ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

最終選考

国際会議場前/朝

スーツ姿の佐緒里(28歳)が階段を上がっている。

 

○同ロビー内/朝

入口のロビーを佐緒里が歩いている。

外人が数名行き交う。

 

○同ホール内/朝

佐緒里が入ってくる。

ホール前方にはステージがあり、野球のバット、ローラースケート、ラケット、ピケ(登山用具)、レスリングシューズなどがおかれている。

ステージの周りで白人男性2名、アジア系男子1名、黒人女子1名が待っていた。

皆、スーツ姿である。

佐緒里が辺りを見回す。後方の座席には誰もいない。

ドアが開き、スーツ姿の黒人男性が1人、アジア系男子が1人、白人女子が1人が入って来る。

集まった8人は徐々に近づき、英語やジェスチャーでコミュニケーションを始める。

肩をすぼめて「どうなってるの?」というポーズをする者たち。

 

スピーカーからブザーの音。

スピーカーから英語、フランス語、日本語、ロシア語など四カ国語に同時通訳されたアナウンスが聞こえてくる。

 

アナウンス「本日、ここに集まった8名、昨年度のアメリカ西海岸カレッジリーグ本塁打王ミック・ロジャース」

大柄の白人男性ミック(21歳)が軽く手を挙げる。

「欧州クライミング選手権・四連覇ソフィ・ムーア」

しなやかな体つきの白人女性ソフィが皆に向かって微笑む。

アナウンス「ロシア空手選手権無差別級王者ニコライ・アリフノフ」

熊のような体型の白人男性ニコライ(28歳)が押忍のポーズをする。

アナウンス「世界ローラースケート選手権優勝スティーブ・アレン」

スリムな黒人男性スティーブ(22歳)が手を挙げる。

アナウンス「スカッシュ世界ランキング2年連続1位アダム・チェン」

中肉中背のアジア系男性アダム(26歳)が親指を立ててポーズを取る。

アナウンス「レスリング女子3大会連続金メダル吉田佐緒里」

佐緒里は皆に向かって手を振る。

アナウンス「昨年度世界武術選手権・成人女子の部優勝フラワー・メア」

大柄の黒人女性フラワー(24歳)が武術の型を見せる。

アナウンス「ウェークボード・パシフィック選手権2連覇ニック・チャン」

陽に焼けたアジア系男性ニック(30歳)が手を挙げる。

アナウンス「以上、その競技を代表するアスリート8名。皆さんは、競技をオリンピックに残すアピールをするためにお越しいただきました。生き残りをかけた8競技、このホールから出ることができる選手は一人だけ。IOC委員があなたたちを審査しています。最後の一人が決まった時、扉が開きます。では、皆さんの活躍を期待しています」

選手たちは手のひらを上に向け、肩をすぼめて「なんだ、これ?」というポーズ。

 

○同ホール内/昼

仲良く話をする者、一人寝転がっている者、ボールで手遊びをしていたりする者。

そんな光景をぼんやりと見ている佐緒里のお腹が「グ〜」と鳴る。

 

○同ホール内/夕方

ミックはスピーカーの方に向かって英語で「どうなってる!」と叫んでいる。

ニコライが怒り口調で独り言をつぶやいている。

ソフィとフラワーと佐緒里は疲れた表情で並んで座っている。

ホール内にジョボジョボという音が響く。アダムが壁に向かって放尿をしている。

 

○同ホール内/夜

ホール内は照明が点いている。

8人はジッとしたまま動かない。

スピーカーから四カ国語でアナウンス、皆が起きあがる。

アナウンス「おわかりですか?これは冗談ではありません、最後まで生き残らなければ扉は開かない本当のサバイバルです。あなたたちには世界中の競技者たちの夢が託されています。夢を潰さないで下さい」

ミックがスピーカーに向かって叫ぶ。何も反応がない。

 

