ニュースを読んで適当にシナリオを書き散らかすブログ

ニュースにザッと目を通して、20分くらいでガッと書き飛ばします。

終わらない夏休み

○公園(夕方)
街頭が灯り始めた公園。
広い園内には散歩道が敷かれている。
散歩道を行く人の数は少ない。
道脇に背の低い木々。
伊藤聖哉(9歳)が辺りを見回しながら歩いている。
自販機で缶コーヒーを買っていた高橋弘(59歳)が遠くを歩いている聖哉に気づく。
高橋はTシャツに半ズボン姿のラフな格好。
高橋は聖哉の動きを見ている。
聖哉が足を止め、木々の中へ入っていく。
高橋は聖哉の方へ歩き始める。
高橋が聖哉が木々の中へ入っていった場所で立ち止まり、中をのぞき込む。
聖哉が飛び交う蚊をはらうように手を動かしながら寝ころんでいる。
高橋「なにやってんの?」
聖哉が奥に入っていく。
高橋「こんなとこヤブ蚊の巣だぞ」
聖哉が驚いて立ち上がる。

○夜空
陽が暮れ、空には星が出ている。
聖哉の声「今日で終わるし」

○公園/ベンチ(夜)
聖哉と高橋が座っている。
高橋「そりゃ、始まりがあれば終わりがあるよ」
聖哉「宿題も終わってないし」
高橋「今からやりゃいい」
聖哉「もう間に合わないし」
高橋「なんとかなるよ」
聖哉は答えない。
高橋「・・・にしても、家に戻らなきゃ、夏休みが永遠に続くってのは子供らしくて面白いな」
高橋が缶コーヒーを差し出す。
高橋「飲むか?」
聖哉が首を横に振る。
高橋「・・・いや、実はな、おっちゃんも、その手を使ったんだ」
聖哉「ん?」
高橋「おっちゃんもな、夏休みのまま、学校に行くのを辞めてな、ずっと家に帰らずに一人」
聖哉「ほんと?」
高橋「ああ。でもな、一人で生きていくのはツラいぞ」
聖哉「なんで?」
高橋「母ちゃんがいないだろ、メシが食えない、どうするメシは?」
聖哉「なんとかするよ」
高橋「金もないくせに、何を食うにも金がいるんだぞ。どうする?ゴミ箱あさるか?」
聖哉「う〜ん」
高橋「残飯が出てこない時もある、その時はな、スズメを捕まえて食ったし、虫だって食った」
聖哉「虫?」
高橋「ああ、コオロギとかセミとか」
聖哉「食べられるの?」
高橋「食えるもんか、くそマズい、腹も壊すし、死にかけたよ」
聖哉「ほんと?」
高橋「あぁ、そこら辺の雑草も片っ端から食ったな、マズくて食えるもんじゃねぇけどな」
聖哉が黙る。
高橋「そりゃ、ずっと夏休みが続きゃ嬉しいよ、でも、今、おっちゃんは乞食だぞ、ルンペンやってんだから」
聖哉は応えない。
高橋「どうだ、ずっと夏休みを続けてみるか、一緒に?」
聖哉が立ち上がる。
高橋「帰る?」
聖哉「うん」
聖哉が公園出口に向かって歩き始める。
高橋「宿題、頑張れよ」
聖哉が振り向かずに応える。
聖哉「うん」
高橋が聖哉の後ろ姿を見ながら、コーヒーの缶を開け、コーヒーを飲む。