卒業ステージ
○高級ホテル外観/夜
○ホテル室内/夜
資料を見ている手元。
資料には「峰岸浩二 38歳 青年実業家 伝通・田島氏より紹介 初回」その下に「希望衣装 ”大好きだよ” ”さよなら、こんにちは” ”ハッピーサッド クリスマス”」という選択項目があり、なにも選択されていない。
○高級ホテル廊下/夜
男(45歳)の誘導で峰岸(38歳)が歩いている。
男「そうですか、田島様のご紹介で」
峰岸「初めてなんで緊張してますね」
男「ご心配なく、ご満足いただけるステージになるはずです」
男が部屋の前に立ち止まり、ドアをノックする。
ドアが開き、隙間から理子(38歳)の姿が見える。
理子「はい」
男「で峰岸様、素敵なステージをお楽しみください。ごゆっくり」
峰岸がドアの中に入っていく。
男はドアの外から峰岸を見送る。
○高級ホテル室内/夜
ソファとベットのある室内。
峰岸がアイドル歌手のような衣装を着た理子を見ている。
理子は峰岸を見て、目線をそらす。
峰岸「わかった?」
理子「やっぱり・・・」
峰岸「探したよ」
理子はベットの方へ歩き、座る。
理子「ごめんね」
峰岸は理子を見ている。
理子が明るく話しかける。
理子「どうする?シャワー?」
峰岸は息を漏らす。
峰岸「ああ」
○バスルーム
裸の峰岸とバスタオルで体を隠す理子が入って来る。
理子「恥ずかしいから、見ないでよ」
峰岸「初めて裸になるんじゃないんだから」
峰岸がシャワーからお湯を出す。
理子「だって恥ずかしいよ、お腹に肉ついちゃって、あの頃と違うんだもん」
峰岸「狭かったよな、俺んちの風呂」
理子「ふふ」
峰岸が理子をバスタオルをとる。
理子が腰回りを手で隠す。
峰岸「変わってないじゃん、あの頃と」
理子が峰岸にキスをする。
理子「まだ怒ってる?」
峰岸が理子にキスをする。
峰岸「もう忘れたよ」
理子がシャワーを手に取って峰岸に湯をかける。
理子「あのまま売れなかったら、良かったのにって」
峰岸「ん?」
理子「たまに思うことがある。売れないアイドルのまま終わってたら、ずっとコー君と続いてたのかなって」
峰岸が理子を抱きしめる。
峰岸「最終的に決めたのは理子だろ」
理子「仕方なかったのよ、事務所が」
峰岸は理子の手からシャワーを取る。
峰岸「もう怒ってないから」
キスをする二人。
○ベット
峰岸と理子はセックスを終え、話をしている。
理子「グループが売れたのは、私たちを売る為なのよ」
峰岸「都市伝説だと思ってた。でも、どうしても理子に会いたくてさ、情報を集めて行くに、本当にグループで売春してるって知った時、びっくりしたよ」
理子「あの番号が指名番号だったし・・・。センターに選ばれた後だったかな、最初に客がついたのは」
峰岸「俺と別れた後だ」
理子「そうよ、コー君と付き合ってた時は、ずっと断ってたんだから。でも、この世界で生きて行くって決めたからには、避けられなくなって」
峰岸「そして、今もやってんだ」
理子「年とったアイドルなんて、めったに呼ばれないよ。今日で、今月2回目かな」
峰岸「生活できてんの?」
理子「私、いくらだった?」
峰岸「50万」
理子「いろいろ引かれて、こっちには15万くらい」
峰岸「領収書の明細、ステージ代になってたね」
理子「ライブ扱いなの、お客さん一人の」
峰岸「でも理子には感謝してるよ」
理子「どうして?」
峰岸「社会的地位と金があれば、もう一度会えるって知ってからさ、真剣に仕事を取り組めた。今の自分があるのは、理子のおかげ」
理子の表情が明るくなる。
理子「ほんと?」
峰岸の表情が真面目になる。
峰岸「あの、お願いがあるんだけど」
理子「なに?」
峰岸「ステージを見せてくれない?」
理子「ここで?」
峰岸「ああ」
理子「よくいるのよ。歌ってくれっていうお客さん、何がいい?」
峰岸「特別なステージ」
理子「え、特別って?」
峰岸「卒業ステージ」
理子「卒業?」
峰岸「辞めないか、こんな世界」
理子の表情が固まる。
峰岸「一緒なろう、20年間、待ってた。あの頃の理子に戻ってやり直そう」
固まったままの理子。
理子「・・・」
うつむく理子。
峰岸は理子をじっと見ている。
○ライブハウス/夜
キャパ200人程度のライブハウス。
曲に合わせて盛り上がる中年男子たち。
男子たちの手やTシャツには「祝KAB復活」、「KAB再生委員会」などの文字。
ステージ上で、理子が満面の笑みを浮かべて歌い踊っている。