ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

怨魂師(3)

○車中(夜)
阿部が車を運転している。
橘が助手席に座っている。
橘「人型の儀、初めてなんです」
阿部「使ったことはあるんだろ?」
橘「最初についた先生に立ち会って」
阿部「平常心、心を乱すと、そっちに来るぞ」
橘「はい」
橘が(緊張をほぐすように)小声で何かを唱える。
阿部「ま、うまくいくだろう」
橘が顔を上げる。
阿部「さっきから信号で青が続いてる」
橘が微笑む。
橘「よく決心しましたよね」
阿部「早川さん?」
橘「ええ」
阿部「救いだよ」
橘「え?」
阿部「あのままじゃ、救われない、分かったんだろ」
橘「奥さんと子供が」
阿部「いや、自分自身、自分の魂、永遠の苦しみから抜け出せない」
橘が答えない。
阿部「あそこでいいんだよな?」
橘「はい」

○早川宅・リビング(夜)
テーブルの上に早川の妻や娘の写真が置かれている。
スーツ姿(正装)をした早川が土下座をしている。土下座の先に妻や娘の写真。
早川の携帯の着信音(すぐに切れる)。
早川が立ち上がる。
早川が家族で映った写真を一枚、胸元に入れる。

○道路(夜)
人通りのない道。
阿部と橘が乗った車が停車している。
歩いてきた早川が車のドアの窓を叩く。

○車中(夜)
走行中の車内。
運転席に阿部、助手席に早川、後部席に橘が座っている。
早川が遠くを見つめ、静かにしている。
阿部と橘も会話をしない。

○山中(夜)
満月の空。
月光に照らされた山中。
ロウソクの灯がともされている。
橘が木の箱を阿部に差し出す。
阿部が箱の中から紙で織られた人型を取り出す。
阿部が人型に何かを唱える。
早川が阿部を見ている。
唱え終えた阿部が早川に人型を見せながら話す。
阿部「肉体を離れた魂の、新しい拠り所です」
早川「それが?」
阿部「儀式を通じて、早川さんの怒り、怨み、怨念、全てこの中に封じ込めるんです」
橘「現世に未練を持った魂は、永遠に成仏できません」
阿部「怨みを持った魂を正しく成仏させるのが、私たちの仕事です。安心して怨んで下さい、心の底から憎んで下さい、あなたを苦しめた人を」
阿部が人型を早川に渡す。
橘「その人型に念を込めるんです」
早川が人型を両手で強く握りしめる。
早川がゆっくりと歩き出す。
早川の先には足踏み台となる箱、箱の上には首吊りの輪が木から下がっている。
早川の顔は蒸気立ち、怒りの表情である。
阿部は手を合わせ、何かを唱えている。
橘は冷静に様子を見ている。
早川がゆっくりと箱に足をかけ、輪に首を通す。
早川の表情が一層険しくなる。
阿部の唱える声が大きくなる。
早川がうなづく。
早川が乗っていた箱を蹴り飛ばす。
早川が宙に浮く。
阿部の唱える声が、より大きくなる。
早川は怒りの表情を浮かべたまま動かなくなる。
早川の両手には人型が握りしめられている。
阿部が気合いの声と共に九字(祓い)を切る。
阿部が小声で唱え言葉を発しながら早川に近づき、早川の手を開き、人型を手にする。
阿部が早川に礼をする。
橘が阿部に話かける。
橘「終わりですか?」
阿部「ああ、彼の魂は、この中にある」
阿部が人型を見せる。

○車中(早朝)
走行している車内。
運転席に阿部、助手席に橘。
外は夜が明け始めている。
阿部「初めての儀式、疲れただろ」
橘「え?はい」
阿部「まだ、本番用の道具の準備ができただけ、だから」
橘「はい、分かってます」
阿部「今日はこの後、しっかり休んで」
橘「はい」
阿部「ここから先は命を落とすこともある、引き締めて来い」
橘「がんばります」

(続く)