ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

「くまもん」と「りす太」

○熊本市内/昼

 

○イベント会場/昼

繁華街の広場で行われている「くまもとワンダーフェスティバル」会場。

中央のステージに、くまもんが登壇。

客席の子供や女性が大喜び、歓声が沸き起こる。

客A「かわいいー!

客B「くまもん、こっち向いて!」

歓声に応えるくまもんの動作に、また歓声が起きる。

 

○ビル裏/昼

陽の当たらないビル裏。

イベント会場の音が聞こえている。

薄汚れたキャラクターがビル陰からイベント会場の様子を覗いている。

ゴミや毛玉で汚れたキャラクターの左半分は、中の人が剥き出しになっている。

キャラクターは瓶を手にしている。

キャラクターの鼓動の音が聞こえてくる。

 

○イベント会場/昼

ステージ上でくまもんのショーが続いている。

遠くから手に瓶を持ったキャラクターが走ってくる。

 

××× 回想 ×××

 

○町議会/昼

議長Aが採決結果を発表している。

議長A「ゆるキャラ・プロジェクト、賛成多数で可決とします」

拍手をする議員たち。

 

キャラクター(心の声)「わしだって、くまもんみたいになりとうて、世に生まれてきたんじゃ」

 

○きぐるみ工房/昼

きぐるみの制作を行っている工房内。

職人たちがキャラクターのパーツを少しずつ作っている。

 

キャラクター(心の声)「あれさえなければ、今頃は、町おこしのイベントで全国に駆け回ってたはず」

 

○町議会/昼

前回とは違う議長Bが議題を説明している。

議長B「町村統合に伴い、進行中の案件の見直し決議を行います」

 

キャラクター(心の声)「周りにあった、いくつかの町や村が合併したんや。合併前の町が進めとった、ゆるキャラプロジェクトが止まった」

 

○きぐるみ工房/昼

全くの未完成のまま、中の人が剥き出しになったキャラクターが職人Aに話かけている。

キャラクター「お願いします、わしを最後まで作って下さい」

職人A「作ろうにも、制作費も止められたし」

キャラクター「ゆるキャラになれば、ショーでも見せ物でも何でも出ます。それでお金は支払いますんで。たのんます、お願いです」

職人A「でも権利上の問題もあってよ、これ以上、勝手には作れんのよ」

キャラクター「わしは、どうなるんです。こんな中途半端なみてくれで、どうやって生きていけばいいんです」

職人A「廃棄やね、悪いけど。業者の手配も済んどるし」

キャラクターの動きが止まる。

工房の奥から職人Bの声。

職人Bの声「こっちの猿は、いつ納品じゃったかのう」

職人Aが工房の奥の方へ向かって歩いていく。

職人A「それは、そんなに急がんでもええよ、それよりも向こうの魚を」

ガラガラとドアが開く音。

職人Aが振り向くと、キャラクターの姿がなく、ドアが開きっぱなし。

職人A「おい、待て!」

 

○工房外の道路/昼

キャラクターが猛スピードで駆けている。

キャラクター(心の声)「ゆるキャラになったる、皆に愛されるゆるキャラに」

 

○保育園/朝

保育園の広場で遊んでいる園児たち。

保育園外の物陰からキャラクターの体の一部が見え隠れする。

園児の一人が、キャラクターに気づき、徐々に近づく。

キャラクターがポーズを取って愛想を振りまく。

園児の顔が笑顔になる。

他の園児たちもキャラクターに気づき、近づいてくる。

物陰からキャラクターが飛び出し、全身があらわになる。

園児たちの顔から笑顔が消える。

楽しげなポーズを取りながら園児たちに近づくキャラクター。

後ずさりする園児たち。

園児たちは「怖い」、「あっち行け」などの声を上げ始める。

楽しげなポーズを取りながら前進するキャラクター。

園児たちが泣きだし、悲鳴を上げる。

保育士たちが走ってくる。

保育士「(園児たちに)お部屋に戻って、早く。(キャラクターに)これ以上、保育園に近づかないで下さい、通報しますよ」

キャラクター「そんなつもりじゃ・・・」

保育士に抱えられた園児が叫ぶ。

園児「ばけものー」

キャラクターが可愛いポーズを取りながら応える。

キャラクター「ばけものじゃないよ」

 