○同ホール内/朝

佐緒里が喧嘩の声で目を覚ます。

フラワーがミックの体を引き留めている。

ミックはフラワーを払いのけ、バットを手に取る。

フラワーはミックに「止めろ」と注意する。

佐緒里とソフィはフラワーの方へ近づく。

ミックがバットでフラワーの太股を強打する。

ソフィが叫び声をあげる。

ソフィを落ち着かせる佐緒里。

フラワーが罵りの声をあげながら、フラフラとミックに近づく。

ミックがフラワーの反対の太股を強打する。倒れて動けないフラワー。

フラワーに佐緒里が駆け寄る。

ミックが佐緒里に向かってバットを振りかぶる。

佐緒里はタックルでミックを倒し、体を離す。

佐緒里は立ち上がりフラワーの方へ向かう。

フラワーが「後ろ!」という合図。

再びミックが佐緒里にバットを振りかぶっている。

佐緒里はタックルでミックを倒し、覆い被さり、腕関節を逆に取る。

佐緒里は動きを止め、ミックを睨む。

二人はしばらく睨み合った後、心が通じたような表情、佐緒里が力を緩める。

その瞬間、ミックの顔面に靴がめりこみ、佐緒里の顔に鮮血が飛ぶ。

ニコライがニックの顔面を踏みつぶしていた。

佐緒里がニコライを突き飛ばす。

ニコライは少しだけ後ずさりして、空手の構えをする。

 

スピーカーから拍手の音。

動転した表情のソフィはホールの壁をロッククライミングの要領で登り始める。

佐緒里はフラワーを抱えてホールの奥へ逃げる。

ローラースケートを履いたスティーブも奥へ逃げる。

ニコライはステージ近くに残っていたニックに近づく。

ニックはニコライに諭すように話しかける。

ニコライは間合いを詰めていき、連打でニックを仕留めた。

ニコライは壁を登るソフィを見つけ、見上げている。

ラケットを手にしたアダムが「ヘイ」とニコライに声をかける。

 

床に転がるボールを手にしたアダムがソフィめがけてボールを何発も打ち込む。

耐えるソフィ。

佐緒里がアダムに近づきタックル。

佐緒里はアダムから手を離す。

佐緒里から後ずさりするアダム、その背後にニコライが回り込み、後頭部に拳を打ち込む。

アダムが崩れ落ちる。

壁を捕まえるソフィの指が震えている。

ソフィの指が離れる。

ホールにローラースケートの音が鳴り響く。

スティーブ「イェース!」

スティーブが猛スピードでソフィの落下地点に走り込む。

間一髪、スティーブはソフィを受けとめる形で下敷きになる。

下になったまま、スティーブは動かない。

ソフィがスティーブを抱きしめる。

ニコライがソフィの方へ駆け寄る。

ソフィは怒りの形相でニコライに向かう。

ニコライはソフィを吹き飛ばし、ソフィは意識を失う。

 

ニコライは、ゆっくりと振り返り、佐緒里の方へ歩いてくる。

佐緒里は身構え、距離をみてニコライにタックル。

ニコライはタックルを見切って離れる。

佐緒里はもう一度タックルに入るが、再び逃げられる。

三度目のタックル。

佐緒里はニコライに捕まり、うつぶせの上に乗られてしまう。

体を丸めた佐緒里の背中めがけて、ニコライが容赦なく突きをくらわす。

耐える佐緒里が苦悶の表情。

 

ボコッという鈍い音が響く。

佐緒里の表情が「何?」へと変わり、ゆっくりと顔を上げる。

直立不動のニコライが左右に揺れ、バタリと倒れる。

ニコライの後ろにはバットを持ったミックが立っていた。

ミックは佐緒里にうなづき、倒れる。

佐緒里が立ち上がり、呆然とした表情でホールを見回す。

傷ついた選手たち。

 

扉が開く。

扉の向こうにはIOC委員たち。

委員は拍手をしながら入ってくる。

委員長が佐緒里に話しかける。委員長の隣の女性が日本語に同時通訳。

女性「おめでとう。これぞオリンピックです。私たちは、次の選考から、この闘いを全世界の人たちに中継すべきだと話をしていたところです。今、レスリングの未来は(話続く)」

佐緒里は委員長の話を無視して会場を後にする。

 

○家外観/夜

 

○リビング/夜

テレビがついている。

テレビはオリンピック中継番組。

アナウンサー「期待されていた女子レスリング、日本人選手は銀メダル1つに終わってしまいましたが、よく頑張りました」

コメンテイター「それにしても吉田選手の突然の引退が悔やまれますね」

アナウンサー「まだまだ金を狙える実力はありましたからね」

コメンテイター「出てれば確実だったでしょう」

玄関のドアが開く音。

テレビのスイッチが切れる。

座っていた母親が立ち上がり、廊下へ出る。

廊下から聞こえる声。

母親の声「おかえり」

佐緒里の声「慣れない仕事は大変」

母親の声「食事は?」

佐緒里の声「着替えてから、食べる」

階段を上がる音。

母親「あ、伊藤さん」

足音が止まる。

母親「銀だってよ」

階段を上がる音。