ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

あの日から

○山間(昼)
山間、車が一台通れる程の道。
桜庭啓介(28歳)が自転車を押しながら登っている。
啓介には無精髭、疲れた表情を浮かべている。
啓介の自転車はママチャリで、カゴの中には空になったペットボトル数本と地図帳が入っている。

○道(昼)
啓介が登っている道の端に畑。
啓介が畑仕事をしている香坂八重(70歳)を見つける。
啓介「すみませーん!」
八重が手を止めて啓介を見る。
啓介がペットボトルを手に持って話しかける。
啓介「この辺りに川か井戸ありますか?」
八重が笑顔を浮かべて近づいてくる。
八重「どっから来たの?」
啓介「東京から」
八重「東京から!水ならウチにおいでなさい。食べ物は?」
啓介「いや・・・」
八重「食べてきな」

○八重の家/外観(昼)
山間の小さな一軒家。
近くには壊れかけた廃屋が数軒ある。
ムシャムシャと食事をかきこむ音。

○同/台所(昼)
啓介が、ご飯と漬け物をむさぼるように食べている。
八重「そんなに急がんでも」
啓介が水を飲み干す。
啓介「生き返った〜、3日前にポテトチップを食べて以来です」
八重「どうなっとるの、そっちは?」
啓介「こっちは?こっちも揺れました?」
八重「そりゃ揺れはしたたけども、東京の方が凄かったって」
啓介「ええ、もう何もかも壊れて、止まってます、電気も、水道も」
八重「ここも、そうよ、テレビも映らんし、ラジオも聞こえんし、なんもわからん」
八重が電話を見る。
電話は旧式のプッシュホンである。
八重「電話も止まってしもうて」
啓介「2日ねばったんですけど、地震が続くばっかりで、復旧の気配もないし、こりゃ田舎に帰ろうって」
八重「田舎は、どっち?」
啓介「上沢です、魚津の」
八重「魚津!わぁ、まだまだあるよ」
八重が柱時計を見る。
時刻は午後3時。
八重「今日は泊まってきなさい、じきに日が暮れる、先は長いんだから」

○同/庭(夕方)
八重と啓介が焚き火を使って炊飯を行っている。
啓介「前の道を通って避難する人、いませんでしたか?」
八重「あぁ、一昨日やったかなぁ、家族で下ってきよったよ」
啓介「下って?新潟の方から?」
八重「裏日本も、ひどく揺れたっていうて」
啓介「田舎の方、大丈夫かなぁ」

○同/台所(夜)
八重がロウソクの火をつける。
啓介「ロウソク・・・、東京だとロウソク1本も奪い合いになってて」
八重「ロウソクが?」
啓介「電気がないでしょ、電池も売り切れて、火がないと」
八重「はい、座って」
啓介と八重がイスに座る。
啓介「いただきます」
啓介と八重が食事を始める。
八重「田舎は自給自足できるしね」
啓介「魚津に戻ろうと思ったのも、それで。東京は、なんでもかんでも奪い合いで、住んでた練馬っていうも田舎だと思ってたんですけど、そこも、そんな状態で」
八重「練馬?練馬やったら、香坂晋平って知らんね?」
啓介「いえ・・・」
八重「ウチの息子が出てってきりでね、一回、ハガキが来たら、確か練馬って」
八重が立ち上がり、電話台の引き出しを開ける。
八重がハガキを取り出す。
ハガキは古く黄ばんでいる。
八重がハガキを見ながら話す。
八重「最後に戻ってきてから、もう10年以上も音沙汰のないんよ」
啓介がハガキをのぞき込むと、住所には「豊島区」の文字。
啓介「豊島区ですか・・・」
八重「練馬とは違うの?」
啓介「まぁ、隣の区ですけど・・・、豊島区はビルも人も多い街で」
八重がじっとハガキを見ている。
啓介「でも、練馬の方まで避難してきてた人もいましたよ」
八重がハガキを見ながら話す。
八重「仕事があるんだって、家を出てってから、何をしとんのやろ」
啓介がハガキを見ながら話す。
啓介「これ、だいぶ前の住所ですよね、もうここにはいないかもしれないし」
八重「無事なんやか・・・」
啓介が食事を続ける。

○山間(朝)

○八重の家/家前(朝)
啓介と八重が立っている。
啓介の自転車のカゴには水の入ったペットボトルと紙袋。
啓介「助かります、食事までもらって」
八重「魚津まで、持てばいいけど」
啓介「これだけあれば、なんとかなりますよ」
啓介が自転車のスタンドを倒し、押し始める。
八重「裏日本も無事やったらいいけど」
啓介「そうですねぇ・・・」
八重「気ぃつけて」
啓介「ありがとうございました」
啓介が八重の家を後にする。
八重が啓介の後ろ姿を見ている。