兄戻る
○住宅街/午前
ゴミ回収車が作業をしている。
トオル(22歳)が歩いてくる。
○アパート外観/午前
二階建てアパート。
トオルが立ち止まりアパートを見ている。
○アパート階段/午前
階段を上るトオル。
○アパート廊下/午前
トオルがドアの前で立ち止まり、ドアをノックする。
ドアの向こうから、女性の「はい」という声。
ドアが開き、神永登代子(48歳)が顔を出す。
お互い、動きが止まる。
トオル「トオルです、久しぶり」
登代子「ああ、トオルかい!父さん、トオル、トオルが還ってきたよ」
登代子が招き入れる。
○アパート室内/朝
1LDKの室内。
リビングで神永真一(54歳)がテレビを見ている。
登代子が玄関から入ってくる。
登代子「お父さん、トオルが戻ったんだよ」
トオルが後から続いて入って来る。
トオル「父さん」
真一がトオルを見る。
真一「トオルか・・・」
トオル「トオルです」
真一がテレビを消し、立ち上がる。
トオル「今日、仕事は?」
真一がトオルをじっと見る。
真一「今日は休みだ」
トオル「そうですか」
真一「飯は食ったのか?」
トオル「まだです」
真一「じゃ食ってけ、母さん、トオルに食い物を。あとビールも」
登代子「朝からビールなんて、ねぇトオル」
トオル「いただきます」
真一「だよな、今日くらいはいいじゃないか」
登代子「父さん、嬉しそう」
○アパート内/夕方
テーブルの上に食事やビールの後。
トオルに向かって真一と登代子が楽しそうに話をしている。
真一「・・・あの時はトオルに助けてもらったなぁ、幸恵も小さかったし」
登代子「まだ、おしめの頃」
トオルが微笑んでいる。
トオル「じゃぁ、父さん、母さん、そろそろ。用事があってね」
トオルが立ち上がる。
真一「なんだ、泊まってかないのか?」
トオル「また、来るから。今度はゆっくりする」
登代子「幸恵にも会ってないじゃない」
トオル「元気だって伝えておいて」
玄関のドアが開く音がし、人が入ってくる音。
神永幸恵(14歳)がリビングに顔を出す。
登代子「よかった、幸恵、お兄ちゃんが来てて、ちょうど帰るところ」
トオルと幸恵が見つめあう。
トオル「幸恵、背が伸びたな」
真一「今度は、幸恵の勉強をみてやってくれ」
トオル「勉強、頑張れよ」
○アパート外観/夕方
登代子の声「次、いつ戻ってくるの?」
トオルの声「なるべく早く」
登代子の声「あんな元気なお父さん、久しぶりなんだから、お願いよ」
○アパート・リビング内/夕方
幸恵が一人で残っている
玄関の方から真一たちの声。
真一の声「体に気をつけろよ」
トオルの声「うん、じゃぁ」
ドアが閉まる音。
真一と登喜子が戻ってくる。
幸恵「ねぇ、今の誰?」
幸恵が寝室の仏壇を指さす。
○仏壇/夕方
仏壇に飾ってある写真は、トオルとは似ても似つかない青年の遺影。
○リビング内/夕方
幸恵「あの人、トオル兄ちゃんじゃないよ。兄ちゃんは、もう、いない、トオル兄ちゃんは、津波に、津波に流さ(泣き出す)」
登代子が幸恵を後ろから抱きしめる。
真一が幸恵を見つめ、何度もうなづく。
○仏壇/夕方
さっきのトオルとは別人の青年の遺影。
真一の声「いいんだ、いいんだよ」