだな」

豊永「状況、理解しました。セッティングします」

堀池「頼むよ。一段落ついたら、また会社を立ち上げるからさ」

豊永「はい」

 

○ニュース番組映像

アナウンサーがニュースを伝える。

アナウンサー「先月、仮出所した元実業家、堀池貴文氏がタクシーで移動中に銃撃され、意識不明の重体です。犯行は堀池氏に同行取材するマスコミ各社の目の前で起き、その一部始終がカメラで記録されていました。これからお見せする映像は、ショッキングな映像が含まれています。お子さまや心臓の悪い方などがご覧になると気分を悪くすることがございます。充分にご注意の上、ご覧いただきますようお願いいたします」

 

○タクシー車内/昼

走行中の車内。

密着取材のカメラマンが撮影している映像。

カメラは堀池を移している。

堀池「だいぶ体重は戻りましたよ。味に敏感になった分、会社やってた頃よりグルメになったかもしんない」

タクシーが急に止まる。

堀池「(運転手に)どうしたの」

カメラが前方を向くと、タクシーの目の前に乗用車が飛び出して止まっている。

運転手「急に車が飛び出してきて」

乗用車から男が降りてくる。

男はタクシーの乗客席まで歩み寄り、懐から拳銃を出す。

男は堀池に向かって、ガラス越しに拳銃を撃つ。

車内にガラスの破片が飛び散る。

撮影者の声「ちょ、ちょ、これ」

 

○病院玄関前/夜

総合病院の玄関前。

マスコミの取材班たちが集まっている。

 

○病院内・病室外廊下/夜

病室から医師たちが出てくる。

外で待っていた豊永に、医師が話しかける。

医師「もう長くはないでしょう。最後の言葉をかけるのでしたら、どうぞ」

 

○病室内/夜

堀池がベッドの上で昏睡状態で眠っている。

堀池の体には何本ものチューブが繋がっている。

豊永が入ってくる。

豊永が堀池の枕元に立つ。

豊永「最後まで自分の思い込みで生きている人でしたね。ただ残念ですけど、今回は、あなたが考えたメリットと、あなた以外の人が考えたメリットが大きく違ってたんです。ポイントは3つ。一つ、マスコミにとって美味しい映像は堀池貴文の元気な姿じゃなくて暗殺者に銃撃される映像なんですよ、数字になりますから。マスコミは、あなたを守るためにあるんじゃなかった。二つ、マスコミがいようがいまいが、裏社会は、あんたを殺そうと思えば殺す。あなたとは損得感情が違う人がいる、そんな人を雇えばいい。三つ、あなたがいなくなれば、俺が助かる」

豊永が堀池の耳元へ口を寄せる。

豊永「つまり、あなたの周りの人たちは、皆、あなたが死ぬと都合が良かった」

堀池の目がうっすらと開き、閉じる。

豊永が微笑む。

 

○病室外/夜

豊永が病室から出てくる。