回収日
○加藤家リビング/昼
加藤大輔(16歳)とケン(35歳)がソファに座っている。
大輔とケンは共にジーンズ姿のカジュアルな服装。
大輔が持っていたタブレットの画面をケンに見せる。
大輔「ほら覚えてる?」
ケンがタブレットを覗き込む。
***タブレット内映像***
○加藤家リビング/昼
白い医療服を着たケン(25歳)が立っている。
加藤恭子(33歳)がタブレットに話しかける。
恭子「大チャン、名前はどうする?」
映像を撮影している大輔(6歳)の声がする。
大輔の声「ケン!ケンがいい」
恭子がケンに話かける。
恭子「あなたはケン、今日からケン」
大輔の声「ケン!」
ケンは無表情のまま恭子や大輔を交互に見る。
大輔の声「ケンに何か着させてよ、外、連れてくから」
恭子「大チャン、嬉しそうね」
大輔の声「うん」
***タブレット内映像終わり***
○加藤家リビング/昼
大輔とケンがタブレットを見ている。
ケン「覚えてますよ」
大輔「懐かしいな」
ケン「はい」
玄関のチャイムが鳴る。
恭子(43歳)がリビングに顔を出し大輔に話しかける。
恭子「引き取りの人。手続き済んだら呼ぶから、最後の挨拶しときなさい」
大輔「ああ」
大輔がケンの顔を見る。
ケンが微笑む。
○加藤家玄関/昼
恭子が業者の男と話をしている。
業者の男は資料を確認しながら話を続ける。
業者「加藤さんのお宅は、ええと、型番DM05、10年契約で間違いないですよね」
業者は恭子に資料を見せる。
紙資料にはケンと同じ顔をした男性の全身写真、その下に体力、性格、安全性などをアピールする項目の枠がある。
恭子「ええ、そうです」
業者「何か問題ありました?」
恭子「特には。おとなしいですし」
業者「このタイプは扱いやすいんですよね」
業者は資料に書き込みをする。
恭子「回収された後に、どれくらいお金戻ってくるんですか?」
業者「加藤さんの契約、回収後は臓器移植ですよね、だったら数万円ってとこですか」
恭子「数万円?契約した時は、もっともらえると聞いてたんですけど」
業者「この10年で技術がすっかり発達して、個人専用の臓器が作れちゃうようになっちゃいましたからね。今、クローンの回収後の処理で人気あるのが、衝突とか爆発の耐久テストあるでしょ、あれの実験台、そっちのもらえるお金も少し良いんですよ」
恭子「今から変更できないのかしら」
業者「先にクローン引き取って、変更が効くかどうかは、後で連絡しますよ」
恭子「すみません、お願いします」
○加藤家リビング/昼
大輔がタブレットからメモリーカードを取り出す。
大輔「ケンが映ってる写真とかムービー、全部コピーしてるから」
大輔がケンにメモリーカードを手渡す。
ケン「大ちゃん、ありがとう」
玄関の方から恭子の声。
恭子の声「ケン、おいで」
○加藤家玄関/昼
恭子と業者の男が話をしている。
大輔とケンがやってくる。
業者「冥土の土産を持たせる人がいるんですけど廃棄するのが面倒なんでね。クローンには何も持たせてないで下さい、指輪とかそういうのもダメです」
恭子「10年も一緒いると情が移るっていうじゃないですか、そういう気持ちになりますよね」
業者「いや、この間も・・・」
恭子と業者の他愛のない話が続く。
恭子と業者がやりとりをしている間、大輔はケンに(手に持っている)「メモリーカードは大丈夫か?」という合図をする。
ケンは、手にしたメモリーカードをバレないように口で飲み込み、「何もない」と手を広げ、ニッコリ微笑む。
大輔は微笑んでうなづく。
業者「それじゃ、連れて行きますよ」
業者がケンの腕をつかむ。
ケンが大輔や恭子の方へ顔を向ける。
ケン「ありがとうございました。このご恩は、これからも忘れません」
業者「(恭子や大輔に)お宅、いい教育できてるねぇ」
大輔「じゃぁね」
業者がケンを連れて出ていく。
ケンの顔は、ずっと大輔の方を向いている。
大輔もケンを見ている。
玄関のドアが閉まる。