○市街地/夜

人気のない夜の街。

キャラクターは段ボールハウスを寝床にしている。

キャラクターは月明かりの中、拾ってきた雑誌に目を通している。

雑誌にはくまもんの特集。

キャラクター(心の声)「こいつさえ消えてくれれば、わしだって」

 

××× 回想ここまで ×××

 

○イベント会場/昼

走り込んで来たキャラクターがステージに乱入する。

キャラクターは手に持っていた瓶の中の液体をくまもんに浴びせる。

くまもんの体が煙を上げて焦げていく。くまもんが膝から崩れ落ちる。

観客たちの悲鳴、絶叫。

観客A「くまもん!大丈夫ー?」

観客B「頑張れ!」

観客たちはキャラクターに罵声を浴びせ始める。

観客C「消えろ、ばけもの!」

観客D「警察呼んで!」

ステージ上で呆然としているキャラクター。

 

○ごみ焼却施設/夜

目隠しをされ、胴体を縄で縛られたキャラクターが歩いている。

キャラクターの後ろから係員が続く。

係員「はい、そのまま進んで」

キャラクターは、巨大な集積場の奈落に落ちる淵に向かって歩いてる。

キャラクターが、あと2、3歩で集積場に落ちるという時に、呼び止める声がする。

くまもん「待って!止めて!」

係員が振り向くと、包帯姿のくまもん。

係員はキャラクターに結んでいた縄を引っ張る。

キャラクターが、淵ぎりぎりで立ち止まる。

くまもんは、キャラクターに歩み寄り、目隠しをとる。

キャラクター「くまもん」

くまもんが係員に話しかける。

くまもん「僕らだけにしてもらえますか?」

係員が席を外す。

くまもんとキャラクターが二人きりになる。

キャラクター「すみませんでした」

くまもん「なんて名前?」

キャラクター「名前はないです。まだ出来てないですから」

くまもんがキャラクターの全身を見る。

くまもん「何の動物が元になってるキャラクターなのかな」

くまもん「半分しかできてないんで、自分でもよく分からんです」

くまもん「それさえ分かれば、残りの部分も作れるんだよね」

キャラクター「え?」

くまもん「やりなおしてみない?」

キャラクターが、きょとんとする。

キャラクター「もう、いいです。その気持ちだけでいっぱいです」

くまもん「一緒にステージ立とうよ。そうすれば、今、人生がうまくいってない人に勇気を届けられると思うんだ」

キャラクター「ありがたいですけど・・・無理と思います。お客さんが許さないです」

くまもん「大丈夫だって、人生はやり直せる、君が伝えなきゃいけないメッセージはそれだよ!」

キャラクター「(涙声)ありがとうございます」

キャラクターが土下座の体勢をとるとした瞬間、淵に足を滑らせる。

くまもんが叫ぶ。

くまもい「あー!」

キャラクターが集積場の奈落へ落ちていく。

キャラクターが集積場の床へ叩きつけられる「バタン」という音がする。

 

○病室/朝

 

××× 自分目線の映像 ×××

 

薄暗い視界。

くまもんの声「気分はどうだい」

目の前の視界が明るくなり、朝日が射し込む。

目の前には、くまもんがいる。

くまもん「鏡を見てごらん」

くまもんが(自分に)鏡を手渡す。

鏡に映る自分はリスのキャラクター。

 

××× 自分目線の映像終了 ×××

 

ベッドの上に胴体を包帯にくるまれたキャラクターが横たわっている。

キャラクターの頭部はリス。

看護婦がキャラクターの胴体の包帯を外していく。

包帯の下から、全身が綺麗に着ぐるみになっている姿が現れる。

キャラクターは自分の体を確かめるように触る。

くまもん「君はリスのゆるキャラだったんだよ、名前は”りす太”、人生をリスタートするから”りす太”」

りす太「やりなおせるんですね」

くまもん「ああ、誰だってチャンスはあるんだよ」

りす太のすすり泣く声。

りす太がくまもんの手を両手で握りしめる。