劇症花粉症
○病院内/昼
病人たちが横たわるベッドが並ぶ病室。
病人たちが激しく咳込む音。
防護服を着たスタッフたちがガーゼや薬を手にして歩いている。
ベッドの上の人々は全身を覆うように水膨れの炎症を起こし全身に血が滲んでいる。
○研究室/昼
研究員Aがモニターを見ている。
教授Bが電話をしている。
教授B「ええ、突き止めました。この後、データを送りますが、原因は、杉花粉の変異です。このタイプの花粉の抗体を持つ患者の肌が過剰な反応を示すようです(相手の話を聞いている)はい、遺伝子を解析した結果から、遺伝子操作で作られた新種のバラがありましてね、10年程前から栽培されているようですが、その遺伝子に関連があるのかと。(相手の話を聞いている)いや、自然に存在する花粉の交配では、このような変化は起こりえないですね」
○塚原家玄関前/朝
ジャージ姿の塚原洋子(19歳)が玄関前に立っている。
洋子「父さん、今日、どっちの山?」
奥から塚原清(50歳)の声。
清の声「ミタラ山の方やな」
奥から塚原美代(48歳)の声。
美代の声「洋子、弁当は」
洋子「持ったよ」
ハイエース(車)がやってくる。
洋子「ねぇ、組合の車が来たよ」
奥から清が出てくる。
車が玄関前で停まる。
車の中には防護服を来た男たち。
防護服の男たちが出てくる。
防護服の男「塚原さんですね?」
清「そうですが、何事ですか?」
防護服の男「町まで、同行お願いしたい」
清「え?なんですか?」
防護服の男「まだ詳しくは言えませんが、政府の通達が出ている行政命令に応じていただきたい」
清「はぁ、なにか悪いことでも?」
防護服の男「とにかくご同行願いたい。拒否をすれば罰せれらることになります」
清「えぇ?」
○塚原家居間/夜
炬燵、仏壇の置かれた昔ながらの居間。
洋子、清、美代が炬燵に入って話をしている
清「もう、30人位死んどるそうだ」
洋子「でも、うちの山から飛んだ花粉だって証拠はないでしょ」
清「どの山の花粉かは分からんから、そうやるしかないやろうけど」
洋子「イヤ。イヤだからね、木をなくすなんて」
清「仕方ないんよ、それに・・・」
洋子「それに?」
清「保証も出るっていうし」
美代「お前の学費の心配なくなるのよ」
洋子「お金の問題じゃない。父さん、母さんを思って、農学部に行っとるんやから、バイトでも何でもするわ。それにほら(仏壇を見て)じいちゃんが生きとったら、どう言うと思う?」
清「そうやけど」
洋子「私たち何でもないんだよ、くしゃみも鼻水も出てない。治療法があるはずじゃない、おかしいって絶対!」
清が頭をかく。
○林/朝
チェーンソーを手にして防護服に着た人々。
発火材と着火機を持った防護服の男。
防護服の男A(チェーンソーを持っている)「一つ一つ切っとったら、何年かけても終わらんぞ。火、使おうよ、役人さん。許可は出とんのやろ」
防護服の男B(着火機をもっている)「これ使ったら、どれくらいで終わりますか」
防護服A「4、5日もすれば丸焼けになる。役所が1週間でやれって言いはるなら、燃やさな無理よ」
防護服B「そうか」
洋子の声「待ちなさい!」
作業着姿の洋子、清、美代が近づいてくる。
洋子「これはウチの山です!やめてください」
作業着B「国からの執行命令が出ています」
洋子「ここはウチの家が代々守ってきた土地です(作業員Bが手にした着火機を目にして)勝手に山を燃やす気ですか!」
作業員A「姉ちゃん、仕方がねぇんよ、人が死んどるんやし」
作業員Bが着火機を下に置く。
洋子が落ちている石を手に取り、腕を傷つける。
洋子の腕に血が滲む。
洋子「私たちを見て!防護服も着てないし、咳もしてない。この血を調べてください、治療法はあるはずです!」
清と美代が洋子をかばうように、洋子の前に出てくる。
清「娘がすみません。でも、もう一度、考えてもらえないでしょうか?」
作業員Aが作業員Bへ話かける。
作業員A「さっさと火をつけちまいな」
洋子が清たちを押しのけて前に出て来る。
洋子「あなたたちは、どうして自然を変えようとするんですか、どうしてあなたたちが変わろうとしないんですか」
作業員Bが下に置いていた着火機を手に取る。